名前の広まり
今、明らか俺の名前呼んだよな?
けど、俺はこの人に会うのは生まれて初めて……当たり前か。
この国に来たこと自体、今日が始めてなのだから。
「すみませんが……この中に、ミヤタニシュンイチさんがいらっしゃるのですか?」
「ああ、俺のことだぜ」
「違うだろ」
前に出てきた晴信の頭を、俺は思い切りぶん殴ってやった。
……ったく、馬鹿かコイツは。
「三矢谷瞬一は、こっちだよ」
大和が俺のことを指差して、そう言った。
……なんか、他人に紹介されるのって、ちっとばっかしむずがゆいな。
「貴方がミヤタニシュンイチさんでしたか!」
すると、その店員は満面の笑みを浮かべてきた。
……あれ、本当に俺、この人知らないんだけど。
「もしかして……この国だと瞬一の名前は広まってるんじゃないかな?」
「……マジで?」
大和がそんな可能性を出してきた。
……例えそうだとしても、俺ってなんかしたっけか?
「アイミーン王女様を日本でお守りしたって方ですよね!?」
「あ、ああ……そうだけど」
「やっぱり!まさか本物に会えるなんて夢にも思っていませんでした!!」
「は、はぁ……」
本当に、俺ってこの国では有名人なのな。
……そんな自覚ないけど。
それに、一体誰がそのことを言ったのだろう。
少なくとも、この国の人は全員知っているみたいだし。
考えられるのは、シュライナーかアイミー、そしてこの国の王の三人か。
アイミーが自分からそう言うとはちょっとばっかし考えにくい。
第一、王女に発言の機会があるとも考えにくいな……。
シュライナーはなおさらだ。
ということは……アイミーから話を聞いた、国王が国中に言ったのだろう。
……何だか恥ずかしいな。
「ということは、周りにいらっしゃるのは……」
「ああ。俺の親友だ」
友達……いや、親友。
ここ数日しか付き合っていないけど。
それでも親友と呼ぶにふさわしい、十分な時間を過ごしたと思うので。
……北条に関しては微妙な部分もあるけど。
「そうでしたか!なら、このヘアピンは無料にしますよ!」
「え、いいんですか?」
「いいんですよ!シュンイチさんの親友の方なんですから!」
何と、空が買おうとしていたヘアピンが、無料でもらえることとなった。
空は、驚いたような顔をして、店員を見ていた。
「ついでにもう一つオマケでつけちゃいます♪」
「……マジかよ。恐るべし、瞬一の力」
同じものをもう一つ貰えることとなった。
……そんなに簡単にものあげてると、売り上げとかヤバくなるんじゃねえのか?
「あ、ありがとうございます……」
空の顔が笑顔になる。
にしても、俺の名前を出すと同時にこの待遇か……名前を無闇に出すのはやめた方がいいかもな。
「それじゃあ、いよいよ一番上に行くのね……(⌒~⌒)」
「北条さん……ヨダレが」
「はっ( ̄○ ̄;)!?」
一之瀬、細かい所まで目が行くのはいいことだと思うが、さすがに今のは言わない方がよかったかな。
見てて滑稽な顔だったし。
「またのご来店をお待ちしています♪」
最高級の笑顔と共に、手を振ってくる。
俺達はその店員に手を振り返して、その店を出た。
「ふぅ……なんだか疲れた気がする」
「まぁ、瞬一の場合はこれからも続くのだろうけどね」
「……マジで?」
今は店員一人だったからよかったけど、この先何人の人に会うのか分からない。
……名前が広まってるのは嬉しいことだけど、やっぱり恥ずかしいな。
つか、最早ちょっと前に考えてたことなんか、全然関係なしで目立ってるじゃん、俺。
これからアイミーに会いに行きます、となると更に目立っちまうじゃん。
「いいじゃねえかよ。ひょっとしたら気分がよくなるかもしれないぜ?」
「……いや、こういうのはあまり慣れてなくてな」
「……」
つか、さっきから無言状態のままの葵が怖いんだけど。
なんか、怒っているようにも見えるし。
「さ、さぁエレベーターに乗り込もうか、ほら、葵も」
棒読みになっているのが自分でも分かったが、最後まで言った。
すると、
「……うん」
なんとか頷いてくれたけど、まだお怒りモード!?
そんな葵と一緒に、俺達はエレベーターに乗り込む。
そして、そう時間がかからない内に、一番上に着いた。
エレベーターから降りて、そこから俺達が見た光景は……。