学校破りの名は
「……あれだけの攻撃やっといて、二人とも無傷だと?」
晴信は驚いたような声をあげる。
それだけ、この状況はおかしなものだとも言えた。
傍から見れば、二人とも最大限の力を出したようにも見える。
だというのに……肩を上下に揺らしてもいない。
平然と……ただそこに立っていた。
「どういうことなんだよ……こいつらの体力は無限にあんのか?」
「いや、違う。威力は強いけど、この二人の魔術は、上級魔術じゃない」
「なん……だと?」
葵の言葉に、晴信は驚愕の言葉を述べた。
言葉にこそ出していないが、それは春香も同様であった。
「……やっぱり気に食わない。あれだけの魔術を使っておいて、息一つ荒げもしないなんて」
「君こそそうじゃないか。どうやら君は、やはり前に僕に会ったことがあるようだね」
「そうだな。何だかこうして戦うのも、初めてじゃないような気がしてきたところだ」
学校破りと大和が、まるで友人と話すかのように接する。
「それじゃあ……先に名前でも聞かせてくれないかな?」
「……勝負に勝ったら、というのが約束だったが、いいだろう」
学校破りは、ついに自分の名前を述べる。
携帯をポケットの中に一旦入れて。
大和も、そんな学校破りの行動を見習って、剣を消し、携帯をポケットの中に入れた。
「俺の名前は……森谷大地。城ヶ谷高等学校に通う、高校二年生だ」
「僕の名前は大和翔……やっぱり君は、森谷だったんだね」
「……そうか。お前、やはり、大和」
互いの名前を聞いた後で。
両者は『やはり』という対応をとった。
「は?……何、あいつら、知り合い?」
「そ、そうだったんですか……?」
「う、うそ……」
晴信・葵・春香の三人に限らず、他の生徒達も驚きの顔を隠せない。
「……なおさら気に食わない。大和……ここでお前を、消す」
「……前から変わらないな、森谷」
爽やかに大和は言って。
やがてすぐに真面目な表情で、
「だから言ってあげるよ、森谷……」
「……」
「正直言って……君は何か勘違いをしている」
「黙れ!!」
「!!」
突如何もない空間から、剣を取り出す。
ただし……携帯を使用しないで。
「あれ?あいつ、携帯を使わないで剣出さなかったか?」
「……まさか」
「ん?」
葵が、何かに気づく。
「大和君の知り合い……何だよね?」
「ああ。そうみたいだな」
「ということは……戦術とかも一緒ってことじゃないかな?」
「……戦術?」
大和の戦闘を見ていない晴信にとっては、何のことか分からないといった表情をしている。
しかし、そんな晴信の疑問も、すぐに解消されることとなった。
「ようやっと本気出してきたか……なら僕も、全力で君を倒させてもらうよ!」
大和も、携帯を使わずに、少しばかりの詠唱をした後に、剣を出した。
「なっ!大和まで!?」
「大和君が携帯を使っているのは、相手を油断させるカモフラージュみたいなものなんだよ。見知らぬ
相手が敵になってもいいように、いつもああした攻撃方法をとってるだけらしいよ」
「なるほど……ってか、見知らぬ敵って、あいつは一体何者なんだ?」
ますます大和について分からなくなる一同。
それ以前に、大和と森谷の間で何があったのか。
それらの謎が、晴信達の頭の中でグルグルと巡り始める。
しかし、二人の勝負は、そんな彼らを放っておいて、続いていた。
「あの時は、よくも俺の……!!」
「違うよ。あれは僕がやったんじゃない。僕が駆け付けた時にはもう遅かったんだ」
「うるさい!俺は奴から聞いた。あれはお前がやったんだってな!!」
「あいつは嘘をついている。いい加減それに気づいてくれよ」
「黙れ!!犯罪者はいつでもそうやって言い訳を……」
「頭を冷やせ!!」
「!!」
突如叫び出した大和に、森谷は思わず剣を落とし、動きを止めてしまう。
「そろそろ真実を知ってもいい時だろ?そうやって、勝手に他人に責任を押し付けるな!!」
「……もういい。もういいや。お前、やっぱり殺す」
「!?」
突如、森谷の雰囲気が変わる。
その雰囲気は、周りの空気を凍りつかせるのに十分な程であった。
「……風・舞・殺・吹!!」
「な……あの詠唱方法は!?」
森谷の詠唱を聞いて、晴信は何かに気づいた。
「な、何なんですか?宮澤君」
思わず春香はそう尋ねていた。
そして晴信は、そんな春香の疑問に答えるように叫ぶ。
「頭文字詠唱だ!!」
瞬一の出番がなくてごめんなさい……。
主役なのに、もう5話近く出番が回ってない……。