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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク三人目
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その時彼が見たもの

 

 四時限目が終わり、前の方の席のマサと後ろの方の席のスギがそれぞれ逆方向に教室から出ていくのに気付いた。


 浮かれた足取りを見るに、彼女と一緒にお昼を過ごすのだろう。

 俺はそれを見ても、何故か前ほど絶望的な気持ちにならなかった。


 それよりも、今俺が気になっているのは、この後、お昼を誘われている相手、芽衣子ちゃんとどんな顔をして会えばいいのかという事だった。


 土曜日は、芽衣子ちゃんと、当て馬役の嘘コクミッションを試みるもストーカーが現れるわ、彼氏役の静司くん(芽衣子ちゃんの義弟)の彼女が現れるわで、あえなく失敗!

 静司くんと彼女さんの間の誤解は解けたものの、最後は、彼氏役の事で、嘘をついていた芽衣子ちゃんを追求して、号泣させてしまった。


 しかも、俺、「嘘コクに巻き込むのは俺だけにしとけ」みたいな意味合いの事を言って、芽衣子ちゃんの頭をポンとかやらなかったか?

 

おそらく、クラスの女子にやろうものなら、

その場で張り倒され、三か月は、女子達の間でヒソヒソ陰口を言われること間違いなしのフツメンに許されざる言動を、俺は何故、芽衣子ちゃんの前でやってしまったのだろうか…!

 

ああ、でも、一瞬触れた髪の感触、柔らかくて、サラサラだったな…。

 って、俺は何を考えてんだ?恥を知れ!


 俺は机の上に顔を突っ伏して、過去の行状を悔いていると、スマホのメールの着信音が、鳴った。

 芽衣子ちゃんからLI○Eメールが入っていた。

『京先輩。すみません。急用が出来てしまいまして、屋上へ行くの少し遅れます。絶対にお伺いしますので、少し、待っていて頂いても大丈夫ですか?』


 少し顔を合わせ辛いとさえ思っていたし、遅れるのはいいのだが、急用って何かあったのだろうか?


 俺がOKスタンプを送ると同時に、ショートカットの女生徒が、突然教室に駆け込んで来た。芽衣子ちゃんの親友、笠原さんだった。


「や、矢口先輩!芽衣子を…止めて、やって、下さい!」

「笠原さん?どうしたの?」


 息せき切って訴えかけてくる笠原さんに驚いて問い返した。


「さっき、剛原先輩が、またマネージャー勧誘に来て、矢口先輩の悪口言ったから、芽衣子がキレちゃって、サッカー対決で雌雄を決する事になっちゃったんです!」


「はあぁ?何でいきなりそんな少年漫画みたいな展開に?!」


 *

 *

 *


 俺と笠原さんは、急いでグラウンドへと向かった。


「あっ。矢口先輩。芽衣子いました!」


 笠原さんが指を差した先を見ると、

 サッカーゴールの近くに、剛原、少し離れた場所にサッカーボールを足で構えた芽衣子ちゃん、二人の中間辺りに細井の姿を遠目に確認する事ができた。


「芽衣子ちゃ…!」

「芽衣…!」


 言いかけた俺と笠原さんが次の瞬間目にしたものは…!


 周囲に風を巻き起こしながら瞬間蹴り上げられた太もも、ふわりと舞い上がる芽衣子ちゃんのスカート、パンダの絵がプリントされた白いパンツ、そして、恐ろしい勢いで放たれた衝撃波のようなボールが、剛原ごとぶっ飛ばし、ネットにそのまま突き刺さる光景だった。


 剛原はぶっ飛ばされたままの状態で動かなくなった。


「あっちゃー、遅かったか…!!」


 笠原さんは額に手を当てている。


「め、芽衣子ちゃん…?!」


 俺は今見たものが信じられなかった。

 あんなシュート、芽衣子ちゃんが、いや、人間が撃てるもんなんだろうか?


 映画や漫画でしか見たことがないような光景を目の前にして、俺は呆然と立ち尽くしていた。


「やめてーっ!!あんたの「勝ち」でいいわっ!!ごめんなさい!!謝るからから、許してえーっ!!!」


 突然細井美葡の叫び声が聞こえ、我に返ると、剛原と、心配して駆け寄った細井に向けて、芽衣子ちゃんが再びサッカーボールを構えていた。


 さっきの衝撃波を、もう一度食らったら、剛原は病院送りになるかもしれない。細井に当たっても、大怪我以上は必至だろう。


 剛原や、細井を案じているからではない。俺はあんな奴らのせいで芽衣子ちゃんに傷害事件を起こして処分を受けて欲しくなかった。


「芽衣子、もうそれ以上はダメェ!」

「芽衣子ちゃん!!止すんだ!」


 俺と笠原さんは叫ばずにはいられなかった。


 俺達の思いが届いたのだろうか、芽衣子ちゃんは、こちらに気付く様子はなかったが、ボールから離れ、細井の近くに寄り、何か話をし始めているようだった。


 俺と笠原さんは顔を見合わせて頷き合うと、芽衣子ちゃんの元へ急いだ。


 *

 *

 *

 俺達が駆けつけたときには、サッカー勝負も、その後の話し合いも終了しているようだった。


「…では、剛田先輩、細井先輩、あなた方が賢ければ、二度とお会いする事はないものと思いますが、どうぞ私達の知らないところでお幸せに!

 もし、京先輩を貶めるような事があれば、何度でも勝負を挑みに行きますので、その時はまたよろしくお願いしますね?」


 そう言い渡す芽衣子ちゃんは、今まで見たこともないぐらい厳しい表情をしていた。


 剛原もいつの間にか意識を取り戻したようで、細井と青い顔を見合わせている。


「では、失礼しますね…!?」


 芽衣子ちゃんが細井と剛原に背を向けて、歩き出そうとしたところで、ようやく近くに駆け寄ってきた俺と笠原さんに気付いたようだった。


「あれ?マキちゃんと…きょ、京先輩?

 も、もしかして今の見てたんですか…!?」


 驚いた表情になった芽衣子ちゃんは、俺が知ってるいつもの彼女だった。


「あ、うん…。芽衣子ちゃん、あんな衝撃波みたいなすごいシュート打てるんだね?ビックリしたよ。」


「そこから見てたんですかぁ!?

 いやいや、かよわい女の子が衝撃波みたいなってそんなの打てるワケないじゃないですかっ!あれは、風が…、そう追い風があったから勢いが増してそう見えただけなんですよ?」


 慌ててそう言う芽衣子ちゃんに俺は首を傾げた。


「そ、そうかぁ?」


 どんだけ、追い風吹いててもあんな風になるかなぁ…。


 笠原さんが、芽衣子ちゃんに抱きついて、文句を言った。


「芽衣子ぉ。ビックリさせないでよ!細井先輩も一緒にぶっ飛ばして、傷害事件になるかと思った。芽衣子が退学とかになったら、私ヤダぞ?」


「高校生になってまで、そんな無茶しないよぉ。信用ないなぁ…。」


 芽衣子ちゃんは苦笑いしている。


「芽衣子ちゃん。勝負は勝ったという事なのか?剛原は何て?」


「え、えっとー、剛田先輩は、元々ご体調が悪かったみたいで、勝負は有耶無耶になりましたが、もう私をマネージャーに勧誘する意志はないようですよ。」


 芽衣子ちゃんは、俺から目を逸らしながら気まずそうに説明した。


「そ、そう…?」


 体調が悪かった??

 いや、さっきボールでぶっ飛ばされたせいじゃね?

 プライドの高そうな剛原は、女の子にぶっ飛ばされたから、怪我をしたとは言えないかもしれないが…。


 俺は細井の近くに座り込んでいる、剛原の干したヘチマのように青い顔を見遣って苦笑いして呼びかけた。


「剛原、大丈夫かー?細井、保健室連れてくなら、手伝おうか?」

「京先輩?!」


「矢口…!結構よ!元はと言えば、皆あんた達のせいじゃ…や、申し出は有り難いけど、付き添いはあたし一人で大丈夫だから。」


 細井は、俺の顔を見ると、文句を言おうとしたが、後ろの芽衣子ちゃんの顔を見て、途端に勢いを落として丁寧に断ってきた。

 さっきの衝撃波シュートで、二人共芽衣子ちゃんを大分怖がってるようだ。

 剛原に至っては、ものも言えず、ブルブルと震えながら俺達から目を逸らしている。


 あんなに、俺に対して居丈高にふるまっていたのが嘘のようだった。


「そうか、大丈夫ならいいが…。」

「京先輩、こう言われてるんだし、後はお二人にしてあげましょう?」


「そうだな。剛原お大事にな。」


 芽衣子ちゃんに言われ、俺達は細井と剛原を残して校舎の方に戻ることにした。


「大丈夫ですよ?京先輩、剛田先輩のご体調は(手加減しましたから)心配するほど、悪くはないと思いますよ?ただ、腹痛で今日のお昼は食べられないかもしれませんけどね?」


 芽衣子ちゃんは悪そうな笑みを浮かべた。


「人の昼食をとろうとするからバチが当たったんじゃないですか?

 全く、剛田先輩、“人のものは自分のもの“にしようとするなんて、いくら名字が同じだからって、性格まであのキャラに似せようとしなくていいのに!」


「芽衣子ちゃん。一応言っとくけど、あいつ、剛田じゃなくて、剛原だよ?」


「あれ?そうでしたっけ?」


 芽衣子ちゃんはキョトンとした顔で、パチパチと目を瞬かせた。


「ま、何にせよ食べ物の恨みは怖いって事だな?芽衣子のブリっ子、マジ、トラウマレベルで怖かったわ〜。」

「も〜、マキちゃん、ひどい〜!」


 ニヤニヤしている笠原さんに芽衣子ちゃんが頬を膨らませた。

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