誕生日編③ 尋問の時
「京ちゃん、まだかな…。」
放課後、校庭近くのベンチで京太郎と待ち合わせをしていた芽衣子。
『少なくとも、お互いに18になるまでは少しでも妊娠する可能性のある行為はしちゃいけないと思う。』
「はぁっ…。↓」
喫茶店で、京太郎に言われた事を思い出し、ため息をついた。
(そりゃぁ、私だって、キスより先の事は未経験だし、何だか怖いし恥ずかしいって気持ちもあるけど…、18まで何もないってハッキリ言われてしまうとショック…。
もうすぐ、京ちゃんと私の誕生日で、お祝いするの楽しみにしていたけれど、16才になっても、あと2年、先は長いなぁ…。
私を大事にしてくれている事は嬉しいのに、このモヤモヤはどうしたらいいんだろう…?)
「ん?あちらに落ち込んで揺らいでいるいる美人特有の男子を惹き付けるオーラが…。
あ、あれは…!||||(一年の氷川芽衣子さんではないか…!)」
そこへ通りがかる嘘コク女子三人目の元彼、剛原翔。
以前、強引なアプローチをするも、芽衣子にサッカーボールでぶっ飛ばされて以来、芽衣子の事を怖がっていた剛原だが…。
(氷川さん、恐ろしい人だが、人気者の彼女を手中に出来れば、サッカー部ではマネージャー業務をやらされ、女子からも6股がけ男子として冷ややかな目で見られるようになってしまった俺のヒエラルキーも上がるかもしれない。
何やら弱っているようだし、今なら心の隙間につけ入れるかもしれない。よしっ…!)
「や、やぁ、氷川さん、悩み事かい?」
「あなたは、剛田先輩…!」
邪な考えを抱き、突然現れた剛原に警戒する芽衣子。
「矢口の事で悩んでいるんだろう…?よければ僕が相談に乗ろうじゃないか。」
「…!だ、誰があなたなんかに…!」
右足を構える芽衣子に、剛原は両手を突き出した。
「おっと。サッカーボールでもないのに、蹴ろうとするのは、感心しないなぁ。
君の悩み、分かるよ。付き合って隨分経つのに矢口が手を出してくれないとかだろう?」
「な、何故、それをっ…?!」
言い当てられ、動揺する芽衣子に剛原は歪んだ笑みを浮かべた。
「ふふっ。当たったようだね?(ヘタレ彼氏から彼女を奪った事もある俺には、女性の気持ちが手に取るように分かるのさっ。)
俺なら、君の悩みを全て解決してあげられるよ?」
「えっ?」
「ヘタレな彼氏には、積極的なアプローチあるのみ!!
俺が、君の恋のABCの練習台になってあげよう!
今から、ホテルに行って、男が喜ぶ技を俺が全て教えてあげよう!学んだテクニックを使って、矢口をメロメロにすればいいのさっ!!
(だが、奴では物足りないと感じるようになった彼女は、結局はテクニシャンの俺に乗り換える事になるのだ…!ははっ!流石は俺、完璧な計画っ!!)」
「………。」
人差し指を突きつけ、高らかに声を張り上げる剛原を芽衣子はじっと見ていたが…。
「剛田先輩…。久しぶりに、サッカーしませんか?」
やがて剛原に優しい笑みを向けたのだった。
✽
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「わ、私は…、なんて事を…!||||」
数時間後、一人、自室で自分の体を抱き締めて震えている芽衣子の姿があった。
ピンポーン!
ビクッ!!
そこへ、玄関のチャイムが鳴り、肩を揺らす芽衣子。
インターホンの画面には、心配そうな表情の京太郎が映っていた。
驚いた芽衣子は反射的にインターホンの受話器を取った。
「きょ、京ちゃん…!来てくれたの?」
『めーこ…!体調悪くて先に帰るってメール入ってたけど、大丈夫か?』
「う、うん…。い、今は大丈夫…だよ?今日は、一緒に帰れなくてごめんなさい!」
『それはいいんだけど、笠原さんからめーこの忘れ物預かってて…。渡しに行ってもいいか?」
「あ、う、う、うん…。(どうしよう…?||||)」
動揺しながらも、芽衣子は、京太郎を家に迎え入れる事になったのだった。
✽
「ど、どうぞ。京ちゃん。」
「ありがとう。(なかなか目を合わせてくれないけど、取り敢えず風邪とかじゃないみたいだな?)」
ぎこちなくリビングのテーブル席に通された京太郎は、芽衣子の様子がおかしいのに気付いていたが、体は元気そうでひとまず安心し、コンビニの袋を差し出した。
「めーこ、これ、お土産。よかったら、後で食べてくれ。」
「あ、ありがとう。京ちゃん…!(あうぅっ…。私が体調悪いと思って買って来てくれたんだぁ…!こんな私の為に…。)」
「いや……。(やっぱり、様子がおかしいな、めーこ。)」
桃缶とプリンを渡されて感動と罪悪感に涙目になる芽衣子を見遣って、京太郎は早めに話を切り出す事にする。
「そういえばさ、めーこ。今日帰る時に、サッカー部の木村(同級生)に剛原の話を聞いたんだけど…。」
「……!!||||」
ビクビクッ!
再び肩をビクつかせる芽衣子。
「なんでも剛原がケツにサッカーボールがめり込んだ状態で、ボール入れの籠に頭から突っ込んで気絶していたところを他の部員達に発見されて大騒ぎになっていたらしいんだ。めーこ、何か知ってるか?」
「し、知らないよ…?(震え声)ボールと友達にでもなりたかったのかな?前からおかしいとは思ってたけど、奇特な人だねぇ…。」
芽衣子は一層京太郎から目を背けて、ウンウンと頷いた。
「まぁ、怪我は打撲だけですんだみたいなんだが、本人は、直近の記憶が飛んでいて、どうしてそんな状況になったのか分からないらしい。」
「そ、そうなんだ…。ホッ。(殺してなかった!今回は全力でやったのに、意外と剛田先輩、体頑丈だな…。)」
安堵の息をつく芽衣子に、京太郎はきらりと目を光らせた。
「けどな。その後笠原さんが俺にこっそりと教えてくれてな。少し前にめーこと剛原が話しているのを見たらしいんだ。」
「…!||||」
京太郎の言葉に一気に青褪める芽衣子。
「そして、剛原が倒れていた付近に落ちてたものを、笠原さんがこっそり回収してくれたらしいんだが…。」
「…!!||||||||」
京太郎は、ピンクの花柄のハンカチをひらひらとさせた。
「『氷川芽衣子U^ェ^U』と刺繍が入ってるコレ!めーこのだよな…?」
「あ、ああっ。あああぁっ!!」
京太郎に追い詰められた芽衣子は、ぶんぶんと頭を振る。
「ち、違うぅっ!!私は剛田先輩のお尻にサッカーボールをぶち込んでなんかいないっ!
勢いでボール入れの籠に真っ逆さまに落ちていく剛原先輩を見て、よっしゃぁ!ナイスゴール!!なんて思わずガッツポーズなんかとってない!!
あんなの、私じゃないっっ!!」
「でも、本当は、剛原のケツにサッカーボールをぶち込んだんだな?
そして、「ナイスゴール!!」と
ガッツポーズをとったんだな?」
「うあぁっ…!そうですっ!私ですっ。私がやりましたぁっ…!!_| ̄|○ il||li」
探偵役(京太郎)に人差し指を突き付けられての尋問に、泣き崩れ、罪を告白する容疑者(芽衣子)。
そんな芽衣子の近くにしゃがみ込み、京太郎はその背をポンポンと叩いた。
「めーこ。別に俺は罪を咎めているワケじゃない。
それだけの事をされるからには、剛原はめーこに相当ひどい事をしようとしたんじゃないかって心配してんだよ。
何があったのか本当の事を言ってくれないか?」
ガバッ!
「ああ〜ん。京ちゃぁん!うわあぁん!!口にするのも汚らわしい気持ち悪い事を言われたんだよぉ!!クゥンクゥン!」
「めーこ…///ヨシヨシ、辛かったんだな。」
抱き着いて泣きじゃくるわんこ化した芽衣子の頭を撫でてやる京太郎。
「すんすんっ。でもね、京ちゃん、私、分かった事があるんだよ。
自分の中に、剛田先輩にそんな事を言わせるような心の隙が出来てしまっていたんだって。
それは、あんな気持ち悪い人じゃなくて、好きな人(京ちゃん)に埋めて欲しいんだって。」
「め、めーこ…?それって、どういう…?」
ギュウッと抱き締める手に力を込める芽衣子に京太郎が問いかけると…。
「京ちゃん、今度の誕生日イベント、二人で一緒に目一杯楽しめるものにしよう!全力で準備するから、覚悟してね?」
「お、おう…?」
吹っ切れたような満開の笑顔を向けて来る芽衣子に戸惑いながらも京太郎は頷いたのだった。