文化祭編⑰ 文化祭それぞれの収穫
文化祭終了後ー。
「文化祭ステージ部門が無事終わったのは、よかったけど、あなた達この2日間準備と撤収の時しか展示室にいなかったわよね?部活に貢献する気があるのっ…!?」
「「は、反省しています…。申し訳ありません…!||||」」
読書同好会の展示室の中央で、仁王立ちし、眦を上げる部長の上月彩梅に、土下座で謝る京太郎&芽衣子。
「ま、まぁまぁ。今回は事情があったんですから、仕方ないですよ。風紀委員の頼みではお二人共断われないでしょうし…。」
「そうですよ。それに、二人のネームバリューのお陰でお客さんも激増しましたしぃ…。」
「そうそう。部誌も無事完売しましたしぃ…。」
「うぐっ。ま、まぁ、それはそうだけど…。」
神条桃羽と、小倉紅、碧に宥められ、渋い顔になる彩梅。
「部誌、完売したのかっ?」
「えっ。あんなに部数があったのにですかっ?」
驚く京太郎と芽衣子。
彩梅が今年は必ず売れると言って聞かず、去年より50部も多い250部刷っていたのに、完売したらしい。
「ええ。終了時刻より、2時間も前に完売したんですよ?」
「やっぱり、矢口くんと、氷川さんのジンクスの噂を流したおかげですよねっ?」
「さっすが部長!」
「えっ。い、いやぁ…。」
「「へっ。ジンクス…?」」
読書同好会メンバーのやり取りに、京太郎と芽衣子は聞き返した。
「いや、あの…、あなた達の写真を取ると恋愛成就するってジンクスが広まっているみたいだったから、
二人が所属している読書同好会の部誌を読むと、勉強や、部活で成績が良くなるかもって、ちょっと大げさに言ったら、広まっちゃって…。」
「へっ。じゃあ、あのもう一つのジンクスって…!」
「上月発祥だったのかよっ!?」
上月は、気まずそうに頬を掻きながらの説明に、衝撃を受けた芽衣子と京太郎であった…。
✲読書同好会の収穫✲
→朗読会の盛況(特に馬に)
→部誌250部完売
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その後、遠愛高校の星川スミレに託された秋川栗珠を送る為、保健室へ向かった京太郎&芽衣子。
「「先生、秋川(先輩)は、あれからどうですか?」」
「まだ目覚めていないけれど、時々、「組長様」、「姉御様」とか「指5本で許して下さい」とか寝言を言っていたわよ?任侠ドラマの夢でも見ているのかしら…?」
「「あ、秋川(先輩)……。||||」」
首を傾げる保健の先生に、恐らく、自分達を呼んでいたであろうとは言えない二人だった。
「あと…、ちょっと言いにくいのだけど、倒れた時少し粗相があってね。お友達の星川さんが、この子は度々そう言う事があるって聞いたから、今、大人用のオムツを穿かせているの。」
「「…!!」」
「ショックを受けないように、優しくフォローしてあげてね?」
「「(秋川(先輩)遂に大人用オムツデビューとは…!流石に優しくしてあげよう。)わ、分かりました…。」」
衝撃を受けつつ、神妙な顔を見合わせ、頷き合う京太郎と芽衣子。
「う〜ん…。」
そこへ、ベッドに寝ていた栗珠がタイミングよく目を覚ます。
「あ、あれ?組長様っ…?姉御様っ…?何でっ?!」
「あら起きたわね?組長と姉御ってあなた達だったの?」
京太郎と芽衣子を見て、飛び起きる栗珠に、保健の先生が目を丸くする。
「いや、それは…。」
「あだ名みたいなもので…。」
二人は、気まずく目を逸らす。
「あなた、文化祭の途中で体育館で倒れていたのよ。気分はどう?どこか痛かったりしない。」
「はい。大丈夫ですけど…。
私、どうして、倒れていたんでしょう?
風紀委員会の方に協力して、体育館にいたところまでは覚えているのですが…。」
口元を押さえて考え込んでいる栗珠に、先生はにっこりと微笑んだ。
「ああ。盛り上がってステージに上がりそうな子がちょうど風紀委員に捕まったところだったらしい(という事に柑菜がした。)から、それを見てショックを受けたのかもしれないわね。」
「秋川先輩、案外繊細な方ですもんね。」
芽衣子も優しく微笑んだが、栗珠が失神した理由が、自分が栗珠そっくりの不審者をぶっ飛ばした上に、『秋川先輩にそっくりだったので、つい力が入って、殺す勢いでやってしまいました。テヘペロ』と発言した事にあったとは、思いも寄らなかった。
「ステージに乱入した子は、同じ高校だったあなたのお友達が送って行ったみたい。
あなたの事は、親しいお友達だという矢口くんと氷川さんが、ご父兄の車で一緒に送ると申し出てくれたんだけど、大丈夫かしら?」
「…!!組長様、姉御様、わたくしなどの為にそのような事…、よろしいんですか?」
「あ、ああ…。(色々複雑だけどな…。)秋川がいいならだけど。」
「心配しないでいいですよ。(その紙オムツは)『長時間も安心』らしいですから。」
驚く栗珠に、苦笑いで京太郎は頷き、芽衣子は違う心配をしているのかと勘違いして安心させるように笑顔を浮かべた。
「では、組長様、姉御様、よ、よろしくお頼み申し上げます…!!
お礼は小指の先を切ってお二人への忠誠の誓いを…。」
「いらないです!」
「いらねーよ!」
「(この三人ってどういう関係なのかしら…?)じゃ、じゃあ、気を付けて帰ってね?矢口くん、氷川さん、秋川さんの事、よろしくね?」
京太郎と芽衣子の前で土下座をする栗珠を見て、引き攣り笑いを浮かべ、先生はそそくさと保健室を立ち去った。
✽
「ハッ!そうだ。私、皆さんに不快な思いをさせないように、これを被らないといけなかったんでした。」
ベッドの傍らに置かれていた馬の面に手に取る栗珠。
「「その馬の面は…?(どこかで見たような…。ま、まさか…。)」」
たらりと汗を流す京太郎と芽衣子に、栗珠はにこやかに説明する。
「ああ。変装用のサングラスが不審者とすり替わってしまって、困っていたら、生徒のお母さんらしき人がくれたんです。
『誰にでも、変装が必要な時ってあるわよね?お嬢さん、それを使って頑張ってね?』って言って下さって優しい方でした。
PTAの役員をされているって言っていたような…。
身元が分かるなら、お礼をしたいのですが…。」
悪い予感が当たり、京太郎と芽衣子はざっと青褪めた。
「……。||||(いや、誰にでもって、馬面が必要な時なんて、そうそうないだろうよ。絶対めーこのお母さんだ…。)」
「……。||||(PTAの役員…。絶対お母さんだ…。何でまだ馬面持ち歩いてたんだろう。)」
「えっと…。コホン。もう文化祭も終わりましたし、遅い時間ですから、秋川先輩に注目する程沢山の人はいませんよ?ですから、これはもう秋川先輩に不要のものです。私が責任を持って回収させて頂きますね?」
「は、はい。姉御様がそう仰られるのでしたら…。」
栗珠は、捧げ物をするように芽衣子に馬の面を差し出す。
「(め、めーこ…。ソレ…。)」
「(う、うん…。二度と馬の呪いが発動しないよう、私が責任を持って封印しておく…。)」
「(あ、ああ…。それがいいかもな…。)」
げんなりした顔でヒソヒソ話をする京太郎と芽衣子だった。
✽
そしてその後、京介の車で京太郎&芽衣子と共に家まで送ってもらった栗珠は、
玄関先で、ツインテールを揺らしてペコリと頭を下げた。
「組長様、姉御様、組長様のご父兄様今日は色々ご迷惑おかけしました。お世話になりました。」
「おう!じゃーな。ツインテールのお嬢ちゃん。」
「ああ。じゃあな。秋川。今日は色々ショックな事があったかもしれないが、強く生きろよ?」
「ええ。では、秋川先輩、あまり気に病まないで下さいね。(オムツを穿くなんて)誰もが必ず通る道ですから。」
「ううっ。ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!皆様方もお元気でっ!!」
京介、京太郎、芽衣子に優しい言葉をかけられ、栗珠は涙を流し、大きく手を振り、車が去っていくのを見送ったのだった。
「はぁ…。今日は、色んな人に迷惑をかけてしまったけれど、目的を達成できた上、組長様、姉御様にお会いできてよかった…。
心なしか、お二人共、いつもよりすごく優しかったなぁ…。」
自室に戻った栗珠はほうっと、満足そうにため息をついた。
「そう言えば、不審者の人と帰ったというスミレちゃんは、あの後どうしたんだろう?」
ピンコン!
「…!」
いいタイミングで、カバンの中でスマホのメール着信音が鳴った。
「もしかして、スミレちゃん?」
急いでカバンの外ポッケからスマホを取り出し、メールの文面を見ると…。
『栗珠ちゃん、今日は文化祭おつ!\(^o^)/
一緒に帰れなくてごめんね?
栗珠ちゃんが忠誠を誓うお二人に後をお任せしたけど、体は大丈夫かい?
無事お家に帰れたかい?
ステージに乱入しようとした子は、野呂茉莉ちゃんっていう同じ学校の後輩で、根は悪い子じゃなくて、やった事を反省していたよ。
来週から毎日学校来てくれるって約束してくれたから(↑※スミレが怖くて、野呂茉莉は断れなかった。)栗珠ちゃんも優しくしてあげてね。』
「あの人、遠愛高校の生徒かぁ…。また厄介そうな人の知り合いが増えたな…。」
↑ ※自分の事を棚に上げる栗珠
『あ。そうそう。今日穿いてたものは、失神した時、やっぱりちょっと漏れてしまっていたので、先生が水洗いしてカバンに入れてくれているよ。』
「!?||||」
『今穿いているのは、長時間安心だし、皆一回は穿くものだし、あまり気にしないでね?んじゃ!また学校で!(^_-)-☆
星川✧スミレ』
「長時間安心…。皆一回は穿くもの…。確か、姉御様もその様な事を仰っしゃられていたような…。さっきから、少しゴワゴワするような気がしていたけど、ま、まさか…。」
栗珠は、スカートの下を確認して…。
「ぎゃあああぁーーっっ!!大人用オムツ穿いてるうぅっ!!」
近所中に響く雄叫びを上げたとか…。
「今、誰かの叫ぶ声がしなかったか?」
「ギャアアッて聞こえたね?」
「ハハッ。カラスか何かの鳴き声じゃねーの?」
車の中で、その雄叫びを聞いた京太郎、芽衣子、京介だが、栗珠のものだとは全く気付いていなかった…。
✲秋川栗珠の収穫✲
→読書同好会の部誌
→お持ち帰りお漏らしパンツ
→初めての馬面デビュー
→初めての大人用オムツデビュー
✽
その後、京太郎のアパートの前まで送ってくれた京介に、礼を言う芽衣子と京太郎。
「送ってくれてありがとう、京介おじさん。」
「ま、まぁ…。世話になったよ。京介…おじさん…。」
そんな二人に、京介は慌てたようにブンブンと手を振る。
「いやいや、俺に出来るのは、これぐらいだからよ!
こっちこそ、今日はすまなかったな?『お前らを守る』とか大口叩いた割にすっ転んだだけで終わっちまってよ!
芽衣子ちゃん、すげー強かったんだな?口だけの俺とは大違いだよ。」
気まずそうに頭を掻きながら礼を言う京介に、芽衣子は笑顔を浮かべた。
「ううん。あの人がステージに乱入して来た時、京介おじさんが京ちゃんと私を必死に守ろうとしてくれた気持ち、すごく伝わって来たよ。カッコよかった!ね、京ちゃん?」
「え?ま、まぁな…。色々やり過ぎなところはあったけど、今日はその…。京介おじさんには色々世話になったよ…。」
「京太郎…。」
芽衣子に話を振られ、素直になれないながらも、京介に礼を言う京太郎。
「これから、京ちゃんの家にお母さんも集まって、さっきのステージの映像観る予定なんだけど、もしよかったら、京介おじさんも観ない?」
「ええ?いや、お誘いは有り難いけどよ…。」
躊躇い、自分を嫌っている筈の京太郎の方をチラリと見遣る京介だが…。
「まぁ、予定があるならしょうがないけど、来たいなら来ればいいんじゃね?」
「え!」
京太郎の態度の軟化に、驚き、感激して詰め寄る京介。
「京太郎、いいのか…?もしかして、俺の事、父親と認めてくれっ…」
「調子に乗んなよ!父親として認めたワケじゃねーけど、あくまで親戚のおじさんとして遊びに来るならいいって事だよ!」
「おう!分かった!親戚のおじさんとして堂々と矢口家に招待されてやろうじゃないか!」
「急に態度でかくなったな…。」
「ふふっ。おじさんと京ちゃんのやり取り面白い…。」
いつもの調子を取り戻した京介と京太郎、それを見守る芽衣子は京太郎の部屋に向かったのだった…。
そして、その後間もなく京太郎母=奈美
芽衣子母=麻衣子もやって来て、三人のステージの鑑賞会が始まったのだが…。
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京介『めーこちゃん。俺と結婚して下さい♡』
芽衣子『…!』
京太郎『なっ…。あんた、何言ってんだよ!!』
芽衣子『ごめんなさい!私には将来の相手と心に決めた人がいますので!』
京介『ガーン!』
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スクッ!
「あんたは、息子の彼女に何言ってんのぉっ!!」
「わああっ!!奈美ちゃん、堪忍〜っ!!」
画面の向こうのやり取りに怒り心頭の奈美に殴られそうになり、逃げ回る京介。
「あらあら、ここからがいいところなのに…。」
カメラの映像をテレビに繋いで皆に見せていた麻衣子はそれを見て苦笑いしていた。
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芽衣子「京ちゃん、私と結婚して下さい!///」
京太郎「ええっ?めー…わっ!////」
チュッ♡芽衣子→京太郎
チュッ♡京太郎→芽衣子
芽衣子「!!////」
わああぁっ…!!(盛り上がる会場)
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「でへへへ…。二人のメモリアル…♡♡」
「ううっ…。恥ずかしい…。///」
芽衣子はその場に溶け、京太郎は照れて動画の映る画面を正視できなかったとか…。
✲京太郎&芽衣子の収穫✲
→ステージでコサックダンス&二人でイチャラブする動画
→京介と京太郎の確執が少しだけ和らぐ
→文化祭中お互いや周りの皆と過ごした時間、思い出
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文化祭その数日後、とある居酒屋にて、一組の男女が再会を果たしていた。
「あら?もしかして、矢口くんの叔父様ですか?」
「え?あ、ああ…。京太郎の担任の…!お世話になってます。」
同僚と飲みに来ていた凪は、京太郎の担任、新谷良子(絶賛崖っぷち婚活中)に会い、慌てて挨拶をする。
「こんなところでお会いするなんて、奇遇ですね?(やったぁ!この店に毎日通い詰めた甲斐があったわぁ!)チラッ。ご一緒させてもらってもいいですかぁ?✧✧」
「おお。凪、こんな美人と知り合いなんて、凄いな…。どうぞどうぞ。凪の隣空いてますんで!」
「お、おい、前田…!//」
「お言葉に甘えてお邪魔しま〜す♡」
一緒に飲んでいた同僚に勧められ、ちゃっかり凪の隣の席をゲットする新谷良子であった…。
✲新谷良子の収穫✲
→矢口凪(未来の旦那候補)
✽あとがき✽
読んで下さりありがとうございます!
これにて、文化祭編終了です。
今回一番収穫があったのは、未来の旦那さん候補を捕まえた新谷先生かもしれませんね。
京太郎くんはショックでしょうが…(^.^;
次は、クリスマスの時期におまけ話を投稿したいと思います。
今後ともどうかよろしくお願いしますm(_ _)m