氷川家の台所 ※おまけ話有り
「はあぁ…京ちゃん…。」
私は部屋着の上にフリル付きのピンクのエプロンを身に付け、夕食の手伝いで、ポテトサラダ用のじゃがいもをザクザクとつぶす作業をしながら、京ちゃんの事を考えていた。
ザクッザクッザクッ…。
私の頭を撫でてくれた大きくて温かい手の感触…。
とても気持ちよくって幸せだったなぁ…。
今日は、剛田先輩をぶっ飛ばすところ見られちゃったな。
駄目な私を叱りつつ、こんな何度もやらかすような女を見捨てないでいてくれた。
ザックン、ザックンザックン…。
それにしても、何度もパンチラしていたなんて恥ずかしかったなぁ。
私、京ちゃんの前では、ガード緩んでるのこな?そんなに短いスカート穿いてない筈なのに…!今度から気をつけなくっちゃ…!
ザクザクザックン、ザクザクザックン…。
「…いこ、芽衣子!じゃがいも、ボールからこぼれてる!」
「はっ!」
お母さんの声に、気付くと潰したじゃがいもが半分くらいこぼれて、床に飛び散ってしまっていた。
「ああっ!ごめん。お母さん!」
「いいわよ。後はお母さんがやっておくから、芽衣子は、これ、リビングに持って行って?」
お母さんは苦笑いしながら、私にお茶と家族全員分のコップを載せたトレーを手渡した。
「ハ、ハーイ。」
私はしょんぼりと、リビングに向かった。
静くんが、ソファーでくつろぎながら、珍しく笑みを浮かべて、メールを打っているところを見てしまった。
はーん。メールの相手は彼女の新庄さんだな?
「静くん、相変わらずラブラブだねぇ。」
ニヤニヤしながら、声をかけると、いつものように罵声が飛んできた。
「バカ芽衣子、キモッ。大体美湖じゃねーよ!相手、矢口さんだよ!」
?!
「え、京ちゃんから?何で!?」
「あっ、オイ、勝手に…!」
静くんのスマホの画面を覗き込むと、本当にメールの相手は京ちゃんで、何軒かのラーメン屋さんの情報をホームページのURL付きで、送ってくれているようだった。
「な、なんで嘘コクデートをした私より先に弟の方がメールをもらっているの?!」
「嘘コクデートだったからだろうよ。アホが!」
「ぐう…!」
動揺してパニクるも、正論を返され、ぐうの音しか出ない私。
「あんないい人、いつまでも振り回してんじゃねーよ?告るなら告るでちゃんとしろよ?」
「そ、それは分かっているけど、まだその時期じゃないというか…。」
今日の静くんは、やけに、いっぱしの事を、言うな。姉の立場がないよ。
「ハァ。とんでもねー事しでかす割には肝心のところでチキンだな。
試合の日、お前見学に来るんだろ?矢口さんも呼んだらどうだ?コレ、チラシ。」
静くんはテーブルの上にキックボクシングの試合の概要が書かれたチラシを置いた。
「あ、ありがとう!いいの?」
「ああ、美湖もその方が安心するだろうしさ。」
ああ、嘘コクデートの時、新庄さんに私達の仲を疑われてたもんね。
そう言えば、あの時気になっていた事があったんだよな。
「静くんさぁ、喫茶店で私が京ちゃんの事で怒っていた時、新庄さんに耳打ちしてたけど、何を言ったの?その後、新庄さんの態度がコロッと変わった気がするんだけど。」
「ああ。矢口さんへの悪口はすぐ取り消した方がいい。俺は前に、それやって芽衣子に半殺しの目に遭った事があるって言ったんだ。」
「ええ?そんな事言ってたの?いくら私でも、女の子殴ったりしないし!静くんにそんなひどい事した事あった?」
「あった!矢口さんの小さい時の写真見て、ヒョロくて弱そうな奴って言ったら、練習でズタボロにされて、気付いたら、次の日になってた事があった。」
ん?ああ〜、お母さんが再婚して引っ越してすぐの小4ぐらいの頃にそんな事があったような…。
「あの時は、静くん練習に疲れて寝てるんだとばかり思ってた。」
「気絶してたんだよ!」
静くんは噛みつくように言った。
そこへ、夕食を載せたトレーを持ったお母さんが通りがかった。
「何なに?二人で何の話?」
テーブルに置いてあるチラシを見て、申し訳なさそうな顔になった。
「あっ、試合かぁ…。ごめんね、静くん!この日はお母さん、どうしても外せない仕事があって、行けなくて。」
「ああ、いいよ。そんなの。お弁当も無理だったらコンビニ弁当にするし。」
「いえいえ、行けない分せめてお弁当だけは、たくさん作って置いていくからね?」
お母さんは気合いを入れるように、握り拳を作った。
「ああ〜、でも残念だわ!試合も応援したかったし、静くんの彼女さんと、もしかしたら、久々に京太郎くんにも会えるかと期待してたのに!」
「んん?」
私は瞬きを繰り返して、お母さんを見返した。
年齢以上に若々しく、綺麗で、スタイルがよい自慢のお母さん…。
昔からほとんど変わっていない。
それこそ、おそらく小学生位の頃から…。
「だから、静くんの彼女さんと京太郎くんに会いたかったなって事。今度違う機会にそれぞれ家に遊びに来てもらったらどうかしら?」
「ええー。いーよ。別に…。」
静くんが面倒くさそうに答えるのを聞きながら、私の頭の中でゆっくりとこんな図式が出来上がった。
お母さんが、京ちゃんに会う
=即、めーこだと身バレする
「それ、ダメェ!絶対!!」
「??」
私が大声で叫ぶと、お母さんは目を丸くした。
✽おまけ話✽
《めーワンコのしつけ方》
「芽衣子。お手!」
「ワン!」
ポフっ。
「芽衣子。三遍回って、ワン!」
クルクルクル…。
「ワン!」
「よく出来ました!ご褒美!」
「♡♡!クゥンクゥン!!」
ワシャワシャ…。
「いや、あの、笠原さん…?芽衣子ちゃん…?」
芽衣子の親友、笠原真希子のかけ声に従って犬芸をこなし、ご褒美に撫でられ甘えるように鳴く芽衣子〈ワンコバージョン〉を見て、タラリと汗を流す京太郎…。
「さっ。お手本を見せましたので、矢口先輩も呆けてないで、芽衣子に、犬芸&ご褒美のワンセットにチャレンジして見て下さい。」
休み時間、廊下で芽衣子と真希子と行き合った京太郎。
「あれから、芽衣子をナデナデしてあげてますか?」と真希子に聞かれ、
「いや、そんな度々女の子の頭に触れるなんて、出来ないよ。」と答えた京太郎に、
「それはいけませんねぇ!元飼い主から、現飼い主の矢口先輩に、めーワンコの扱い方を伝授してあげます!」と、突如真希子による芽衣子のしつけ方教室が始まってしまったのだ。
「♡♡!!」
やる気満々の真希子、目をキラキラさせる芽衣子に押され、やらざるを得なくなってしまった。
「わ、分かったよ。う、うーん。じゃ、芽衣子ちゃん、お手!」
「わ…ワン!//」
ポフっ。
芽衣子は、恥じらいながら京太郎の手の平に自分の右手を置いた。
「(わ…。柔らかい手だな…。//)め、芽衣子ちゃん、おかわり!」
「ワン!」
芽衣子は、次に左手を置いた。
「よく出来たね?よ、ヨシヨシ…。//」
「♡♡♡!クゥ〜ンクゥ〜ン!」
京太郎に頭を撫でられ、気持ち良さそうに声を上げる芽衣子。
「いい感じですね!!じゃ、次、もう少し動きのあるものにしましょうか。」
「動きのあるもの…?あっ。じゃあ…。」
真希子に言われ、何やら思い付いた様子の京太郎。
「芽衣子ちゃん、チンチン!」
「!!!!」
京太郎の呼びかけに、ビックゥと肩を揺らす芽衣子。
実は、次の嘘コクミッション「襲い掛かってきたところを金蹴りして逃げ出す」をどうやってクリアしたらいいかと悩んでいた芽衣子。
「チンチン」という言葉に過剰反応してしまったのだった。
「うわあぁん!!まだ、それは、まだ心の準備が出来てないので、もう少し待って下さぁいっ!!」
「えっ。芽衣子ちゃんっ?」
「芽衣子っ?」
泣きながら走り去ろうとする芽衣子に大声で呼び止める京太郎。
「ま、待って、芽衣子ちゃん!!やらなくていいから、戻って来て!!ヨシヨシしてあげるから!!」
「ク、クゥン…?(いいの…?)」
その場にピタッと立ち止まり、涙目で、京太郎の様子を窺う芽衣子。
「うん。おいで。芽衣子ちゃん!」
「クゥ〜〜ン!!(京ちゃ〜〜ん!!)」
両手を広げる京太郎の元へまっしぐらに向かうワンワン(芽衣子)。
「ヨシヨシ…。無理な事やらせようもしちゃってごめんね?」
京太郎に頭を撫でられ、幸せそうな芽衣子。
「クゥン…。キュウ〜ン♡♡(ダメワンコでごめんなさい…。でも、幸せ〜♡♡)」
「ちょっと心配したけど、矢口先輩、芽衣子のワンコ語を理解してくれてるみたいですね。もう、私からは何も教える事はありません!!」
「あ、ありがとう…。」
ニッコリ笑った真希子から、めーワンコの扱い方について見事免許皆伝を受けた京太郎であった…。
嘘コク三人目の話はこれで終わりです。間にデート編をはさんだので、ちょっととっ散らかってしまいましたかね(^_^;)
分かり辛かったら、すみませんm(__)m
デート編を抜かして読み直して頂けると分かりやすいかも…。
これまで、「8回目の嘘コクは幼馴染みでした」を読んで頂きましてありがとうございました。
今回、HJ大賞に応募可能な字数を越える為、嘘コク3人目まで公開させて頂きました。
現在カクヨムにて、嘘コク7人目の途中まで投稿済みですので、もし続きが気になる方がいらっしゃったら、こちらもぜひ覗いてみて下さいね。
よろしくお願いしますm(_ _)m