えっと……次は借り物競争だそうだ
第一競技も終了し、次はいよいよ俺の出番か……。
次の競技はというと……借り物競走か。
この学校の借り物競走って、本当一筋縄ではいかないから困る。
去年この競技をやったやつにどうだったかを尋ねていると、
「あれはもうやりたくない……」
「第一、これは借り物じゃないっての!!」
など、ほとんどの人が口をそろえて拒絶反応を示していた。
……そんなに無理難題がふっかけられるのか?
この借り物競走は。
「瞬一~!頑張って~!!」
「まぁ……何とか頑張ってはみる!!」
手を振りながらこちらに向かって叫んでくる葵の言葉を聞き、俺はそれに言葉を返す。
すると、葵は笑顔になり、やはり俺を応援するのだった。
「瞬一先輩」
「む……その声は、刹那か」
ふと隣を見ると、青組のハチマキをした刹那がいた。
ああ、言い忘れてたけど、この競技は男女学年混合型なんだよね。
借り物競走って、特に足の速さとかあまり関係ないから。
なにせ、早く借りられたやつの勝ちだから。
「意外だったな。お前がこの借り物競走に参加してるなんて」
「私もよ。瞬一先輩だったら、さっきの100m走とかをやってそうだもの」
「そうか?俺って案外面倒くさがりだからな……ちなみに、リレーをやらされる羽目になったけど」
葵と晴信、そして大和の推薦により、俺はリレーで走る羽目になったのだ。
晴信はともかく、葵と大和の意見と言われると、説得力があるしな。
さらに大和の言葉に乗じて、北条までもが、
「三矢谷瞬一の体力は相当のものよ!」
などと、ありもしないことを吹き込みやがった。
おかげでもう逃げられない状況に追い込まれたということだ。
……北条め、いつか絶対借りを返してやるからな。
「ご苦労様、瞬一先輩……だからって私は負けませんし、手加減する気もありませんよ?」
「知ってる。俺だってリレーがあるからって体力温存策なんてとりゃしねぇよ」
もとよりそんなつもりなど微塵もない。
やるからには全力でやる。
これ、俺のルール。
「……いいじゃない。けど、その根性もいずれ私が折ってみせるわよ」
「折れるもんなら折ってみろ。俺の意志は、そんじょそこらのもんじゃなかなか折れないぜ?」
なんか気分が乗ってるからだろうか。
俺らしくもなく、刹那に挑発している俺がいる。
『さぁやって参りました借り物競争!この競技より、たった今学校に到着致しました私、宮橋修也がお送り致します!』
……はい?
なんか、実況がついてきたんだけど。
しかも、無意味にハイテンションな上に、コイツ体育祭の日に堂々と遅刻してきたってことか?
「なんていうか……馬鹿ね」
刹那が何時もの毒舌(?)を吐く。
『馬鹿で結構です!何せ体育祭ですから馬鹿にならないのが損!暴れなくては損!!盛り上がらなくては損!!!』
……今、刹那の言葉に対して返答しなかったか?
おかしくね?
実況席があるとしたら、本部の所にあるわけだろ?
だというのに、どうして本部に一番遠いはずのこの場所からの声(しかも観客の大歓声によるデコレーション済み)が聞こえるのだろうか?
『細かいことは気にしないで結構ですよ!そこの貴方!!』
……俺?
『さぁいよいよ競技が始まろうとしています!本日はここ、雷山塚高等学校・中学校で共用している闘技場よりお送りしています!!』
どっかのテレビ中継かよ、これは。
「……負けないわよ、瞬一先輩」
「……ああ、分かってるっての」
どうやら刹那は、実況を全力で無視する方針を立てたようだ。
『それでは参ります!位置について!』
……今度はコイツがスタートの合図を言うのか。
『よ~い……』
パン!
結局最後はピストルの音が鳴り、俺達は一斉にスタートした。
……大丈夫かね、この体育祭。