事後報告
『光の器の力暴走事件について』
今回の事件は、我々の予想を一段上回る結末を迎えた。
まず最初に述べておきたいことは、この事件を解決に導いたのは、なんと事件現場となった学校の一生徒だったということだ。
その生徒は、今回力を暴走させられた細川葵のクラスメイトである、三矢谷瞬一。
事件直後、彼は闘技場から脱出した後、呆然とその場に立ち尽くしていたという、コードネーム『M』からの報告もある。
『M』によると、三矢谷瞬一は、散々迷った挙句に、このような措置を施したのだという。
本来なら我々『組織』が下さねばならぬ決断だったが、敵の黒幕がいたその状態では、『M』が思うように動けなかったという事実もあるだろうから、今回の件に関して言えば仕方がないともいえよう。
事の顛末は、朝の時間から始まる。
細川葵は、体調が悪いと訴え、クラスメイトに保健室に行く旨を伝え、保健室へと向かった。
そこで、雷山塚高等学校に勤めていたスパイ……ここでは『A』と称しておこう。
『A』は風邪薬と称して細川葵に薬を投与。
しかしその薬は……光の器の力を暴走させるに十分な程の、闇魔術が組み込まれていた。
結果、細川葵の力は暴走。
コードネーム『Y』の判断にて、闘技場に舞台を移された後、『M』達は細川葵と交戦。
長い戦いの上、『M』達が勝利した。
この件に関して、犯人である『A』は、我々『組織』に確保されたのちに、
「……悪かったわ。もう世界を壊そうなんてことは考えてないわよ……何人もの人達を悲しませることなんて、私はしたくないからね……それに、少しの間だけど、大切な教え子達の身体を診察することも出来たし……」
と、語っている。
どうやらこの事件に関しては反省しているとのことだ。
だが、ここで一つ妙な点を報告させて頂きたい。
それは、細川葵の遺体が、どこにも見当たらなかったという点だ。
目撃証言によると、細川葵を刀で刺した後に、突如身体が発光しだし、その光は周囲の物を破壊しようとしていたらしい。
この状況は、先の『寺内麻美暴走事件』と非常に酷似しているともいえよう。
だが、決定的に違う点が……遺体が見つかったか見つからなかったかの違いだ。
寺内麻美の件に関しては遺体が見つかったというのに、細川葵の遺体は、どこにも見当たらないのだ。
これが何を意味するのかは、我々にも判断がつかない。
しかし……何らかのことが起きないとは、限らないということになるだろう。
『黒石由良暴走事件について』
次いで同時進行で行われていた、黒石由良暴走事件に関しても述べておこう。
この件は、『組織』の調査により発覚……至急、近くにいた『組織』員である、『Y』に連絡を入れ、解決に向かわせた。
相手は闇の力を保有しており、一時は『Y』が殺されてしまう可能性も考えたが、その後『Y』の必死な説得により、正気を取り戻す。
そののち、『組織』に自供してきた。
彼女によれば、
「……あの人が、あの人が私に、また生きる意味を教えてくれたんです」
とのこと。
この発言から見ても、少女はこの世界に関して希望を見出したと考えてもよいだろう。
『事後報告』
この二つの事件が重なったことは、偶然なんかではなかったように思える。
だが……どちらの事件も最悪の結末を迎えることなく解決出来たことは、本当に喜ばしいことだと、我々は考えている。
そして……二度とこのような事態が起こらない限り、今後とも監視をする必要があると言えるだろう……。




