言い争う二人
ある程度まで走った俺達は、完全にクマが見えなくなったのを確認すると、
「……よし。この位逃げてくれば大丈夫だろう」
大和の言葉と共に、一気に地面に崩れ落ちた。
「つ、疲れた……」
体を支配していた緊張感が抜けて、一気に力がなくなっていくのを感じる。
戦った後に速攻で逃げるのは、正直言って体がもたない。
息が荒くなっているのが、自分でも分かるくらいだ。
「……大丈夫か、みんな?怪我はないか?」
俺は、疲れた体を休ませながら、みんなにそのことを尋ねる。
「私は平気だよ」
「僕も大丈夫だよ」
「こんなの、剣術部の練習に比べたら温いものよ」
「大丈夫です」
「俺も平気だ」
葵・大和・北条・一之瀬・佐々木の順番で答える。
一方で、
「わ、私は少し疲れたかもです……」
「お、俺も……こんなに走ったの久しぶりだから、疲れちまって……」
空・晴信の二人は、俺同様に息を荒げていた。
一緒に戦っていた空はともかく、晴信まで苦しそうにしてるのはどういうこったい。
「……ったく、体が鈍ってるな、お前」
「悪かったな……ここの所いろいろあって運動なんてあまりしてなかったんだから……」
「日頃の努力が足りない証拠ね!」
「なんだと……!!」
おっと。
何だか暴力沙汰にまで発展しそうな予感がするぜ。
このままだと、俺達まで巻き込まれる可能性がある。
「大和・葵・空・一之瀬……逃げるぞ」
「は、はい!!」
「そうだね。それが懸命な判断だと思う。このままだと命の危険が迫るからね」
「善は急げってね♪」
「え、でも……いいんですか?」
空・大和・葵・一之瀬の順番で答える。
最後の一之瀬の質問には、
「いいんだよ。怪我するよりもましだと思うし」
俺はとりあえずそう答えた。
「先を急がないと……早くアイツを助けたいんだ!」
「分かってるって。こんな所で油売ってる場合じゃないって言うんだろ?」
ここまで殆んど発言をしてこなかった佐々木が、焦ったような感じでそう言った。
「というわけで……行くぞ!!」
と言うわけで、晴信と北条の二人は、その場に置いていきました♪
目指すは山奥にあるソージの葉をつけている木が生えている場所だ!
「いや、爽やかに締めたつもりだろうけど、むしろ見苦しいからね」
「大和。人の心を読むな」
Side晴信
「……あれ!?いつの間にかみんないなくなってる!!」
北条と言い争っていた俺は、いつの間にか俺らの周りに誰もいなくなっていたことに気付いた。
……くそ、アイツら。
俺らを置いていって、先に行きやがったな。
「なんでアンタなんかと二人きりにならなくちゃならないのよ!!」
「知るかよ!!文句なら、俺らを置いていった瞬一や大和に言いやがれ!!」
「言えるわけないでしょ!大和君は優しい人なんだから!アンタとは違って!!」
「贔屓か?それは贔屓なのか?俺が優しくない人間だと!そう言いたいのか!」
「ええそうよ!アンタみたいな女性に対する接し方も知らないような最低な人間じゃないのよ!」
「失礼な!俺だって女性に対する接し方くらい知ってるっての!」
「じゃあそれを実践してみせなさいよ!!」
「俺から見たらお前は女性じゃないからいいんだよ!女に見られたかったら、葵くらい素直か、一之瀬くらいおしとやかになりやがれ!!」
「なんですって……!!」
……こんな言い争いが、いつまでも続いていた。
……ったく、なんでこんな奴と二人きりで山を登らなくちゃならねえんだよ!
帰って来てくれ、瞬一、大和、みんな……!!