一之瀬家
Side春香
私は部活が終わった後、自分の家に帰宅しました。
寮生活というのも考えたのですが、自分の家も近いことですし、私は自宅からの通学を選んだのです。
「ただいま」
ガチャリと音を鳴らす扉をくぐり、私は家の中に入りました。
決して大きくはないけど、だからと言って小さくもない私の家。
しかし二人で住むには、少し広い家。
そう、私はここで、兄と二人暮らしをしています。
「お帰り、春香」
奥の方から現れたのは、私の兄です。
名前を一之瀬辰則といい、私の一個上の兄です。
雷山塚高等学校に通っていて、クラスは三年S組。
背が高くて、少し眺めの、白に近い灰色の髪。
無駄のない体つきをしていて、妹の私から見ても、兄はカッコイイ部類に入ると思います。
「ただいま、兄さん」
私は兄のことを『兄さん』と呼びます。
理由は……特にありませんけど。
「どうしたんだ春香?ボッとしたりして」
「……いえ、なんでもありません」
どうやらその場に立ち尽くしてしまっていたみたいで、私は着替えとかをするために自分の部屋に向かう。
その途中で、
「なぁ……春香」
「はい?」
「……学校、楽しいか?」
久しぶりに聞かれたその質問。
以前聞かれた時には、『楽しくない』と答えました。
けど、今は……。
「……はい。楽しいですよ」
「!!」
すると、兄の顔が驚いたようなものに変わったのが分かりました。
よほどそんな答えを返されたのが意外だったのでしょう。
確かに、前までの私なら『楽しくない』と答えていました。
部活にも入ってなかったし、私は高校一年生の時まで友達と呼べる人がいませんでした。
ですが、進学してS組にいる今、私は友達に出会いました。
人見知りをする私に話しかけてくれた大和君。
一緒に料理を作った葵さん。
いつも面白い話をしてくれる宮澤君。
そんな宮澤君と一緒に、いつも場を盛り上げてくれる(?)、北条さん。
そして……不良に絡まれていた所を助けてくれた、瞬一君。
私はもう一人じゃない。
だから私は今、学校が楽しいです。
「……そうか」
「はい!……あ、私そろそろ部屋に戻りますね」
私は部屋に戻って行った。
Side辰則
……正直驚いていた。
春香が、学校が楽しいと答えたからだ。
つまり春香に、友達が出来たということだろう。
母さんと父さんが殺された日から、友達というものを作りたくても作れない。
人見知りの性格になってしまった春香が……友達を作っていただなんて。
「……なら、春香に関わらせるのは、気が引けてきたな」
しかし、俺はやらなければならないことがある。
その計画を実現するうえで、どうしても春香の存在は必要不可欠となる。
俺の計画を実行する上で、春香にはどうしても協力して貰わなくてはならない。
「……すべては、憎きこの世に裁きを下す為に」
……父さんと母さんが死んだのは、事故なんかじゃない。
俺達の父さんと母さんは、ある日突然何者かに殺されたのだ。
……だから俺は、そいつを簡単に許すわけにはいかないんだ。
俺達から両親を奪った奴に……裁きを下さなければならない。
その為には……時間がまだかかる。
まだまだ時間が……。
「けど、それは春香の心を傷つけることにもなる……」
『……ナラ、イッソノコトソノココロヲコワシテシマエバイイジャナイカ』
「……え?」
今、誰かが俺に話しかけてきたような……。
けど、春香は部屋にいるし、俺と春香以外はこの家にはいない。
……気のせい、か。
まぁ、六月まではその時は来ないから、その日まで考えるとするか。
……俺一人でも出来る方法を探すか、それとも春香の協力を得るか、を。
次回より体育祭が始まります。