彼なりの願い
Sideシュライナー
ダァン!
一発の銃声が、その場に響き渡る。
誰かが、銃を撃った。
でも誰が?
シュンイチが撃ったものではない。
シュンイチの魔銃は、先ほどの攻撃を受けた際に遠くへ飛んでしまっている。
第一、あの状態で魔術、もしくは魔銃を扱うのは明らかに自殺行為だ。
だとすれば、この場にいる人物で銃が撃てる人。
「……まさか」
私の銃を預けた、ただ一人の人。
そして、私が守らねばならない、最も大切な人。
「お嬢様が?」
「……私としたことが、こんな結末を用意してしまうとはな」
見ると、後ろの方で銃を構えているお嬢様の姿が見えた。
……やはり、お嬢様が、撃った。
「だが、今回こそこのような結末となってしまったが、次に君達に会う時は、もっと残虐的な結末を用意することだろう」
「……何でも、きやがれって、んだ」
シュンイチが途切れ途切れに言葉を話す。
喋るたびに……腹部からの出血が大きくなる。
「喋るでない。出血が大きくなるだけだぞ」
シュンイチの通う学校の校長先生が、胸を押さえながらそう言った。
しかし……アンジック病患者がここにいるとは。
あの病気は確か……。
「もうどうせ、俺はたすかり、ませんよ……たぶん、この場で、血がたりな、くなって、おだ、ぶつ、
ですよ」
「駄目です!そんなことを言っては駄目です!!」
「……ふむ。そろそろ私の体も限界になってきたな」
「……最後に、一つだけ教えてください」
「何だね?」
私は、体がもうほとんど消えかかっているクリエイターに向かって、次のような質問をする。
「あなたの目的は、何だったのですか?」
すると男は、表情一つ変えずにこう言った。
「君達の計画を、破壊する為だよ。日本とグレイブスタン公国の同盟が成立してしまえば、時機に私達は確保されてしまうからな」
「それに……次に会う時とは、どういうことですか?」
気になっていた、一つの言葉。
たった今倒されたばかりなのに、まるで自分にはもう一度チャンスが訪れるとでも言っているような。
そんな感じがしたのだ。
「言葉通りの意味だよ……要するに、この場にいた私も、『私』の用意した駒にすぎなかったというわけだ」
「……」
「それでは一先ず先に退席させてもらうよ。次の舞台では、こういう失態は犯さぬように気を付けて計画を描くことにするよ」
そう言い残すと、クリエイターの体は、完全に消滅してしまった。
「は、やく、アイミーは、政府にいっ、てくれ……ガバッ!」
「!!大丈夫ですか!」
喋る度に血を吐くシュンイチに、私は駆け寄る。
それよりも速く、お嬢様がシュンイチを抱き抱えていた。
「嫌です……こんな状態のシュンイチを放っておくなんて、私には出来ません!!」
「そう思ってくれる、こと自体は、嬉しい、と、思う……けど、それじゃあ、ここまで、お前が来た、意味、が、なくな、る、だろ……」
出血は酷くなっていく。
これ以上血を出させてしまえば、それこそ命を失いかけない。
「……お嬢様、行きましょう」
「!シュライナー?……どうして!!」
「それが彼の決意です。それにお嬢様、彼を信じるのではなかったのですか?」
「え……」
お嬢様にこのようなことを言うのは辛いことですが、仕方ありません。
シュンイチの願いを叶えてあげないと、余計に出血が酷くなるばかりですから。
「……それに、お嬢様がこの場に留まるということは、彼が助からないと思っているからですよ」
「そんなこと!!思ってなんか……」
「なら、行きましょう。それが、私達に今することが出来る、最善の選択です」
「……分かりました」
お嬢様は納得してくださったようだ。
そうと決まれば……。
「心配せんでもいい。彼なら私が病院に連れて行くことにしよう」
「いえしかし……貴方もアンジック病を抱える病人なのでは?」
「確かに私の病気は、秘薬でも使わぬ限りは治らぬ。だが、彼を運ぶくらいの体力は残っておる。魔術を使えぬこと意外は健康体だからな」
そう言って、校長は立ち上がる。
シュンイチを背負って。
「……お願いします」
「うむ。彼を……死なせはせぬ」
お嬢様は、一言そう仰られると、
「……行きますよ、シュライナー」
「……はい」
私とお嬢様は、政府に向かう為に走り始めた。