焼き尽くす炎
「お先にこっちからの攻撃を喰らえ!」
晴信が、叫びながら瞬一の方に近づいてくる。
走りながら、晴信は詠唱を始めた。
「あっつい弾でも喰らいやがれ!ファイアボール!!」
やはり、およそ詠唱とは思えない言葉を叫び、術を発動させる。
瞬間。
「ファイアボールか……ってか、下級魔術にしては、結構でかい弾出来てるぞ」
通常のファイアボールより大きいファイアボールを見せられて、瞬一は少し驚く。
そこに、この一年間での成長が感じられた。
「育ってたってわけか……」
「あたぼうよ!この一年間、何もしなかったわけじゃないんだぜ?……ってなわけで、喰らいな!」
晴信は、瞬一目がけて、たった今作ったばかりのファイアボールを撃つ。
「こんなの、横に避けるだけだ」
何の造作もなく、瞬一はその攻撃を体を右側に捻ることで避ける。
しかし、その場所にもまた、ファイアボールが迫って来ていた。
「ちっ!二発同時に撃ったってことか!!」
「違うぜ。正確には、一発目と二発目のタイミングをずらしての攻撃だぜ!」
避けたばかりの体では、二発目の攻撃を避けることは不可能。
つまり瞬一は、この攻撃を喰らうしかないというわけだ。
「……そうも簡単に行くかよ」
「え?」
「忘れたのか?俺の本来の戦闘スタイル……というか、俺の得意技の一つを」
「……あっ!」
何かに気づいた様子の晴信。
構わず瞬一は、迫りくるファイアボールを見ずに、詠唱を始めた。
「あらゆる害から身を守る不可視の壁よ。その力の一部を我が両手に宿し、障壁と化せよ」
そして、詠唱を終えた後に、瞬一は改めてファイアボールの方を見る。
もうそれは、目前まで近づいてきていた。
「壊れな!マジックブレイク!」
右手でファイヤボールを殴り付けた。
すると、パン!という破裂音と共に、それは消滅した。
「ちっ……あまり使う人いないもんな、その術……てか、最早簡易結界の領域に入ってるだろ、それ」
晴信は、半ば呟くように、そして半ば瞬一と話すように言った。
「これは奥の手その一なわけよ。その二その三ってまだまだあるぞ?」
「げ……そいつはまずいや」
発言とは裏腹に、あまり困った様子を見せない晴信。
恐らく、この戦闘を楽しんでいるのだろう。
「さて……ここからが執念場だぜ?そろそろ山場も近づいてきたことだしよ」
「そうだな……なら、そっちから来いよ」
「やめとく。まだ近距離術は残ってるけど、もう片方の手で壊されては意味ないしな」
先程の攻撃で、瞬一の右手に宿っていた力は消滅した。
だが、もう片方の手―――すなわち左手には、まだ力が残っているのだ。
「全く……俺も奥の手を使わせてもらうぜ。ただし、使ったら魔力の残量がほとんどなくなる術だけどよ」
晴信は、言いながら瞬一との距離を、遠ざける。
そして、ある程度の距離をとると、やがて詠唱を始めた。
「我が内に宿りし力よ。彼の者に降り注ぎてその身を焼き尽くせ」
先程までとは違う、真面目な詠唱。
「おいおい……まさか」
「フレイムレイン!!」
一瞬、晴信の下に魔方陣が描かれたかと思うと、今度は上空に、数個の魔方陣が浮かび上がる。
そしてそこから、炎の雨が降り注いできた。
「ちょっ……さすがにこれはキツいって!」
何とか左手で、自分の頭を直撃しそうになった炎を打ち消す。
しかし、炎の雨は、止みそうになかった。
「くっ!」
ダメージを最小限に抑えながら、瞬一はその攻撃を避けていく。
しかし、避けきれなかった攻撃が、腕・足・肩などを貫通する。
魔術服を着ていなかったとしたら、間違いなく瞬一の体は焼けていたことだろう。
「……」
やがてその雨も止み、辺りに土煙が漂う。
「……やったか?」
晴信が、勝利を確信したような声で呟た。
二人の戦闘は、次で終わりそうです。
そしたら、もう一つだけ戦闘をやります。