薬の効果が
Side佐々木
昼休み。
俺は弁当を持ち、すぐさま屋上へと向かう。
一刻も早く、千里に会う為に……。
階段を上り、やがて屋上へ繋がる扉が見えた。
俺は問答無用で、扉をバン!と勢いよく開け放つ
「あ、あれ?」
そこには、腰まで伸びた黒くて長い髪の少女の姿があった。
その髪は、風が吹く度に、綺麗に流れている。
優しくて黒い瞳をもつその少女は、まぎれもなく、小山千里その人であった。
「早かったんだ、千里」
「うん。授業が終わったと同時に、ここに来たから」
……何というか、嬉しい限りです。
「それで、啓介。話って何?」
「え?ああ……話って言うのはな」
一瞬、自分がここに来た理由を忘れかけそうになる。
けど、すぐにその目的を思い出した俺は、右手をポケットの中に突っ込んで、ある物を取り出す。
それは、朝学校に来た時に、吉沢先生からもらった薬で、朝の時点では渡すことが出来なかった薬。
「これをお前に渡そうと思って……」
「……薬?これは、なんの薬?」
「……お前の病気を、治せるかもしれない薬だ」
「私の……病気を?」
「ああ」
千里は、自分が病気を持っていることは知っていた。
けど、それがどんな病気であるのかまでは知らされてはいなかった。
……恐らく、並大抵の医者では治せない病気なのだろう。
アンジック病は、最近こそそれを治せるかもしれない薬のレシピが開発されてはいるが、それも一部の人間しか知らない……らしい。
「この薬は、お前の病気を治せるかもしれない薬だ……けど、そうじゃない可能性もあるし、何が起きるのかは分からない」
この薬の力を証明した人はいない。
故に、千里は実験台となるようなものだ。
本当は、そんなのは嫌だ。
「……俺は、治る可能性があるなら、この薬にかけてみようと思う」
「……」
俺は千里を助けたい。
助かる可能性があるものがそこにあったとしたら、俺は喜んでそれに飛び付く……そんな心境であった。
「それで千里。この薬を……」
「受けとるわ。私は、啓介を信じる。信じてるから、この薬を受けとる。もし受け取らなかったら、啓介を信じなかったってことだから」
「……」
言葉が出ない。
まさか、普通に信じてもらえるとは思ってなかったからだ。
「本当に……いいのか?何が起こるか分からないんだぞ?」
「何かが起こるとしたら、私の病気が治るってことよ」
そう言葉を返されるとは思わなかったので、俺は言葉を失った。
「それじゃあ……飲むね」
「え?ちょっ……!!」
俺の言葉を聞き終える前に、千里はその薬を飲んだ。
「……どうだ?」
「……なんか、体が軽くなった感じがする」
体が軽くなったってことは……病気は治ったのか?
「なぁ千里」
「何?」
「試しに……何か魔術を詠唱してみてくれないか?」
「え?いいけど……」
俺にそう言われて、千里が軽く詠唱をする。
それは、ファイアボールの詠唱だった。
それは、上空の方へ飛んでいき、破裂して消えた。
「……体の方は、大丈夫か?」
「うん……大丈夫だよ」
……特に体に異常が見られた様子もなし。
「……どこか痛むとか、苦しいとかはないのか?」
「……ない。いつも魔術を使う度に胸が苦しくなってたけど、それもない!」
「それじゃあ……薬の効果が効いたのか!!」
よっしゃ……!
吉沢先生の薬は、どうやら成功したんだ!
これで、千里が魔術を使う度に苦しむことはもう……ない!!
「やった……やったな千里!!」
「うん。ありがとう、啓介」
「……お礼なら、この薬を作ってくれた吉沢先生に言ってくれよ。俺はほとんど何も……」
「私のことを先生に言ってくれなかったら、この薬をもらうことも出来なかった……だから、啓介のおかげだよ」
「千里……」
……土曜日に頑張ってよかった。
俺は、そう感じた。
なぜなら、千里の笑顔を……何の重荷も担いでいない千里の笑顔を見ることが出来たから。
俺はこの日、今まで生きてきた中で一番の幸せを感じていた。
「ところで、誰と一緒に行ってきたの?」
「えっと……同級生の男子三人と、女子三人と、後輩の女子が一人、かな」
「ふ~ん……何もなかったの?」
「は?」
「色恋沙汰とか……」
「そんなのあるわけねぇだろ!!」
これにて「秘薬探し」編は幕を閉じます。
次回、登場人物紹介を挟んだ後に、「ゴールデンウィーク」編の開幕です。