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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク二人目
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嘘コク2人目 秋川栗珠

「矢口くぅーん。」


 今日も、運悪く先生に雑用を押し付けられ、少し遅くなった下校時、下駄箱で外履きに履き替えていた俺に下駄箱の影からひょっこり顔を出し、甘ったるい声をかけてきた女子がいた。


 クラスメートの秋川栗珠あきかわくりす だった。

 カールのかかったツインテールに、くりっとした大きな瞳の可愛らしい顔立ちのその少女は、天使のように微笑んだ。


「矢口くん、もう帰り?ちょっとお話いいかな?」


 外見的には儚げにさえ見える小柄の少女を見た瞬間、俺は警戒心をマックスまで引き上げた。


 秋川の周りを見渡すと、見える限りでは取り巻きはいないようだった。


 しかし、油断は禁物だ。

 俺は内面の感情を表に出さないように、張り付いたような笑顔を浮かべた。


「やぁ。人気者の秋川さんが、一人でいるなんて、珍しいね。俺に話って何?まさかまた『嘘コク』?」


 一瞬間があり、秋川の眉間に皺が寄ったが、すぐに笑顔に戻った。


「やだぁ!もう、矢口くん私が()()()()()()()()()()()()()。」


「ああ。()()()()()()。で、何の用かな?」


「うん。あのね。一年の氷川芽衣子ちゃんって知ってるよね?」


 !?


 内心の動揺を悟られないよう俺はにっこり笑った。


「ああ、一年のすごい可愛い子だよね。偶然、落とし物を拾ってあげて、話した事があるだけだけど、何か?」


「へぇ、それだけ?氷川さんに聞いたら、矢口くんの事すごく慕ってるみたいだったけど?」


「入学したばかりで、心細い中親切にしてもらったから印象に残ってるだけじゃない?それで何?」


「ああ、金曜日のお昼に校内放送で、

『今日の有名人』っていう、部活や勉強で活躍している人とか特技や趣味のある人の動画、流してるじゃない?私、動画が流れた後にコメントする役で放送室に呼ばれてるのね。」


「ああ…。」


 各教室のテレビにリア充の運動部イケメンとか映って、クラスの女子達がキャーキャー言ってる奴か。

 いつも、流し見でちゃんと見てないけど…。

 確か動画の後、人気の女子とかがコメントしてたよな。

 どちらにしろ俺には縁のない話だが…。


「で、一人じゃ、ちょっと恥ずかしいなぁと思って、一年ですっごい美少女と名高い氷川さんと一緒にコメント役できたらなぁと思って、今日お願いしたの。」


 !!


「それでぇ、矢口くんも、見学に来てくれたら、氷川さん心細くなくていいんじゃないかと思ってね。よかったら、明日のお昼、放送室に来てくれないかな?」


「どう誤解してるか分からないけど、俺と氷川さんはそんな親しいワケじゃないし、俺がいても却って緊張しちゃうと思うよ。氷川さんの友達を誘ってあげたらいいんじゃないかな?」


「へぇ。そうなんだ?ま、来ないなら来ないでいいや。氷川さんがどうなろうが、構わないっていうなら。それはそれで。」


 表情は変えないまま、急に声のトーンを下げた秋川を俺は睨みつけた。


「お前何を企んでるんだ?」


「何も?ただ明日の校内放送を楽しいものにしたいだけだよ?もし、心配なら13:00に放送室ね。じゃ、一応伝えたから。また、明日ね。()()()()()()()()矢口くん?」


 秋川はにっこり笑うと、手を振ってその場を去って行った。


 秋川の姿が見えなくなると、俺は詰めていた息を一気に吐き出した。


 背中にはびっしょり汗をかいている。


 教室でクラスメートの非難の視線にじっと耐えている柳沢の青い顔が思い浮かんだ。


 それから、

「わぁ。ホラ見てぇ?動画、上手に撮れてるでしょ?」

 天使のような悪魔の笑顔で、俺の前にスマホの画面を見せてくる秋川。


 そして、屋上で舞い上がる芽衣子ちゃんの綺麗な茶髪とはにかんだような笑顔。


 とにかく、このまま放っておく事はできない!


 俺は昇降口横のベンチに移動して、スマホを取り出し、何回か大きく深呼吸をするとL○NE電話をかけた。


 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


「とにかく、このままじゃいけないと思うんだよね…。」


 夕陽に照らされた放課後の教室で、秋川栗珠はツインテールを揺らしてため息をついた。


 柳沢の嘘コクから2ヶ月…。


 クラスで1.2を争う美少女の秋川に放課後呼び出しを受けた俺だったが、大丈夫。今度こそ身の程を弁えた俺は、告白かも…と、かけらも思う事はなかった。


 当然、秋川から切り出された話は告白などではもちろんなく、クラスの女子の間で孤立してしまっている、柳沢についての相談だった。

 柳沢はあれからバスケ部では人間関係うまくやっているようだったが、

 クラスでは、依然厳しい視線を浴びており、

 話す相手といえば俺と、俺の友人、同じバスケ部のクラスメートぐらいだった。

 それも、自分と仲良くすることで、迷惑をかけたくないのか、遠慮がちに必要最低限だけ。


 特にリア充の威圧系女子、森下絵里、坂井夏菜子2人には嫌味や陰口を言われ、秋川はその状況を悲しそうに見ては、柳沢をフォローするような言葉がけをしていた。


「絵里や、夏菜子も、根は悪い子じゃないんだけどね。梨沙に対する態度は目に余るものがあるよね。入学当初はあんなに仲良かったのに。

 このままじゃ、クラスの雰囲気が悪くなっちゃうよぅ…。

 今日、矢口くんに残ってもらったのは、柳沢さんと絵里、夏菜子の仲直りを手伝ってもらえないか、お願いしたくて。」


「俺に?」


 俺は怪訝な顔をした。

 嘘コクされた張本人の俺が、柳沢と他の女子との仲直りを手伝える事なんて、あるのだろうか?


「うん。被害者の矢口くんに頼むのも申し訳ないんだけど、嘘コクされたにも関わらず、梨沙に優しく接してあげてたでしょう?

 バスケ部の柏木くんとの仲も取り持ってあげたって聞いてるよ?」


「うっ。どこでそれを…?」


 秋川は口に両手を当てて可愛らしく笑った。


「ふふっ。矢口くん、優しいよねぇ。

 できたら、絵里、夏菜子と梨沙の仲直りも手伝ってくれないかな?

 私はあんないい子だった梨沙が何の理由もなく、嘘コクをしたとは思えないんだよね。」


「まぁ、柳沢は嘘コクに乗り気な感じではなかったと思う。姿は見えないけど、その場に何人かの女子がいたみたいだし、もしかしたらそいつらに命令されて仕方なくしていたのかもな。」


「それなら、その状況を絵里と夏菜子にも伝えてくれないかな?」


「でも、リア充陽キャのあいつらが、カースト底辺の陰キャの俺の言葉を信じるかね?」


 俺の言葉に秋川は苦笑いした。


「矢口くん、随分卑屈な…。そんな事はないと思うけど、信じなかったら、私も口添えするよ。」


「そうしてくれると有り難いが…。でも、俺は正直言って、あいつらが犯人なんじゃないかとすら思ってるんだが。」


 柳沢を蹴落として得をするのは同じカースト上位の人間。だとすれば、あいつらも条件に当てはまる。手の平を返したみたいな態度をとってるわけも説明できる。


「そんなひどい!あり得ないよ。」


「可能性はあるだろ?」


 秋川も、それは考えない事ではなかったのだろう。瞳を揺らして辛そうな表情になった。


「……。そんな事ないと信じたいけどな。

 とにかく、まずは私が中立の立場から両方から話を聞いてみるよ。矢口くんは、明日梨沙に教室に残るよう言ってくれる?」


「ああ。」


 そして、翌日の放課後、柳沢を呼び出したまでは、よかったが…。


「栗珠!何であんたがここにいるの!?」


 凄い剣幕で怒り狂う柳沢がいた。

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