なんか変な展開になってません?
次の日。
朝食を食べ終えた俺達は、観光に行くこととなった。
……もちろん、俺抜きでだけどな。
何故俺だけいないのかって?
それはな……このたび俺は、大人の階段を一段上ることに……なってないけどよ。
まぁ、見合いをするのが今日だってことだ。
「……瞬一、後で覚悟しておいてよね?」
何か、去り際の葵の顔がかなり怖かったことは今でも印象深い。
……俺、今日を無事に乗り越えられたら、幸せかもしれないな。
「どうしたんですか?シュンイチ」
「あ、いや、何でもないよ」
目の前に座るアイミーが、俺に尋ねてくる。
何でもないと答え、俺は体勢を整えた。
「では、これより二人の見合いの儀を開始する」
「見合いの儀……って、何ですか?」
国王が高々に宣言したのを聞いて、俺は思わず尋ねる。
国王は答えた。
「うむ。この見合いの儀というのは、簡単に言ってしまえば見合いというものに繋がるのだが……形式的なものになっていてな。始まりと終わりに、しなければならない決まりごとがあってな」
「始まりと終わりに、しなければならないこと?」
「まずは……互いの右手を握るのだ」
「……こうか?」
俺は右手を差し出して、アイミーの右手を握る。
若干アイミーの顔が赤く染まっていく。
……やめてくれ、その顔はちょっぴり反則だ。
「次に、男の方がその右手を自らの額につくような形にする」
「……よっと」
ひざまずくような形となる。
……これ、本当に見合いの始まりなのか?
「そして最後に、『adamo,are,avi,atum,』とささやくのだ」
「あ……なんだそりゃ?」
何語ですか、それは?
さっぱり意味が分からないのですが……。
「ラテン語で、よろしくお願いしますって意味だ」
「お、お父様!?」
そこで、アイミーが何かに気付いたようで、国王のことを言う。
……て言うか、ここの人達はラテン語も読めるのか。
「その顔は、どうしてラテン語を知ってるのかって顔をしているな」
「ま、まぁ……」
「この儀式は、もとよりヨーロッパ諸国より仕入れたものだ。だから、形式的に始まりと終わりだけは、ラテン語で行うこととなっているのだよ」
「なるほど……そういうことだったんですか」
まぁ納得はいった。
けど、アイミーは国王に何を言おうとしていたのだろうか。
「とにかく、俺はその言葉を言えばいいんだな?」
「うむ。そうだ」
「……」
何か、アイミーの顔が赤くなっていっているな。
『これからよろしくお願いします』というだけなのに、どうして顔を赤くする必要があるのだろうか。
「んじゃあ……adamo,are……」
俺がその言葉を言おうとしたその時であった。
『ふむ。その見合い、僭越ながら邪魔させてもらおう』
「……何者だ!?」
俺達の近くで立っていたシュライナーが、警戒するような声を挙げる。
どこからともなく響いたその声に、俺は聞き覚えがあった。
この声……まさか。
「お前……まさか」
「うむ。私は以前に展望台、そしてこの城の中央広場で君に会った者だ」
そう言って男は、その姿を現した。
黒い服に黒い帽子。
……やはりコイツ、あの時の。
「名前をまだ言ってなかったな……私は隣国の『アイスバロン』の王子、『メルゼフ・アイスバロン』だ」
「こいつが……王子!?」
王子なのにこんなにも奇抜な格好をしてるなんて。
王子なら王子らしい格好でもしてみやがれってんだ。
「……にしても、その王子とやらがこんな場所に何の用だ?確かに城の中に入れるような身分ではあるだろうが、この場にいていい時じゃねぇぞ?」
「アイミーンはもとより私が妻にしようと思っていた女性だ。君のような、ただアイミーンの護衛をしただけの男なんかに、ましてや国交を結んだばかりの日本人なんかに、渡すわけにはいかない」
「アイミー……こいつ、知り合いか?」
「い、いえ。アイスバロンには何回か出向いたことがありますけど、私、この人とは会ったことありませんし……」
アイミーが会ったことないという。
けど、この男はアイミーのことを知っている。
……何だ、この矛盾は。
「私はいつもアイミーンが父上と話している時は、奥の間に引っ込んでいた。私もやらなければならないことがあったのでな……けど、今回ばかりは話が別だ。貴族でもない一般市民にしか過ぎない君と見合いの儀をされるなんて、私の面子も崩れてしまうだけだ。悪いけど邪魔させてもらうよ」
……厄介な奴が現れたな。
何で俺の周りには、こういうことばっかし起きるかねぇ……。
adamo,are,avi,atum,の言葉の意味……。
あなたにはわかるでしょうか?