魔物達との戦い
最初に動いたのは、佐々木であった。
「舞え、疾風の刃。その刃を以て、斬り裂け!エレメンタルカット!!」
佐々木が携帯を取り出して魔術を発動させる。
瞬間、風に乗って様々の種類の葉が、勢いよく魔物の体を斬り裂く。
「ギャッ!」
「グゥッ!」
魔物はそのままその攻撃を受け、気絶するものもいた。
その瞬間に、瞬一達は見た。
「あれ……魔物から、何か抜けてってるぞ」
「これは……魔物にかけられた魔術が抜けてるんだ。きっと、気絶やら何やらをすることで、魔術が抜けてしまったのだろう」
大和の冷静なる分析に、瞬一達は一瞬だけ感銘を受ける。
だが、目の前の敵を倒さないことには、話が始まらない。
瞬一もまた、詠唱をする。
「ここに宿りし力は、断罪の雷。彼の者に安らかなる眠りを……サンダーブレード!!」
右手を地面に叩きつける。
瞬間、その辺りを中心にして魔法陣が展開され、
「うわぁ……」
雷撃を帯びた剣が、地面より何本も出現し、魔物の体を貫いてるように見えた。
だが、実際にはその剣は貫いているわけではなく、腹を思い切り殴っているだけだった。
本来なら貫くはずのその術は、無意識のうちに瞬一の中で手加減というのが行われていた。
原因は恐らく、空の言葉だろう。
「遥かなる大地よ。我にその力を貸せ!」
その空は、詠唱を終えた後に携帯を地面につける。
スパイラルナックル―――地面から根っこが出現し、回転しならが相手を思い切り吹き飛ばす技だ。
クマとの戦い時に使用した時よりも、若干小さめにも見えなくはないが、その威力は十分だった。
「……!!」
「おっと」
その時、大和は空中からの奇襲にあった。
先ほどの鳥みたいな魔物が、上空から突っ込んできたのだ。
「風を纏いし我が剣よ、我の呼びかけに答え、その姿を具現せよ!」
大和は、携帯をポケットから出さずに、魔術を詠唱する。
魔物相手に、自分の戦術は使用しても意味がないことを悟ったからだ。
そして、何もない空間より剣を取り出すと、その剣の刃のついていない方……すなわち峰を使い、
「てやぁ!」
ドン、ドン。
魔物を一匹ずつ、確実に気絶させていく。
決して、刃を返して斬ることはしない。
なぜならこの戦いは。
自分の命を守るのと同様の意味として……魔物達の、いや、動物達を救う戦いでもあるからだ。
「水を纏いし精霊よ、その慈愛の水にて願わくば彼の者を邪悪の意思より救わん!」
葵が、精霊を呼ぶ呪文を詠唱する。
すると、葵の目の前に、青い精霊が現れた。
その精霊は、右手を前に突き出すと、水なんか存在しない所から水があふれ出てくる。
「アクア!私に力を貸して!!」
その葵の言葉をしっかりと聞いていたかのように。
アクアと呼ばれたその精霊は、魔物達のほとんどを、その水によって包み込んだ。
するとどうだろう。
「……?」
その場所にいた魔物は、魔術が解けて元の姿に戻っているではないか。
「さすが……葵ってすごいや」
瞬一は、その様子を近くで見ていたのだが、思わず手を止めてしまうほどの光景だった。
「へへ……やっぱり葵の力は凄いな」
瞬一は、驚くような、感心するような顔でそう頷いて見せた。
それと同時に、役目を終えたはずの水がまだ残っていることに気付いた。
「!そうか……春香の魔術か」
大和は、敵を峰打ちで仕留めつつ、そう呟いた。
「葵さん……この水、使わせて頂きます」
すると、その水は頭上で塊と化して、浮き上がる。
「アクアインパクト!!」
一之瀬は、その塊を魔物の群れに落とした。
中心に落ちたそれは、その場所で破裂して、その周囲にいる魔物を包み込んでいく。
だが、包みきれていなかった魔物が、一之瀬目掛けて飛び付いて来た―――!!
「!?」
咄嗟に目を閉じてしまう一之瀬。
だが、痛みはやってこなかった。
「?―――!?」
「させるかよ……!!」
いつのまにか刀を取り出していたのか。
刀で相手の攻撃を防いでいる瞬一の姿が、そこにはあった。
「佐々木、今だ!」
近くにいた佐々木に対して、瞬一はそう叫ぶ。
佐々木は、言われると同時に、呪文の詠唱を始めた。
「我らに味方せし自然よ、彼の者に制裁を与えよ―――リーフランス!!」
瞬間。
佐々木の頭上に、葉で出来た槍が出現する。
そして……。
「ふぎゃっ!!」
それは魔物の腹部に当たる。
その魔物は、佐々木の攻撃を受けた影響で、気絶した。
そしてこれが最後の攻撃となり、瞬一達の周囲にいた魔物達は、すべていなくなったのであった。