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8回目の嘘コクは幼馴染みからでした  作者: 東音
嘘コク二人目
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茶髪美少女の土下座

 茶髪美少女の後輩=氷川さんに8回目の嘘コクを受けた翌日のお昼休み、俺は再び待ちあわせ場所の屋上に向かっていた。


 昨日は、嘘コクの選択肢の全てを再現したいという訳の分からない要求をしてきた氷川さん。本気だろうか?

 リア充の考えることは分からんな。


 その場の勢いで言ったという事も考えられるし、約束すっぽかして後で皆の笑い者にするというパターンもある。


 ま、そうなったらそうなったで、

 それ以上面倒事に巻き込まれなくて済むのだから、俺としては問題ナッシング。


 そんな事を思いながら、氷川さんが来るかは半信半疑…、いや、三信七疑ぐらいの気持ちで、屋上に足を踏み入れた瞬間…。


「あっ、矢口先輩、こんにちはー。来てくれたんですね!」

 屋上のベンチにもう一人女の子と二人で座っていた氷川さんが、待っていましたとばかりに嬉しそうな声を上げて、こちらに駆け寄ってきた。


「お、おう…。こんちは…。」


 いた。しかし、友達も一緒とは。これはどういう狙いだ?


「い、一日ぶりでしたね。お元気でしたか?」

 少しはにかんだように微笑んでいる氷川さんはまさしく、天使。うん。今日も揺るぎなく可愛い。


「おう、元気元気。えーと、氷川さん、そっちの子は?」


 俺は氷川さんの後ろから歩いてくるショートボブの小柄な女の子を指して聞いた。


「ああ。この子は、私の中学時代からの友達のマキちゃんです。今日は嘘コクミッションのお手伝いに来てもらいました。」


「矢口先輩、こんにちはー。笠原真希子です。今日はよろしくお願いします!」


 笠原さんは初対面の俺相手でも物怖じせずに、ハキハキ喋るとにっこり笑った。

 おっとり天然の氷川さんとは大分タイプが違うらしい。


 ん?っていうか氷川さん、さっき嘘コクミッションのお手伝いとか言った?


「おう。よろしくね。笠原さん、お手伝いって事は、君は氷川さんの7パターンの嘘コクを再現するとかいう訳のわからないミッションを知ってるの?

 友達として、心配したり止めたりはしないの?」


「んー、ま、正直何言ってんだコイツ?どうしてそうなった?とは思ってますけどねー。」


 笠原さんは、ちょっと首を捻って苦笑しながら辛辣に答えた。


「ううぅ…。マキちゃん、ひどいよ…。」


 氷川さんは首を項垂れている。


「でも、芽衣子は中学の時からずっとその事(京ちゃん、京ちゃん)言ってましたからね。止めても無駄だろうと思いまして。」


「氷川さん、そんなに前からその事(嘘コク、嘘コク)言ってたんだ…。」


 俺は衝撃を受けた。氷川さんの嘘コク好きはかなり根深いものであるらしい。


「はい。だから、せめて友人として、どうなるにせよ最後まで見守ってやろうと思いましてね…。」


「マキちゃん…。」


 氷川さんは感動して、目をウルウルさせている。


 うーん、そうか。友達が止めてくれれば、

 この面倒事がまるっとなくなるかと思ったんだが、氷川さんの決心がそこまで固いなら仕方ない。それなら、できるだけ早くミッションをクリアして自由な身になるとするか。


「じゃ、早速今日のミッションを…。」


 と俺が言いかけたとき…。


「待ってください。今日のミッションを行うその前に、私達呼び方を変えませんか?」


 と、氷川さんが提案してきた。


「呼び方…?」


「はい。これから、嘘コクのミッションをやっていく上で、『氷川さん』と『矢口先輩』じゃ、よそよそし過ぎると思うんです。」


「そうかなぁ。」


 付き合ってる同士ならともかく、告白時点ではそんなもんじゃねーの?

 とは思ったが、氷川さんはプクッとふくれると、更に主張を重ねてきた。


「そうですっ。私達は大事なミッションを共有するパートナーなんですから、もっとお互いに親密にならなければ!

 風の便りに聞くに、矢口先輩は他の嘘コクした女子には随分優しい対応をされていたそうじゃないですか。私にもそうして欲しいです。」


 いや、どこ情報よ。それ?


「うーん。そしたら、俺は氷川さんの事を何て呼べばいいの…?」


「『芽衣子』と…。呼び捨てで!」

「ぶほっ!」

 頬を赤らめて言う氷川さんに、俺は吹いてしまった。


「ごめん、ギャルゲーの主人公じゃあるまいし、昨日会ったばかりの女の子に名前呼び捨てとか、カースト底辺の俺には荷が重いよ。」


「ダメですかぁっ?昨日私のパンツまで見たくせに、呼び捨てはダメなんですか?」


 氷川さんは涙目になっている。


「それとこれとはまた別の話じゃ…。あ、いや、違うんだ…!氷川さんが転んで偶然見えてしまっただけで、不可抗力だったんだ!」


 氷川さんの隣で俺をジト目する笠原さんの視線が痛い。


「あぁ〜ん、呼んでくれないなら、矢口先輩にピンクの水玉にくまさんプリントのパンツ見られたって皆に言っちゃいますよ?」


「それだと、氷川さんのパンツの柄が皆に知れ渡る事になるけど、それはいいの…?」


「はっ。私ったら何て破廉恥でひどい事を…!」


 氷川さんは頬に両手を当てて、真っ赤になった。


「脅迫なんて、卑怯な真似をしてすみませんでしたぁっ!私ごときが、名字で読んでもらえるだけでも、有り難いことなのに、つい調子こいた事を言ってしまって!この上は、豚でも犬でも好きなようにお呼び下さい!」


 そう言って、屋上の床に土下座をし出す氷川さんに俺は慌てた。


「ちょっ、やめてよ。氷川さん!」


 女の子のパンツを見た上に土下座させて豚とか犬呼ばわりとか、俺どんな鬼畜だよ?

 氷川さん、こんなに可愛いのに、ポンコツで発想がかなりやばくないか?

 しかも、友達がいる前で土下座はやめてくれ〜!


 俺は氷川さんの隣に佇む笠原さんの反応が気になって仕方なかった。


 しかし、笠原さんは意外にも平気な顔で、氷川さんの前にしゃがみ込むと、その肩をポンポンと叩いた。


「芽衣子、落ち着きな。矢口先輩、困ってる。」


「あ。ご、ごめんなさい…。」


 我に返った氷川さんは、顔を上げて頬を赤らめた。床に押し付けた額もほんのり赤くなっていた。


「ごめんなさいね。この子、夢にまで見たシチュエーション(憧れの京ちゃんに会えた)に、テンパっちゃってるみたいで…。

 ちょっと思考がやばくて、ポンコツな奴ですが、見捨てないでやってください。」


「そんなテンパるぐらい、夢にまで見たシチュエーション(嘘コクの再現が出来る)だったんだね。分かった。俺に出来る限りの事はさせてもらうよ。」


 俺はしゃがみ込んで氷川さんに向き合った。


「すぐに呼び捨てってのは難しいけど、取り敢えず、『芽衣子ちゃん』って、呼んでもいいかな?」


「えっ。はっ、はいっ。嬉しいです!ありがとうございますっ。」


 氷川さんは、ぱぁぁっと花が咲くような笑顔になった。


 うーん。可愛いは可愛いんだよな。


「そしたら、私は矢口先輩の事を京ちゃ…じゃバレるか…。えーと、『京先輩』と呼ばせてもらってもいいですか?」


「ああ、俺の事は何と呼んでもらってもいいよ。」


「ありがとうございます。えへへ…。京先輩!そしたら今日のミッション、張り切っていきましょう!」


 ああ、うん。まだ、ミッション始まってもいなかったね。始まる前からなんかどっと疲れたぜ。


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