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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク二人目
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茶髪の君に寄せる思い

 

 放送室の中で、窓付きの扉の前で心配そうにこちらの様子を見守っていた放送委員は、芽衣子ちゃんが、窓を覗きこみ、オッケーサインを出すと笑顔になり、他の放送委員に伝えていた。


 あんな状況で、動画もちゃんと見れていなかった中で、秋川は二つ目の動画のコメントを難なくこなしていたらしい。

 放送委員が、秋川に紙で指示を見せると、余裕の笑顔で頷き、コメントを終わらせていた。


 そして、放送室の扉は開き、中から放送委員が俺達を迎えてくれた。

「二人とも中へどうぞ。動画オッケーしてくれたんだね、ありがとう!」


「はい。大丈夫です。」

 芽衣子ちゃんは大きく頷いた。


「ええ、まぁ…。」

 俺は苦虫を噛み潰したような表情でそう言うしかなかった。

 そして誰とも目を合わさず、放送室の壁際に立ち、血が出る程固く拳を握り締めて必死に感情を押し殺していた。


 そして、芽衣子ちゃんはそんな俺の様子を気に掛けつつ、インタビュー用の席に戻った。


 秋川は意地悪そうな笑みをうかべてそんな俺達を見ていた。


 スクリーンには3つ目の動画が映し出されていた。


 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


 学校の屋上に背丈、顔、体格、どれをとっても普通の男子生徒と茶髪を風に靡かせた美少女が、向かい合っている。


「ダメだ、芽衣子ちゃん!」


 フツメン男子生徒は必死に叫んでいた。


「俺、別にショートカットが好みってワケじゃないよ!芽衣子ちゃんの髪切って欲しくない。やめてくれ!!」


「え。そうなの?」


 茶髪美少女はパチパチと瞬きをした。

 そして、自分のセミロングの髪を一房手にして、男子生徒におずおずと聞いた。


「えと…、私のこの髪、長い方が京先輩は好き…?」


「ああ、芽衣子ちゃんの茶髪、綺麗で好きだよ。だから、切らないでくれ。」


 茶髪美少女は、男子生徒の言葉に息を飲むと、

次の瞬間、かああぁーっと耳まで真っ赤になった。


「きょ、京先輩が、私の髪を好きと言ってくれてすごく嬉しい…っ!私髪切るのやめます。ずっとこの髪型でいますねっ。」


「っ!!」


 涙を浮かべて笑顔でそう言う彼女の表情はとても美しく、ふわっと風に靡く彼女の茶髪は日に透けてとても綺麗だった。


 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


 動画が終わると、放送委員は皆感嘆の表情を浮かべていた。


 そして、秋川はというと、鳩が豆鉄砲でも食らったような表情で、あんぐり口を開けていた。


「ふっ。ぶふっ。クックックッ。」


 いつもの取り澄ました表情とはまったく違った間抜け面を見たら、堪えていたものが抑え切れず、俺は肩を震わせて笑ってしまった。


 そして、インタビュー用のカメラからの画像が、スクリーンに映し出されると、田橋が興奮した様子で、語り出した。


「いやぁー!非常に美しい動画でしたね!

 今日の有名人のトリは、1年氷川芽衣子さんと、2年矢口京太郎くんでした。」


 そして、芽衣子ちゃんに向いて質問をする。


「氷川さん、これはどういうコンセプトの動画なんでしょうか。」


「はい!この動画は『すれ違いカップルの告白』をテーマにしています。男の子の好みがショートヘアと勘違いした女の子が、髪を切ろうとするんですが、男の子がそれを止め、女の子に想いを告げるというものです。

 私、こういう告白シーンを作るのが大好きで、矢口先輩に動画作りに協力して頂いたんです。

 流石は嘘コクで有名な矢口先輩、嘘コクする方もとっても上手で、私、ドキドキしてしまいました。」


 流石は嘘コク大好きな芽衣子ちゃん。

 さっきまでの緊張ぶりはどこへやら。嘘コク動画について熱く語ると、頬を染めて、チラッと俺の方を見た。


 やめなさい!その表情は並の男子なら誤解するからね?


「そうなんですね。いや、2人息ピッタリで素晴らしい演技でしたね。秋川さんはどうでしたか?」


「へっ?」

 急に振られた秋川はキョドりつつ、引き攣った笑顔で答えた。


「そ、そうですねー。氷川さんとっても綺麗で素敵でしたぁ。2人いい雰囲気でまるで、○カリのCMみたいでしたねー。」


 秋川もまさか、嘘コク()()()側の動画だとは思ってもいなかったのだろう。


 評判を落とす為の材料になるどころか、逆に学校中の生徒の人気を上げてしまったであろう事態に内心の動揺と苛立ちが隠しきれていなかった。


 天使の笑顔の仮面を引っ剥がしてやった事に、俺は胸のすく思いがしていた。


 一人ニヤニヤしていた俺だったが…。


「実はここに、もう一人の出演者、矢口くんも来ているんですよ。彼にも話を聞いてみましょう!」


「え。」


 田橋の声に、いつの間にかインタビュースペースに俺の席が用意されているのに気付いた。


 う、嘘だろ…?最悪だ…!


 放送委員に温かい目で見守られる中、俺はガックリと肩を落とした。


 こうして俺は、ニコニコ顔の芽衣子ちゃん、虚無の瞳の秋川に挟まれ、田橋にいじられるというしょっぱい時間を過ごすハメになるのだった。


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