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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク一人目
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告り返したところを速攻で振れ!

「全部の選択肢って、どゆこと?氷川さん?」


 流石の俺も度肝を抜かれて問い返すと、氷川さんはニンマリ小悪魔笑顔を浮かべた。


「きょ…、矢口先輩が、嘘コク対応のプロなら、私はあらゆる嘘コクを司る、嘘コクマスターを目指しているんです。

 もはや、嘘コクに人生をかけていると言ってもいいでしょう。そんな二人なら更なる高みに到達できると思いませんか?」


 ○ンスターボール持った少年ばりに、目を輝かせて夢を語る氷川さんは大変お可愛らしいが…。


「いやいや、ちょっと言ってる意味分かんない。」

 俺が正直に言うと、目の前の美少女はまた、ふぐのように、プクッと頬を膨らませた。


「矢口先輩が、7つの選択肢を出してきたんじゃないですかっ。どれでも選んでいいって言ったでしょう?」


「いや、言ったけどもさ…。」


「私、それぞれ選択肢のシチュエーションを考えてみたんですが、どれもとっても素敵で、再現してみたくなっちゃったんです。」


「あ、ああ、嘘コクをシミュレーションする遊びみたいな…?」


 何となくだが、氷川さんの言ってる事が分かってきたような…。


「遊びじゃありません!私は本気です!!」


「す、すいません。」


 噛みつくように言われ、俺はすぐさま謝った。


「分かって貰えればいいんです。」


 氷川さんは、うんうんと満足気に頷く。


 何なの?この子メッチャ可愛いけど、かなりのポンコツじゃない?


「えーと、うん、分かった。や、氷川さんの気持ちは全っ然理解出来ないんだけど、

 とにかく、嘘コクされ慣れてる俺に、7つの選択肢のシチュエーションを再現するのに協力して欲しいってのは分かった。それでOK?」


「はい!引き受けて頂けますか?」


 氷川さんは、瞳をうるうるさせてこちらを見上げて、胸の前で手を組み合わせて再びのお願いポーズをしてきた。


 くぅっ!あざと可愛いな!


 うーん、俺自身、7回の嘘コクで女の子に対して構えるところがあるし、思考のヤバい女子に関わりたくないという気持ちはもちろんあるんだけど…。

 氷川さんの必死な様子はそんな俺をも揺さぶるぐらい、強く訴えかけるものがあって、つい言っちゃったんだよね。


「うん。いいよ。氷川さんがそれで満足できるなら、俺でよかったら協力するよ。」


 って…。


「本当ですか?やったぁぁ!!」

 氷川さんはガッツポーズをとって喜んだ。

 目には涙まで浮かべている。


「ありがとうございます、ううっ。ありがとうございます…。」


「い、いや、そんなに喜んでもらえてよかったよ。」


 若干引き気味の俺に、氷川さんは嬉しそうな笑顔を向けてこう言った。


「では、早速一番目の選択肢からお願いします。」


「え?」


「『告り返したところを速攻で振る』でしたっけ?」


「あ、ああ。それね。」


 もうミッション始まってんのかよ?

 氷川さん積極的だな。


「もう一度私が告白をやり直しますから、矢口先輩は私に告り返して下さい。そこを私が速攻で振りますから。」


「お、おう、分かった。」


 なんか、コントの打ち合わせみたいだな。

 両方嘘コクの出来試合だって分かってるんだから、あんまドキドキ感もなさそうだな…。

 氷川さんは何故こんなシミュレーションをやりたいんだろうか?と思っていたら、


 氷川さんは、目をギュッと瞑って、ぷるぷる震えながら絞り出すような声を出した。


「や…、矢口先輩…!すす、す好き…です…。つつ、つ付き合って下さい…!!」


 いや、2回目なのに、噛みすぎだろ?


『矢口先輩、ススキです。突付きあって下さい。』

 に聞こえるよ。


 やっとの事で言い終えた氷川さんは険しい顔で俺をじっと見てくる。


 あっ、俺のターンか。


「え、えっと、俺も氷川さんの事好きだよ。ぜひ俺と付き合ってくれ。」


 氷川さんのテンパリように驚いて、あまりにも棒読みで月並みな告白をしちゃったよ。

 こりゃ、ダメ出し食らうかな?


 と思っていると、次の瞬間、氷川さんは膝から床に崩れ落ちた。

「ぐ、ぐふぅっ!」

「えっ。ちょっ!大丈夫?氷川さん。」


 俺が近寄って声をかけると氷川さんは

 顔を真っ赤にして、ブツブツと何かを呟いている。

「あ、あうぅ…。す、すすき、つつき…。」


「氷川さん、体調でも悪いのか?立てる?」


 俺が手を差し伸べると、氷川さんは弱々しく手を伸ばしてきた。


「は、はひ…。ありがほーほはひは…、あ、ああっ!!」


 立たせてやろうと、手を握った瞬間、氷川さんは大声をあげた。


「ど、どうした?」


 驚いて手を離すと、氷川さんは、握られた方の手をもう片方の手で包むように重ね、ぷるぷる震えた。


「だ、ダメです!それ以上はもう、無理ぃっ!!体が持たないぃっ!!」


「えっ、えっ?」


 氷川さんは、すっくと立ち上がると真っ赤な顔で俺に言い渡した。


「きょ、今日のミッションはもう終わりです。

 流石は先輩!

 一つ目の選択肢を見事クリアしましたね!

 逆告白凄まじい破壊力でした…。危うく鼻血を吹くところでしたよ。」


 ん?ん?一つ目の選択肢が終わり?

 最後まで、全部やったっけ?

 あ、今の無理って言ったのが振ったってことになってんのか?

 氷川さんが挙動不審すぎてよう分からんかった。

 それにしてもあんなんでよかったのか?

 まぁ、氷川さんが満足できたならそれでいいんだけど…。


「わ、私はもうHPが0なので、続きはまた次回にしましょう!明日のお昼休み、また屋上に来てもらえますか?」


「お、おう…、い、いいよ。」


「で、では矢口先輩、アデュオスですっ。」

「お、おう。また…。」


 氷川さんは逃げるように屋上の出口へ急ぎ…。

 途中でこけた。


「氷川さん、大丈…、!!?」


 よつん這いになった氷川さんのスカートの後ろがまくれ、見えてはいけない布地が見えてしまっていた。

 氷川さんはすぐにスカートを直して、恐る恐る俺に振り向いた。


「み、見ました…?」


「み、見てない見てない。ピンクの水玉にくまさんのプリントなんて、全然見てない。あっ!」


 こういう時ばっかり俺は無駄に正直者だった。


「……っ!!!ああぁ〜ん!!」


 氷川さんは顔を引き攣らせると、泣きながら屋上の出口へと走り去って行った。


 一体何だったのだろう…。


 俺は氷川さんとのトンチキなやり取りを思い出しながら、しばし呆然とその場に佇んでいた。


 このときは氷川さんとの関係がこれから末永く続いていく事になろうなんて、夢にも思わなかった。




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