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Magicians Circle  作者: ransu521
水の都グレイブスタン王国編
80/309

メルゼフの話

国の中を観光しながら、俺達は空港へと向かう。

……あんまり見てなかったから、今日はたくさん回ろう。

そう思ってた矢先の話だった。


「……あれ」


噴水の所まで来たところで。

昨日俺が決闘した男……メルゼフと会った。


「お前……メルゼフか?」

「……君は、三矢谷瞬一だね」

「ああ……ってか、何で俺の名前を?名乗った覚えはないけど」

「あの後アイミーンに聞いたよ」


なるほど……。


「……ちっとばっかし、先に行っててくれないか?」

「え?でも……」

「コイツと二人で話がしたい。だから先行っててくれ」

「……分かった」


渋々ながら応じてくれた葵は、みんなを先導して歩いていった。


「……もう、昨日のような状態にはなってないみたいだな」

「……ああ」


昨日見た黒いオーラみたいなのは、綺麗さっぱり消えていた。

変わりに、申し訳なさそうな表情をつけていた。


「……どうしてそんな顔してんだ?」

「……君に、謝ろうと思ってね。昨日は本当に済まなかったと思ってる」

「気にすんな。何もなかったし、過去の話だ。水に流そうぜ」


これだけ律儀な奴が、意識あってあんなことするはずがない。

ならば、考えられるのは一つだけ。

あの時、コイツの身に何かが起きた、ということだ。


「私はあの時、どうやら気絶をしてしまったらしい……あんなことをしたという記憶が、後から流れてきたんだ。目を覚ましてからしばらく経っての話だった」

「……後から、記憶が流れてきた、か」


そんな症状の病気は、俺は知らない。

いや、これは病気じゃないのかもしれないな。


「それで、あの時お前は、どんな状態にあったんだ?」


もしかしたら、それを聞けば、何かが分かるかも知れない。

そう考えた俺は、メルゼフにその時のことを聞くことにした。


「……私は、無意識の内に体だけ暴走していた。心……思考はきちんと働いていて、私の意識も、きちんとあった。けれど、体だけが言うことをきかなかった」

「続けてくれ」

俺は続きを急かす。

メルゼフはそこで一拍置いてから、話を続けた。


「私は恐れた。こんなの私じゃないみたいだと……その時、私は悪魔に出会ったんだ」

「あ、悪魔ぁ?」


突然そんな単語が出てきて、素で驚いてしまった。

構わずメルゼフは続ける。


「私は心底驚いた。自分の心の中に、そんなものが潜んでるとは考えもしなかったからだ。私がその悪魔に驚きの表情を見せると、その悪魔は言ってきた」

「……」


再び一拍置いて。

それからメルゼフは言った。


「『真の力を発揮しろ、生きた屍よ』……と」


『生きた屍』?

メルゼフは生きてはいるが……人間じゃないか?

当然のように死んではいないし、第一屍って死体のことを指すのに、生きたって表現はおかしいだろ。


「私にはその言葉の意味がさっぱり分からなかった。だから私は尋ねた……すると、『いずれ分かる時が来る。その時を待て』と言われた」


いずれ分かる時が来る。

メルゼフがそう言われたということは……コイツには、何らかの秘密があるってことにも繋がるな。


「これはひょっとしたら、私の消えた記憶と関係があるのかもしれない……」

「消えた記憶?……お前、もしかして記憶がないのか?」

「……幼い時の記憶が、まったくと言っていいほど存在しない。目を覚ました時には、私は一国の王の息子―――王子ということになっていた」


……謎だ。

それじゃあコイツは、何かが原因で記憶を失い、そして勝手に王子にさせられたようなものなのか?


「けど、『メルゼフ』という名前だけは覚えていた……そして、何故だか私の城に来たアイミーンを見て、『守らなければならない存在』と認識したんだ」

「……嫁にするんじゃなかったのか?」

「……本当は、そうじゃないんだ。けど、立場上そうしなければ話が合わないし、嫁になるならそれでもいいかって思えたのも事実だけど」


メルゼフの目を見る限り、どうやら今までの話は嘘ではないことは分かる。

けど、結構ぶっ飛んだ内容が多いから、にわかには信じがたいのも、また事実。

……俺は、この話をどう捉えるべきなのだろうか。


「……私の話は以上だ。君との約束通り、私はアイミーンには二度と近づかないことにするよ」

「……いや、そんなのどうでもいいだろ、もう」

「え?」


驚いたような表情を見せるメルゼフ。

まぁ……決闘の時の約束を、簡単に破棄したんだからな。


「単にアイミーンのことが好きだから、他人の迷惑も考えないで求婚してきたってなら話は別だが、どうやらそういうわけじゃ無さげだしな」

「……いろいろ済まない」

「まぁ、昨日のことをアイミーンに謝って、せめて話し相手として接していけば、お前も何か思い出すんじゃねえか?」

「……そうかもな」


メルゼフはそう呟くと、帽子を深く被り、俺達が歩いてきた方向へと向かう。


「またいつか会おう……三矢谷瞬一」

「……ああ」


右手を挙げて、そう言ってきたメルゼフに、俺も右手を挙げてそう言い返す。

しかし、互いの姿は見えることはない。

俺とメルゼフは、反対方向に歩いて行ってるわけだからな。

……またな、メルゼフ、グレイブスタン公国。

機会があったら、また会おうな。
















今回の話で『ゴールデンウィーク』編は終わりです。

次回より新たな話に参ります。

久々に日本での話が書けるぜ!!

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