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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク二人目
28/255

真の悪党

*注意*


この話はヒロインのイメージを大きく損なう恐れがあります。


秋川さんへのざまぁが少し足りないと思われる方にはお勧めですので、少しでもモヤモヤを解消して頂ければと思います。


よろしくお願いします。


 

 ぴょこぴょこと、階段を跳ね降りている氷川芽衣子の頭上に、勢いのついたバスケットボールが迫る。


 氷川芽衣子、階段をそんな覚束ない足取りで歩いているあんたが悪いのよ?


 私がうっかり落としてしまったボールでケガしてしまってもしょうがないわよね…。


 私が会心の笑みを浮かべたが…。


 次の瞬間起こった事が、私には理解出来なかった。


 バスケットボールが放れた瞬間、氷川芽衣子のスカートが翻り、跳躍したかと思うと、その頭上に右足を高く蹴り上げ、ボールを打ち返した。

「ひ、ひぃっ!」


 真っ直ぐ打ち返したボールは私の頬スレスレを凄い勢いで通り過ぎ、階段の踊り場の壁に

 ドゴォ!と音を立てて当たりその後、何度か階段や、壁に跳ね返り、階段の床に転がり、やっと大人しくなった。


 い、今何が起こったの?


 氷川芽衣子がボールを足で蹴り返した…?

 あんなに狭い足場から?


 階段の踊り場の床にへたり込みながら、

 後ろを確認すると、ボールが、当たった壁にはバスケットボールの跡が色までくっきり残っていた。


 もし、あれが当たっていたらと思うと背筋がゾッとした。

 あいつ只者じゃない。


 ヤバイ、ヤバイ。早く逃げなきゃ。

 私がやったことがバレたら、殺される!


 しかし、驚いて、腰が抜けてしまったのか、

 震えるばかりで足に力が入らなかった。


 カツンカツン…。


 階段を上がってくるあいつの足音が聞こえてくる。


 どうしよう、どうしよう!


 焦る私は、動かない足をずりずりと滑らせて、壁際に逃げていくしか出来なかった。


 やがて、そいつは、階段の踊り場に転がっているバスケットボールを拾い上げて、私の目の前に立つと、昼休みと、変わらぬ可愛い笑顔で話しかけて来た。


「あれぇ?誰かと思えば、秋川先輩じゃないですかぁ。昼はお疲れ様でしたぁ。こんなところでどうしたんですか?」


「あっ。ひ、氷川さんっ…。」


「なんかぁ。上からボールが落ちてきたんですけど。もしかして、秋川先輩のですか?」


 そう言って、バスケットボールを嬉しそうに私に見せてきたが、ふと、ボールに大きく記載された名前を見て、不思議そうに首を傾げた。


「あれ?ボールには柳沢梨沙って書いてある?」


「ち、ちがっ。違うの。梨沙に返す途中で、うっかり、落としてしまって。ご、ごめんなさい。」


 私は引き攣った顔で、必死に謝った。


「なあんだぁ。うっかりだったんですねぇ。」


 氷川芽衣子はにっこり笑った。


 やった。バカで助かった!と思ったのも束の間…。


「…!?」


 氷川芽衣子は至近距離まで笑顔を近づけて来たが、その目は笑っていなかった。


「わたし、以前、キックボクシングをやってた時期があって、自分に向かってくるものがあると、足で反射的に打ち返してしまうんですよねぇ。

 ()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()

 子供でも、分かる事ですよね?秋川先輩?」


 その指が私の頬をすっと撫ぜる。

「ひっ!」


「今回は綺麗なお顔に傷がつかなくてよかったですけどぉ、次からはうっかりしないよう気をつけて下さいね?」


「…!!」


 この女は全部分かってる!

 私が、ボールをぶつけようとしたことも、私がこの女に敵意を抱いていることも。

 分かった上で牽制してきてる!


「秋川先輩。学校での私の評判落としたかったんですって?」


「ち、違っ。そんな事…なっ…。」


 ぶんぶん首を横に振る私に、氷川芽衣子は子供をあやすように優しく言った。


「いえいえ、もう全部分かってる事なんで、隠さなくていいんですよー?

 噂好きの秋川先輩に、一つお願いが、あるんですけど、今から私に関する噂を流してもらえますかね?

 氷川芽衣子は告白のシーン作りを趣味にしている変わった女で、本当の恋愛には一切興味がない。興味があるのは、嘘コクで有名な矢口京太郎先輩だけっていう噂を。」


「?な、なん…で…?」


「あまり周りが騒がしいの苦手なんです。

 秋川さんも、私の評判落としたいのなら、お互い利害が一致してるでしょう?ね?」


「それから、秋川先輩が私にうっかりボールを当てそうになってしまった件ですが、私の友人が克明にさっきの様子を撮影してくれてるみたいでして…。」

「!!」


 私は上の階に、顔は見えないが、二人ほど人影がいるのに気付いた。

 しまった。ハメられた!

 さっきのあのぐるぐるメガネもこの女の手先だったんだ。


「や、やめて。誰にも見せないで、ソレ!」


「どうやら、見られて困るようなものが映っているみたいですね…。それを公開されたくなかったら…、今まであなたが、矢口京太郎先輩に行ってきた嘘コクと、それに関する噂を学校に広めた件について、彼に誠心誠意謝って下さい。」


「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。」


 必死に頭を下げて謝ったが、彼女は逆に激昂した。


「謝る相手は私ではありません!謝ってもらっても、私は京ちゃんの心を、何度も深く傷付けたあなたを絶対に許しはしません!!」


「ひいっ。すみません!」


「今後一切、矢口京太郎先輩を傷付けるような言動はしないと誓ってくれませんか?」


 私は何度も何度も頷いた。


「もし、再び、矢口先輩の事で心無い噂を流したり、あろうことか、色仕掛で迫って、再び矢口先輩を傷付けようものなら…。」


 氷川芽衣子は般若の様な面で剣呑に目を細めた。


「私も秋川先輩に色々()()()()()()()()かもしれませんからねぇ?」


「〰〰〰!!!」


「秋川先輩、分かりました?お返事は?」


「ふぁ、は、は、はいっ。」


 歯の根が合わないほど、震えながら、私は必死に返事をした。

 バカだった!!

 この女、氷川芽衣子を陥れようとするなんて。

 夏菜子の話をちゃんと聞いとけばよかった。

 氷川芽衣子は恐ろしい女だ…!

 私は最初から全部この女の手の平で踊らされていただけだったんだ。

 お昼の校内放送の件も、さっきの屋上の件も、今も、全部計算の内だったに違いない。


 この女は私みたいな小悪党なんかとは格が違う()()()()…!

 知力、体力、人脈等全て雲の上の存在。

 最初から敵うわけがなかったんだ!

 も、もう終わりだ…!

 この人に盾突いたからには、私には惨めな最期しか道は残されていないんだ!


 下半身から生温かい水が滴り落ちるのを感じていた。

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