文化祭編⑩ 受け継がれるサラブレッド?
「いらっしゃい、もうすぐ劇が始まります!ご観覧いかがですかぁ?」
「タコス喫茶で〜す!激辛に挑戦してみませんかぁ?」
「うわぁ。盛り上がってるね〜?どこ行こっかぁ?」
「……。ボソボソッ…。」
青春高校文化祭二日目。
あらゆる場所で、客引きが行われ、活気づく中、青春とは違う、セーラー服を来た女子二人組が校内を歩き回っていた。
二人組の内の一人、セミロングの黒髪の快活そうな美少女がもう一人の、ツインテールにサングラスをした女子の口元に耳を寄せて聞いた。
「え。なぁに?栗珠ちゃん、どこ行きたいって?」
「はい。スミレちゃん。組長様と姉御様の所属されている部活、読書同好会の展示室へ参りたいです。
そちらで部誌を売っているそうなので少しでもご協力できればと…!」
二人の女子とは、遠愛高校から文化祭にやって来た星川スミレと秋川栗珠であった。
栗珠が、気合を入れるように拳に力を込めると、スミレは、にっこり笑顔になった。
「ああ。そうだったね。栗珠ちゃん、あの二人に絶対の忠誠を誓っているんだもんね。せっかく会いに行けるのに、サングラスなんかしていて、いいの?」
「はい。私は罪人なので、身バレすると、皆に嫌な思いをさせてしまうと思いますので…。」
「う〜ん。栗珠ちゃん、真面目だなぁ。(それでも、ツインテールは、変えないんだね?何かのポリシーなのかなぁ…)」
色々頑なな栗珠に苦笑いしつつ、スミレは、校内の地図を広げて、3階部分の1箇所を栗珠に指差して見せた。
「ホラ。読書同好会は、3階の一番奥の方みたいよ?行ってみよう!」
「ハ、ハイ!スミレちゃん…!」
と返事をしたところで、栗珠は突然情けない顔をした。
「あ、その前に、お手洗いに…。緊張しちゃって…。」
「ああ。うん、行っとこうか?栗珠ちゃんおトイレ近いもんね。」
二人は、まず一階の女子トイレに向かったのだった。
*
「ふうっ。(組長と姉御様とお会いするのもひさしぶり…。)緊張するなぁっ…。||||」
「ふうっ。緊張するなぁっ…。||||」
「?!」
栗珠がトイレから出て来たところ、洗面所で
鏡の前に立ち尽くしながら、同じセリフを吐いているサングラスにツインテール、紺色のセーラー服を来た女子がいた。
「もう止めようかな…。いや、8番目の恨みを忘れるな…。」
「???」
(何この人、格好も変だし、ヤバい奴じゃない?)
青褪めて何かブツブツ言っている彼女を、栗珠が(自分の事を棚にあげて)不審に思っていると、その気配に気付き、女子が振り向いた。
「?!わ、わあぁっ!!」
ドンッ!
「キャッ!!」
カシャン✕2
慌てた不審な女子は、急いで逃げようとして、栗珠とぶつかり、互いのサングラスを床に落としてしまう。
「っ…!!うわあぁっ!!」
不審な女子は、さっとサングラスを拾うと、トイレの外へ出て行ってしまった。
「痛たた…。何なの、あの人、ぶつかったなら、謝りなさいよね…。もう…!サングラス壊れてないかな…。」
ぶつかった衝撃で、尻もちをついてしまった栗珠は、サングラスを拾い、首を傾げた。
「ん?微妙にデザイン違うような…?うわっ!このサングラス、度が入ってる…!」
試しにサングラスをかけてみると、伊達メガネの自分のものと違って、かなり強い度数が入っていて、視界が歪み、栗珠は、クラッとしてしまう。
「ど、どうしよう…?罪人の私は変装しないといけないのに…。」
「あら?お嬢さん、どうしたの?何かお困りかしら?」
そこへ、トイレに入って来た生徒の父兄らしき女性が、半泣きの栗珠に声をかける。
「じ、実は…」
栗珠は、その優しげな品の良さそうな女性に、事情を伝えられる限り話すと…。
「なるほどね。事情があって、変装しなくてはならないのに、他の人とサングラスがすり替わってしまったのね。それは大変だったわね。」
「そうなんです…。」
女性は、同情的に頷き、栗珠は涙目になった。
「大丈夫よ、私いいものを持っているの。お嬢さんに差し上げるわ。」
そう言って、女性は栗珠に栗毛色の何かを手渡した。
「??!」
「分かるわ。誰にでも、変装が必要な時ってあるわよね?お嬢さん、それを使って頑張ってね?
では、私はそろそろPTAの集まりがあるので、これで…。」
栗珠が固まる中、女性=氷川麻衣子=芽衣子の母=サラブレッドマスクの前任者はにこやかに去って行った。
「ありがとう…ございます…??」
一人残された栗珠は、馬のマスクを手に呆然と佇むのであった…。
スケジュール予約する時、この話を入れ忘れている事に後から気付きまして、スケジュール乱さないよう為、次話も同時投稿させて頂きます。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いしますm(_ _;)m