囲まれた者達
「……そんな」
「ど、どうして……」
俺達の目の前に立っている人物。
それは、紛れもなく、晴信の姿をしていた。
いや、晴信そのものであった。
「は、晴信に何をしたの……?」
『……ふむ。君はお会いするのは初めてだが、なんだか不思議な感覚がするな。なんというか、君からは特別なオーラが感じられるまるで……』
「質問に答えろ!!」
葵の質問を、そして俺達のことを完全に無視する、晴信の中にいるクリエイター。
葵の方に近づいてくる。
俺は、葵を守るように間に入った。
『そう焦ることはない。今回私はこの場で戦う気はない。あくまで一人の脚本家として物語を描くにすぎない。君の邪魔もする気はないし、安心したまえ』
「え……俺?」
自分のことを指差しながら。
佐々木はキョトンとした表情を見せながら言った。
『今回はこの体を偶然にも見つけたのでね。思わず入ってみたってわけだ。話を終えたらここから立ち去り、脚本を描くことに徹するとしよう』
「……どうしてこの山にいた?」
大和が、何時もとは違う雰囲気で尋ねる。
なんというか、俺にすら伝わってくる、明らかな殺気が込められていた。
しかしクリエイターは、それが分かっていてか、分かっていないのか、
『この山には私の計画に必要な駒がいたのだよ……最も、そのほとんどが、君達によって消されてしまったのだが』
「駒……魔物のことか?」
『いかにも。私はこの山に生息する生き物に対して、魔物化を促す魔術をかけた』
「なっ……!?」
驚きの声は、誰の物だったろうか。
とにかく、クリエイターのそのやり口には、ただただ驚かされることばかりだった。
「この山の生き物すべてに、ですか?」
『無論そうだ』
「なんて酷いことを……」
『酷い?誰かの役にたてているのだぞ?魔物達も幸せであったとは思わぬか?』
こいつ……。
こいつには同情という言葉はないのか?
空の言葉を聞き流す……いや、聞き流すだけならどれだけ良かっただろうか。
好きなだけ利用しといて、それでいて『魔物達が幸せ』だ?
ふざけんな!!
「……幸せ、なんかじゃありません」
『む?』えん
「幸せ、なんかじゃありません。動物達には、何の罪もないのに、勝手に魔物に帰られて……自分の意思とは無関係に、人を襲ってしまう。そんなの……そんなの悲しいじゃないですか」
『ふむ。そういう見方もあるか。まぁ、平和に縛られた哀れな人間の意見だな』
「テメェ……空にそんなこと言っていいと思ってるのか?」
『おっと。怒りの矛先をこの者に向けるのは間違っている。この者はあくまで「宮澤晴信」という個体に過ぎぬ。私を倒した所で、破滅するのはこの者だぞ?』
「……」
言われてしまっては、反論のしようがない。
こいつは晴信だ。
晴信の中には、クリエイターがその意思を忍び込ませているが、体は晴信の物で間違いない。
すなわち、クリエイターに攻撃することとはすなわち、晴信に攻撃するのと変わりない。
「……かといって、何もしないのでは君の怒りは納まらぬだろう。なら、このモノ達に代わりをさせようではないか」
パチン!と指を鳴らす。
瞬間。
「なっ……」
「周りに、魔物がたくさん……」
いつの間にか、俺達は魔物に囲まれてしまっていた。
逃げ道は……なさそうだ。
「……上等だ。そっちがその気なら、こっちも本気で挑ませて頂く」
「啓介、僕達が道を開けるから、君はソージの葉を……」
「……いや、協力させてくれ。俺も戦う」
大和の提案を、やんわりと断る佐々木。
「……そうか。分かった」
『話はそれで終わりかね?』
「クリエイター!!次はないと思うがいいよ……」
『心待ちしようではないか。君の描く脚本とやらを』
その言葉を最後に、クリエイターは言葉を発することはなかった。
晴信の体からクリエイターの意思が抜けたのか、ゆっくりと晴信の体が木に倒れ込み、そのまま寝るような体勢に入った。
「みんな……行くぞ!!」
それを合図に、俺達は魔物の群れに突っ込んだ。