願わくば
あれから学校へ戻り。
ソージの葉を二人分吉沢先生に渡した所、薬が出来るのは月曜日になりそうだという話だったので、俺達は一旦家に帰った。
そして月曜日。
つまりは、薬が出来ると言われた日。
俺と佐々木、葵に空、大和に晴信、そして一之瀬もついてきた。
「……あれ?北条までついてきたのか?」
「当り前でしょ!昨日はよくも置いていってくれたわね……!!」
「……あ、悪い。すっかり忘れてた」
「アンタね……!!」
おっと、そろそろ俺の方が不利になってきそうだ。
ここで対北条真理亜秘密兵器登場!!
「というわけで、大和、バトンタッチ!」
「うん……えっと、真理亜」
「は、はい!?」
「とりあえず、瞬一もわざと置いて行ったわけではないし、許してあげようよ」
「……まぁ、大和君がそういうなら、別に……」
うつむき、顔を赤くしながら、北条は呟いた。
何というか、分かりやすい性格してるよな、本当。
「そんなことしてる間に、医務室についたよ」
葵、いちいち報告せんでええっちゅうに。
まぁ、何がともあれ、俺達は医務室……つまりは吉沢先生がいるところに到着した。
「失礼します!」
トントン、とドアをノックした後に、俺達はぞろぞろと中に入る。
入ってみると、椅子に座って机の方を見ていた吉沢先生が、椅子を回転させてこっちを見てきた。
「来たわね、みんな」
「はい……それで、薬の方は出来てますか?」
佐々木は、そのことを気にしているみたいだ。
それほどまでに、小山先輩のことを助けたいのか。
「ええ、出来てるわよ。後はこれを飲ませてあげるだけ」
「それで……小山先輩の病気は治るんですか?」
空が尋ねる。
すると吉沢先生は、
「分からないわ……あくまでこれは試作品。分量と製法はきちんとしたものだし、形としてちゃんとなってるわけだから、成功する可能性の方が高いけど……それでも失敗する可能性もあるわ。それでも、いいわね?」
これは、吉沢先生からの、最終確認だ。
何が起こっても、一切の真実を受け入れられるか。
佐々木に今、その選択が迫られていた。
「……はい。俺は、治る可能性にかけてみます」
佐々木は前向きであった。
助かる可能性が少しでもあるのなら。
例え助からない可能性の方が高かったとしても、やらないよりはまし。
恐らくはそう考えたのだろう。
「分かったわ。そこまでの覚悟があるのなら、この薬をあなたに譲れるわ。持って行きなさい」
「……ありがとうございます!!」
深くお辞儀をする佐々木。
俺達も、先生に向かってお礼の言葉を述べた。
すると、
「あなた達も本当にお疲れ様。あなた達の協力がなければ、この薬は完成しなかったわ」
と、逆にお礼の言葉を返された。
「そんな大したことじゃないですよ……最後に決意して、山へ行くことにしたのも、佐々木なんですから」
これで、小山先輩の病気―――アンジック病さえ治れば、佐々木の物語もハッピーエンドを迎えることが出来るだろう。
ここから先は、俺達が介入すべきではない話。
だから俺達が取るべき行動は……。
「……佐々木。俺達に出来ることはここまでだ。後はお前が、小山先輩にそれを届け、飲ませてやれ」
「……ああ。みんな、ここまで俺なんかの為に協力してくれて、本当にありがとう!!」
俺達に対しても、佐々木は深くお辞儀をした。
「ま、まぁ、その先輩の病気、治るといいわね」
「素直じゃねえな、お前も」
「何ですって……!!」
「だから二人共、落ち着いてください!!」
後ろでは、喧嘩寸前となった北条と晴信の二人を、一之瀬が慰める場面があった。
何というか、これが平和な日常なのだな、うん。
「ところで三矢谷君」
「何でしょう?」
「薬は二人分用意してあるのだけど、後一人分は誰のかしら?」
「ああ、それは……校長先生に渡してください」
「校長先生も、アンジック病だって言うの?」
吉沢先生が意外そうな表情を見せる。
「……ええ。この前ちらりと聞いてしまいました」
「……分かったわ。これは校長先生に渡します」
「ありがとうございます」
軽くお礼を言った後に、
「よし。それじゃあ俺達は帰るぞ」
「はい」
「ですね」
「後は啓介……君の頑張りどころだよ」
「頑張ってね、佐々木君♪」
「は、早くそれを渡して、治してあげなさいよ!」
俺達はそれぞれ佐々木に対してそう言葉を述べると、佐々木より先に教室へ戻って行った。
……佐々木、頑張れよ。