決着
「頭文字詠唱?」
頭文字詠唱。
それは、呪文詠唱時に使われる技術の内の一つであり、漢字部分の内の必要な部分のみを抜き出した詠唱方法のことであり、それを応用すると、術の詠唱時間を短縮出来るようになる。
しかし、消費魔力も大きいので、なかなか使う場面が見られないというのが現実だったりする。
「でも、あいつはそれでも使った」
「よほど大和に対して……」
森谷は両手を広げて詠唱する。
その頭上には、明らかに風の塊みたいのが出来上がっていた。
「冗談ならねぇぞ、あれ」
「あんなのが大和に直撃したら……大和、本当に死んじゃうよ」
こんなことが想定できるわけもなく、魔術服を持っているはずもない。
なので、今の大和は、あの攻撃を受けると間違いなく、死が待っている。
「死ねぇええええええええええええええ!大和翔ぅううううううううううううううううううう!!」
瞬間。
頭上に吹き荒れていた風は、突如刃となって大和に襲いかかってきた。
「や……大和!!」
思わず晴信は、大和に向かって叫んだ。
「……心配無用だよ、みんな」
「何呟いている!!これで死ねぇええええええ!!エニシングエッジ!!」
無数の風の刃が、大和の体めがけて飛んでくる。
しかし大和は、それを避けようともしない。
動こうともしない。
「……どうした?怖気ついたか?今更遅いわ!!」
「……聖・壁・我・守!!」
「え?」
大和まで、頭文字詠唱を始める。
瞬間。
「なっ!?」
大和の周囲には、結界が張られる。
そして、森谷の攻撃のすべては、
「うわぁ……」
パンパンパン!!
結界に当たり、刃が消える度にそのような音が響き渡る。
しばらくして、すべての刃が打ち出されたのと、結界が消え去ったのはほぼ同タイミングの出来事だった。
「お、俺の技が、すべて防がれた……?」
森谷は、一瞬目の前で起きた出来事に対して、驚きを見せていた。
そして、しゃがみ込んでしまう。
だが、その一瞬こそ、まさしく命取りだった。
タンッ!という足音を立て、結界が消え去ったと同時に、大和は地面を蹴った。
「しまった!」
気付いた時にはもう遅い。
大和の右手には、剣が握られている。
走る途中で、大和が出した剣だ。
「くっ……!!」
慌てて森谷も剣を出そうと呪文を詠唱しようとする。
だが、それよりも早く。
「……!!」
「……僕の勝ちだ、森谷大地」
大和の剣先は、森谷の喉元に突きつけられている。
ここで、例え森谷が剣を出したとしても、大和が先にさせばそれで終わり。
つまり、森谷の完全なる敗北を意味していた。
「……俺の、敗北か」
「そうだね。そして、僕の勝ちだ」
剣先を喉元から外し、大和は剣を消す。
制服についた埃を両手でパンパンと叩き落とし、それから、
「……ほら」
「……」
大和は、右手を森谷にさし出す。
しかし、森谷はその右手を、パン!と叩き落とした。
「……触るな。その手で、俺の親を殺した手で、俺のことを触るな!!」
「……僕は森谷の親を殺してなんかない。それは勘違いだ」
「何が勘違いだというんだ?だったら、誰があいつを殺したっていうんだ!!」
感情をぶつける森谷。
その言葉一つ一つを聞く度に、周りより動揺の声が聞こえてくる。
「……ここでその話をするのはあまり良くない。場所を変えて、誰にも聞かれないような所で話をしよう」
スクッと立ち上がると、大和は、
「そういうわけだ!みんな、とりあえず僕と森谷と二人きりで話がしたい!僕達の話が終わるまで、僕達を二人きりにさせてくれないか?」
観客席に座る一同に向かって、そう叫ぶ。
その言葉に、観客席はザワザワと騒ぎ出す。
返事など聞く気がなかったのか、はたまた、早く行った方がよいと判断したのか。
大和は、森谷を連れて闘技場から出た。