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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク三人目
38/255

毎々軒 営業中(前半は京太郎の提供でお送りします。)

 マサとスギと下校帰りよく寄るラーメン屋、

 毎々軒は、こってりしたとんこつラーメンが名物で、昼時はそこそこの行列ができる。


 お昼より少し早い時間に店に着くと、中には他に家族連れのお客が一組いるだけだった。


 俺達が店内に入ると、ここの主人の源さんがいつものように気さくに挨拶してくれ…。


「おお、兄ちゃん、いらっしゃい!今日は随分洒落た服着て、お出かけかなんかかい…!??」


 俺の隣にいる芽衣子ちゃんを見て、驚愕の表情を浮かべた。


「こ、こんにちはー。」

 芽衣子ちゃんが、恥ずかしそうに源さんにペコっとお辞儀をすると、物凄く動揺していた。


「い、いらっしゃい。あわわ…。えらいこっちゃ…!佳子、佳子ー!」

 店内奥にいる奥さんを呼びに行った。


 いや、源さん慌て過ぎだろ?

 いくら、フツメンの俺に似合わぬ超美少女を連れてるからって。


 芽衣子ちゃんは古びた狭い店内をキョロキョロ興味深そうに眺めている。


 もうすぐお昼時だし、4人座れるテーブル席に2人で座るのも悪いかな。


「芽衣子ちゃん。カウンター席でもいい?」

「あっ、はい。」

「兄ちゃん!!」

 芽衣子ちゃんに確認した途端、厨房に戻っていた源さんが鬼の形相で睨んできた。


「ひっ…、何?源さん。」

「テーブル席使いな!!!」

「は、はい!」

 テーブル席につく事になった…。


「芽衣子ちゃんは何にする?」


 お互い向かい合わせに座り、メニュー表を

 芽衣子ちゃんに見せると、真剣な表情で悩んでいた。


「うーん。どうしようかな?京先輩は何がオススメです?」


「ここの名物はとんこつラーメンなんだけど、女の子にはどうかな?あっさりめがよかったら、醤油ラーメンとかもあるけど…。」


「え?何でです?名物なら私もとんこつラーメン食べてみたいです。京先輩も当然とんこつラーメン食べるんでしょう?」


「あっ。うん。よく分かったね。」


「ふふっ。だって、カップラーメン食べるときは、とんこつ味ばっかり…。」


「え?」

 俺は目を丸くした。

 確かに昔からとんこつラーメン好きで、カップラーメンもそればっか食べてっけど、何で芽衣子ちゃんが知ってるんだ?


「あっ。いや、そればっかり食べてるぐらいとんこつラーメン好きなんですよ!私が!!だ、だからとんこつラーメン好きな人はなんとなく雰囲気で分かるっていうか…!」


 芽衣子ちゃんは両手をぶんぶん振って、慌てたように言った。


「そ、そうなんだ…。」

 すごいな。ソレ。雰囲気で分かるんだ。

「え、ええ…。そ、それにしても外、結構暑かったですね〜。」


 芽衣子ちゃんはハンカチで汗を拭いていた。


 ピッ。

 その時、リモコンの音がして、店内のエアコンがウィーンと急に稼働し始めた。

「温度下げといたよ。お嬢ちゃん!」

 源さんが、親指を立ててウインクしてきた。


 源さん、対応早っ!どんだけこっちに注目してんだよ?


「ありがとうございます。」

「いやいやいや、いいってことよ。」

 笑顔で礼を言う芽衣子ちゃんに相好を崩している源さん、明らかにデレデレだった…。


 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇

「はい。とんこつラーメン2つ、お待ちどうさま。」


 いつの間にか、店長の奥さんが店内に出てきて、ラーメンをテーブルに運んでくれた。


「ごめんなさいね。可愛い子が来てくれたもんで、あの人舞い上がっちゃってて…。

 お嬢さんの方のは、少しニンニク控えめにしといたからね?」

 奥さんは、俺と芽衣子ちゃんににっこり微笑んだ。


「あ、ありがとうございます。」


 芽衣子ちゃんは、俺の方に顔を寄せて、ヒソヒソしてきた。


「店長さんも、店員さんも親切な方ですね?京先輩がよく行きたくなるの、分かります。」


「うん、まぁ普段からいい人なんだけど、今日は芽衣子ちゃんがいるから特別サービスいいかもね。」

 俺は苦笑いして言った。

 ニンニク少なめにするサービスとか初めて聞いたもん。

「??そうなんです?」


 テーブルに2つのラーメンが並んでいる。

 背脂の浮いた白いとんこつスープに細めの麺、その上に肉厚のチャーシューがでんと乗っかっている。


 コクのあるとんこつのスープの香りに鼻孔が擽られる。

「ふわぁ〜。美味しそう〜!!」


 芽衣子ちゃんも目を輝かせている。

 二人、目を合わせると、深く頷いた。

 気持ちは同じだった。


「じゃ、麺が伸びないうちに食べようか。」

「はい!」


「「いただきまーす!」」



 *

 *

 *


 俺はいつものように、チャーシューを頬張り、とんこつラーメンを堪能しながらも、目の前の美少女を観察する。



 芽衣子ちゃんの今日の格好=白いワンピースに、ラーメンの汁が跳ねてしまうのではと心配したが、ちゃんと対策をしてきてくれたらしい。

 カーディガンの前を閉じ、スカートには大きめのハンカチを広げ、スープが跳ねないように工夫がされていた。


「はふはふ、スープあっつ、でもうまぁ〜!麺もスープに絡んでおいしー!!」


 芽衣子ちゃんは顔を真っ赤にしながら、レンゲに掬ったスープと麺を箸で口に運んでいた。


 美味しそうに食べている芽衣子ちゃんを見ていると、こっちも誘ってよかったと嬉しく思えた。


 自然と口元が緩んでいたらしく、気付いた芽衣子ちゃんに指摘された。


「なんで、今こっちを見て笑ってたんです?

 私、がっつき過ぎてました?」


「いや、そんな事ないよ。美味しそうに食べてるな〜と思って、俺も嬉しくなっただけ。」


「そ、そうですか、よかった。家族と友達としか外食した事ないから、何か粗相があったかと思ったぁ。」


「家族と友達とだけ?彼氏さんとデートで食べに行ったりしないの?」


「うーん、家族と一緒に食べに行ったりはしますけど…二人だけでどこか行ったりとかは…。」

「ああ。家族同士が仲良いって言ってたもんね。」

 家族ぐるみの付き合いすぎて、あまり二人きりになる時間はなかったって事か…?


「ああ!習い事が一緒なので一回先生と生徒さん達と一緒に焼肉食べに行った事がありましたね。」


「それは、もうデートというより、習い事の集まりに行っただけだよね!?」


 何だか、聞けば聞くほど芽衣子ちゃんと彼氏さんの付き合いに疑問しか出てこないなぁ。


 芽衣子ちゃんも天然だけど、彼氏さんも相当じゃないか?


「あ、あんまり、彼氏彼女の付き合いという感じではなかったかもしれませんね…。」


 気まずそうに笑う芽衣子ちゃんに慌ててフォローした。


「あっ、で、でも、家族で仲いいなら、デートしなくても、一緒にいられる時間多いし、長い付き合いなんだから、何かお互いに分かり合えるところっていうか、共通点みたいなものはあるんじゃない?」


「共通点…。やはり同じ習い事をしていたから、それでしょうか?いつもバカにされてるけど、その点だけは向こうも私を認めていてくれているような…。」


「そうなんだ。習い事を共有できてお互いに認め合えるところがあるのっていいね。」


 彼氏さんとの関係で、やっとよさげな話を聞けて俺はホッとした。


「今日の事、彼氏さんにはどんな風に伝えているの?」


「ええ…、L○NEで学校の先輩とデートする事にしたって送って、一応何時ぐらいにどこに行くかとかは伝えているんですが…。止めに来てくれる可能性は低いと思いますよ?

 彼、最近は私の事をうっとおしく思っているみたいで、よく『キモい』って言ってきますから。」


「それは彼氏さんちょっとひどいな…。」


 俺は芽衣子ちゃんの気持ちを思うと、胸が痛んだ。


「いいんです。彼に止めてくれる気持ちがないのなら、私の方も、今日ですっぱり関係を断ち切ろうと思いますから。多分そうなると思います。」


 そうは言いながらも、芽衣子ちゃんは浮かない顔をしていた。


 俺から見れば、芽衣子ちゃんと彼氏さんの付き合い方は謎でしかない。特に彼氏さんの芽衣子ちゃんへの態度は彼女にするものとしてはひど過ぎると思う。


 でも、芽衣子ちゃんの言葉や表情から、二人の間に積み重ねられた時間の重みや近い距離同士に対しての親しみのような感情が端々に感じられた。それは簡単に失っていいものではないのだろう。


 彼氏さんを想う芽衣子ちゃんの姿を見て、少し寂しいような気持ちになった。


 何だろ、コレ?


 これはただの嘘コクデートで、俺は当て馬役で、芽衣子ちゃんの正式な相手じゃないのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。


 芽衣子ちゃんとお互い信頼関係を築いて、秋川に立ち向かったときに、俺の心が芽衣子ちゃんに少し近付き過ぎてしまったんだな。


 7回の嘘コクで、女の子に対して警戒するようになっていた筈なのに、俺もまだまだだな…。


 今一度気持ちを引き締めて、自分の役割を全うしなければ。

 俺はただの当て馬役。


「まだ分からないじゃん。彼氏さん、止めてくれるといいね。」


 そう言うと、芽衣子ちゃんは寂しそうに笑った。


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