科学魔術師と自然魔術師の違いについて
「ん……」
目覚めた時、俺は何故だかベッドに眠らされていた。
「あれ……俺、勝ったはずなのに」
「最後のあの術を使った後、あなたはその場に倒れこんでしまったのよ」
「え?」
どこかから声がする。
……まぁ、いろんな人のうめき声も混ざってはいるが。
その中で、ひとつだけ大人びた声が聞こえた。
ていうか、大人の人の声だった。
「あれ……吉沢先生?」
その声の正体は、吉沢先生―――フルネームで言うと、吉沢茜先生だ。
この学校の保険医の人であり、なのでいつも白衣を着ている。
グラマラスなボディ、その優しい性格、そして何かを見抜くような、吸い込まれるかのように魅力的な瞳から、この学園の中でも人気が高い人なのだ。
「どうしたのかしら?私のことをじっと見て……」
「い、いえ、なんでもないです」
当然、大人というか、この学校の関係者なので、敬語を使わざる負えない。
普段敬語を使っていない俺からしてみれば、こういうのは苦手な方に入るのだ。
「あらあら。初々しいわね」
「はぁ……ところで先生」
「何かしら?」
「俺、戻った方がいいっすか?」
あ、敬語が一瞬離れてしまった。
しかし、吉沢先生はそんな細かい所は気にしないみたいで、
「ええ。もう治療は済ませてあるわ。なくなってた魔力も戻してあるし、もう戻ってもいいわよ」
「あ、ありがとうございます」
ペコッとお辞儀をする俺。
「いいのよ。私は傷を治すのが仕事なんだから」
そう言ってくれた吉沢先生に、俺は心底ホッとした。
そのまま俺は、恐らくまだ戦いが続いているだろう闘技場へと向かった。
「おお、やってるやってる」
俺が改めて中に入ってみると、すでに戦闘は始まっていた。
しかも、どのくらい俺は眠っていたのか。
いつの間にか最終戦の一歩手前まで来ていたらしい。
「うわ……俺、本当にどんだけ寝てるんだよ」
本当に、馬鹿みたいだ。
「……あれ、葵じゃないか?」
ふと、闘技場にいる一人の女子に目を向ける。
そこには、細川葵の姿があった。
身長は低め、体重軽い、スタイルはちょっと足りない、しかし顔は可愛いらしい。
らしい、と言うのは、晴信の評価から引用してきたものだからだ。
茶色で肩まで長さの、ショートヘアーと、澄んだ瞳が特徴的だ。
得意魔術は、確か俺と同じ雷だったような気がする。
ちなみに、俺や晴信と同じ、自然魔術師である。
ん?
自然魔術師と科学魔術師の違いが分からないかもしれないな。
なら、ここで少し、そのことについて説明しておこう。
自然魔術師は、自らの力のみで魔術を発動することが出来る……いわば物語の世界に登場するような魔術師だ。
自分の意志で魔力を練り、それを利用して魔術を発動する。
魔術発動のメカニズムは、こんな感じだ。
欠点として、こちらの方は自分の体の強弱によって、その術の威力等が変動する点だろうか。
一方、科学魔術師の方はと言うと……。
先ほど述べた、魔術発動までのメカニズムを、自らの体で行うことが出来ない人達がいる。
それは努力等が足りないわけではなく、そういった体の構造になっている為だ。
この世界に住む半数の人間が、それに値するらしい。
そう言った人達は、自分の力だけでは魔術を発動することが出来ない。
そこで、その過程を行えるように改良された物を利用して魔術を発動する。
それが、科学魔術師の特徴。
こちらは、自分の体にかかる負担があまり少ないので、ほぼ同じ威力の術を発動させることが出来るのが利点。
欠点としては、魔術発動までの時間のラグと、機械を破壊されてしまえば魔術が発動出来なくなってしまう点だ。
最も、科学魔術師の人達は、予備の物を何個か持っているみたいだけど。
「きゃっ!」
おっと、説明してる間にクライマックスになっているな。
葵と誰かの一騎打ちか……相手には悪いが、この勝負は葵の勝ちだな。
「太古より眠りし雷の精霊よ、私に力を貸して!」
そう。
雷属性の魔術師だとしても、その得意分野というのがある。
例えば、俺の得意技が攻撃系と防御系だとしたら……。
「出でよ、ライズ!!」
何処かから、謎の精霊らしきものが現れる。
そう、葵の得意分野というのは……。
「我が雷を受けよ!!」
その精霊から放たれる強力な雷は、相手の体を確実に包み込む。
そのまま相手は、気絶した。
そう、葵の得意分野は、召喚系なのである。
しかも、雷属性だけではなく、威力は弱いながらも他の精霊も呼べてしまうのが、葵の最大の利点。
学園側も、この力に関してはかなりの過大評価をしているらしく、一年の時は俺と晴信とは違い、いきなりのSクラス入学だった。
中学の時までは同じクラスだったのに……。
てか、あの時の葵、なんだか寂しそうな顔をしていたような気がするんだが……気のせいだろう。
「えへへ♪やったよ、瞬一♪」
俺の方を見て、Vサインを送る葵。
……気づいてたのか、俺がいたこと。
俺は葵に、右手親指を立てて、つきだして見せた。




