文化祭編⑯ 8番目の呪い?
京太郎、芽衣子、京介のステージは大成功を収め、無事に文化祭のステージ部門は終了する事ができた。
「おう。京兄、京太郎、芽衣子ちゃん、お疲れ!いい舞台だったぞ?」
「おう、サンキュー、凪。ギターも助かったぜぃ!」
「えへへ。凪おじさん、ありがとう!」
「ハッ。凪おじさん!」
舞台から降りて来る三人を笑顔で迎えて
くれた凪に、京太郎は、凪の席の近くに新谷先生がいた事を思い出す。
「凪おじさん!俺の担任の新谷先生に何かされたり、言われたりしてない?」
「え?あ、ああ…。あの、担任の女の先生か…。さっき声かけてくれたけど、優しくていい先生だよな?美人だし…///。」
「やっぱり声かけられたのか…!||||あの人の見かけと第一印象に騙されちゃいけない!油断したら、29才崖っぷちの飢えた雌豹の餌食にされる!
凪おじさん、連絡先を聞かれても、絶対教えちゃいけないよっ?」
「え?お、おうっ?少し話しただけで、連絡先は聞かれてないけど…。」
「おいおい、京太郎、担任に崖っぷちの雌豹て…。」
「きょ、京ちゃん…。(よっぽど新谷先生に凪おじさん狙われるの嫌なんだね…。)」
京太郎に必死の形相で詰め寄られて戸惑う凪、苦笑いの京介と芽衣子。
「よ、よかった…。おじさんには幸せになってもらいたいんだ…。」
ホッと安堵の息を漏らす京太郎を宥めるようにポンポンとその肩を叩く凪。
「お、おう。何か分からんが、心配してくれてありがとうな?
(会話の流れで先生に行きつけの飲み屋は教えちゃったんだけど、この様子だと、言えないな…。)
それと、俺、そろそろ仕事に戻らなきゃいけないんだけど、京兄はどうする?」
「あー、俺はもう少しここにいるわ。ガキ共の顛末がどうなったか気になるしよ…。」
こうして、凪のみ京太郎達に別れを告げ、その場を立ち去って行った。
✽
その後、風紀委員から文化祭に波乱を起こそうとした不審者が意識を取り戻したと連絡を受け、三人が保健室へ向かうと、秋川と背恰好はよく似ているが、顔立ちは全く違う、ツインテールの女子が俯いて、ベッドに腰掛けて風紀委員長、白瀬柑菜と向かい合って座っていた。
雅と潮、星川スミレは心配そうにその様子を見守っている。
その隣のベッドでは秋川栗珠が寝かされているらしく、カーテンが閉じられていた。
「ああ、矢口少年に、芽衣子嬢。ご父兄の方も。先程は、ご協力ありがとうございました。」
柑菜は三人を見ると、礼を言い、ペコリと頭を下げた。
「いやいや、いい記念になったよ。これから事情聴取かい?」
「ええ。取り敢えず話を聞いてみようかと…。」
「白瀬先輩、大丈夫ですか?(頼りなくはあるけど)金七先生呼んできましょうか?」
「一応身体検査で、凶器は持っていないようだし、本人もこれ以上何かする気力はないようなので、大丈夫だろう。芽衣子嬢もいる事だしな…。」
「その人が不審者なんですね…。(確かに殺気もないし、戦闘力弱そう…。)」
「ひぃっ…!!|||| 助けっ…!」
さっき、ぶっ飛ばされた相手、芽衣子がいるのに気付き、ガタガタと震える不審者のツインテール女子。
「君が逃げずに素直に事情を話してくれるなら、芽衣子嬢は何もしない。
君の身元と、なぜステージに乱入しようとしたのか、何をしようのしたのか、教えてくれるな?」
「は、はい。分かりました…。」
柑菜に厳しい視線を向けられ、ツインテール女子は観念したように話し出した。
「私は遠愛高校1年の野呂茉理です。」
「やっぱりそうなんだ!同じ制服だから高校一緒かもとは思ってただけど…。
どこのクラス?もしかして会った事あるかな?」
大きく目を見開いた星川スミレに聞かれ、野呂茉莉は言い辛そうに答えた。
「いえ。1-F組に所属していますが、第一志望に落ちて気落ちして引きこもって、不登校なのでお会いした事はないと思います。」
「そ、そうなんだ…。」
「実は、私、『8』に呪われているんです…。」
「『8』に呪われている?」
不可解な顔で復唱する柑菜に、ツインテール女子は頷いた。
「はい。私は、中学では定期テストで毎回5番内をキープする優等生で、今年この青春高校を受験して、本来なら余裕の成績で受かる筈でした。」
「えっ。じゃあ、もしかして、私が受験した時に同じ場所で試験を受けていたんですかっ?」
「ひぐぅっ…!」
芽衣子が驚いて声を上げ、野呂茉莉は、ビビりながら説明した。
「え、ええ、まぁ…。
けれど、受験日の8日前に風邪を引き、前々日には38.8℃の熱を出し、当日までに熱は辛うじて下がり、受験番号8番目で試験を受けたものの、まだ本調子ではない為、本来の力が出せず、結果は散々でした。
同じ学校の人、8人受けて私だけ落ちました。故に私は『8』という数字に呪われた女なんです…。ううっ…。」
「まぁまぁ、君、泣かないで。」
「う、う〜ん。(京ちゃんどう思う?)」
「う〜ん。(まぁ、風邪をひいて受験に失敗したのは、確かにショックだろうけど、『8』に呪われているというのは若干こじつけのような気がするな…。)」
過去を語り、項垂れる野呂茉莉を前に、宥める柑菜と、こそっと話し合う芽衣子と京太郎。
「世間では縁起のいい数字と持て囃す中で、私だけが、8の数字でこんなに不幸になっているなんて、悔しくて…!
だから通うことが出来なかった青春高校の文化祭の華やかなステージで、8番目の団体の時に乱入して、皆に私と同じ様に8という数字で嫌な思いをさせてやりたかったんです。」
「はぁっ…。それで、マイクを持っていたのか。」
「はい。ステージに乱入して、今までの恨みつらみを吐き出してやろうと思ってました。非力な女の子なら、不意をつけば何とかなると思って…。でも…ひいっ…!||||」
そう言って、芽衣子にぶっ飛ばされた事を思い出したのか、野呂茉莉は、自分の体を抱き締めた。
「なんとも、浅はかで子供っぽい計画を立ててくれたものだな。
ステージに立っている、一見非力な女子が世界最強の霊長類かもしれないだとは、考えなかったのかね?
一歩間違えれば君、死ぬところだったんだぞ?」
「うわぁっ…!ごめ、ごめんなさいっ。わ、私、バカでしたっっ!」
白瀬先輩の言葉に、顔を覆って泣き伏す野呂茉莉。
「ちょ、白瀬先輩、言い方…。」
「いや、すまん。芽衣子嬢には無理を言って協力してもらってるんだが、あまりにも蹴りが殺人的な威力だったもので…。」
「ひいぃっ!」
白瀬先輩に抗議する芽衣子に野呂茉莉は怯え、飛び退る。
「あなたも、怪獣を見るような目で私を見るの止めて下さい!!自分勝手な理由で、皆に迷惑かけているのはあなたですからね?」
「ビクッ!ガクガク、ブルブル…。」
「まぁ、その通りだな。君がした事は、皆が楽しみにしていた文化祭のステージを台無しにするだけでなく、遠愛高校の評判を著しく落とす行為に他ならない。下手したら、これから、遠愛高校の生徒は他校の文化祭出禁、もしくは、文化祭中止なんて事にもなりかねない事だ。」
「えっ!」
「っ……!」
柑菜の言葉に野呂茉莉は驚き、思わず悲しそうな表情の星川スミレを見遣った。
「そこまで考えてなかったかい?そんな事になったら、もちろん皆は、遣る瀬ない思いがするだろうよ。でもその恨みの矛先は『8番目』の数字に対してではなく、文化祭で乱入騒ぎを起こした君に向かう事になる。
今住んでいるところで暮らせなくなってもいいのかい?」
「そ、そんなっ…。||||
出来心だったんです。ちょっと嫌がらせをするぐらいのつもりで…。
ご、ごめんなさいっ!!どんな償いでもしますから、それだけは、許して下さいっ。この通りですっ!!」
青くなって額を床に擦り付けて土下座をする野呂茉莉にため息をつくと、柑菜は、ぐるっとその場にいる皆を見渡して言った。
「皆、どうだろう?この子のした事は、迷惑行為以外の何物でもないが、人に危害を加えるつもりはなかったようだ。
こちらも事件となると、文化祭への規制が厳しくなるデメリットもある。(あと、芽衣子嬢のぶっ飛ばしが過剰防衛と言われる危険性も…。)
もう二度と、こういう事を起こさないと約束出来るのであれば、今回の件は不問にしてもよいかと思うのだが…。」
「私は別に構いませんが…。(また来るなら、何度でもぶっ飛ばしますし…。)」
「めーこを襲おうとした事は許せませんが、二度としないというのであれば、その後の事は白瀬先輩にお任せします。」
「おじさんは部外者だし、皆が丸く収まるんであれば、オールオッケーよ?」
「「私(俺)達は柑菜さんに従います。」」
「遠愛高校の生徒として私もそうしてもらえるんであれば、ありがたいな。
野呂さんのその後は私が見守ります。」
芽衣子、京太郎、京介、雅、潮、スミレは柑菜の意見にそれぞれ賛成する事となった。
「ううっ。み、皆さん、ありがとうございますっ。
騒ぎを起こしてしまって、申し訳ありませんでしたっっ。
二度とあなた様に向かって行くなんて命知らずな真似はしませんから、殺さないで下さいっ。」
野呂茉莉は、涙を流してその場で皆に謝り、芽衣子に向かっては、助命を懇願した。
「だから、殺しませんって!」
ぷりぷりと怒る芽衣子。
「ま、まぁまぁ。それに、人生塞翁が馬。不運が転じていつ幸運がやってくるか分からないぞ?
現に、そこの矢口少年は、今でこそ芽衣子嬢とラブラブで幸せな青春を謳歌しているが、以前(私も含め)7回も嘘コクをされるという不運に見舞われた事があるんだ。」
「ええっ。7回も嘘コクを?本当にそんな事があり得るんですか?」
「ははっ…。ま、まぁね…。」
柑菜が京太郎を指し示して告げた事に、野呂茉莉が信じられないというように目を見開くと、京太郎は苦笑いで肯定した。
「けど、8回目に告白して来たのが、幼馴染みで後輩のめーこで、その後付き合うように…。」
「その上、8回目に告白されたのが、こんなに恐ろしい方で、付き合う羽目になったんですね?!私以上に8に呪われているじゃないですかっ…!!||||」
「いや、あのね…。」
「失礼なっ!!」
衝撃をうけている野呂茉莉に、困る京太郎と怒り爆発の芽衣子。
「私より「8」に呪われている不幸な状況でも、強く生きている人がいるんですね…。
私なんかとんだ甘ったれでした…。
受験に合格していたら、この恐ろしい方と同学年になっていたかと思うと、却って幸運だったような気さえしてきました。
私、遠愛高校でよかったです!✧✧」
「野呂さん…!✧✧」
拳を握ってそう言う野呂茉莉に、遠愛高校スミレはパアっと顔を輝かせた。
「なんて言い草ですか!がるる…!」
「す、すまん、芽衣子嬢。そんなつもりで引き合いに出した訳じゃないんだが、なんか上手い事まとまりそうだから、ここは堪えてくれっ。」
「めーこ、ヨーシヨシヨシ、どうどう。」
「ふぐっ。くう〜んくう〜ん。あ〜ん。京ちゃぁ〜ん。」
柑菜に手をすり合わせて頼まれ、京太郎に頭を撫でられ、すんすん泣きながら甘え、ようやく大人しくなった芽衣子であった。
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「じゃあ、私、野呂さんを送って行きます。」
「「「「ありがとう、星川さん…。」」」」
それから、スミレは野呂茉莉と連絡先を交換し、バイクで彼女を送って行くことになり、見守る芽衣子&京太郎、京介、柑菜。(潮と雅は栗珠の見張りで、保健室に残った。)
「すみませんが、栗珠ちゃんの事、お願いします…。特に、矢口くん、氷川さん。栗珠ちゃん、二人にとても会いたがっていましたので、顔を見せてあげて下さい。」
「ああ。分かった。」
「(お下の世話も含めて)任せて下さい。」
「よかった…!」
力強く頷く京太郎と芽衣子に、スミレはホッとした表情になると、今度は野呂茉莉にメットを渡し、笑顔を向けた。
「じゃ、行こっか?野呂さんと知り合えて嬉しいな。学年違うけど、誘いに行くから、これからいっぱい遊ぼうね?」
「は、はい…。//(スミレさん、優しくて、いい人…。知り合えてよかったなぁ…。)」
野呂茉莉が、そう思った時…。
ドルンドルン…!
バイクのエンジンをかけると共にスミレの目の色が変わった。
「じゃ、皆あばよ!茉莉、しっかり捕まってろよ?甘ったれのお前に、本当の風ってものを教えてやるぜっ!」
「へっ?!」
「行っくぜえええぇっ!!!」
「ぎゃあああああっ!?皆さん、ご迷惑おかけしましたあああぁっ!!」
ドルンドルルン!ドギュウウーン!!
ギャギャーンッ!!
後部座席に野呂茉莉を乗せたスミレの
バイクは、校門で見送っている一同を残してあっと言う間に走り去って行った。
「「「っ…。||||」」」
「星川さん、秋川さんに続いてまた一人舎弟ができましたね…。」
他の全員ドン引きで立ち尽くす中、芽衣子は爽やかな笑顔を浮かべたのだった…。