Last episode 38
「北条!」
「だ、大丈夫よ……このくらいなら、どうってことないわ」
声をかける瞬一だったが、顔を北条の方に向けている余裕などない。
なぜなら、こちらはこちらで、葵に押されているからだ。
「くっ……頼むよ、葵。目を覚ましてくれ―――!!」
瞬一の願いは、届くことはない。
闇の力によって、葵は内なる力を暴走させられているのだ。
つまり、その力を取り払わない限り、葵が目を覚ますことはないのだ。
だが……その方法はかなり難しい。
いや、それどころではすまないだろう……ひょっとしたら、そんな方法などないのかもしれない。
「諦めるものか……何か方法があるはずだ……葵の力を収めるいい方法があるはずだ―――!!」
それはもはや願望。
叶う確率はとてつもなく低い、願望。
そんなことをしている内に、葵は空中に無数の魔法陣を展開させていた。
「ゲッ!……あの時の技を繰り出すつもりか?!」
頭によぎるのは、光の雨。
光の矢が、まるで雨の如く降り注ぐ光景だ。
しかも、ここには自分以外にも春香・織・真理亜の三人、そして茜が一人いる。
すなわち……下手をすればここにいる全員が巻き込まれるということになるのだ。
「何としてもこの攻撃だけは止めなきゃ……!!」
「降り注げ―――神の光よ、彼の者の罪を浄化したまえ!!」
葵はそんな詠唱を告げると、空中に展開された魔法陣すべてから、光の矢が注がれる。
「「「「!?」」」」
それは葵と瞬一達の方を見ていなかった織達四人に向かっても、放たれていた。
つまり、完全無防備な状態で、葵の攻撃を受け入れるということになる。
「くっ……!防げるか!?」
とっさの判断で、瞬一は茜達の前まで走り、結界を発動させる。
その結界は、葵によって放たれる光の矢の脅威を、すべて目前で防いでいた。
しかし、その結界にも、ひびが入る。
「!?……壊れそうだ」
光の矢は、たった数発受けただけでも相当のダメージのようだ。
瞬一が出した結界が、いとも簡単に壊されようとしている。
その度瞬一は魔力を送り込んで強度を強くしているつもりなのだが……それでも光の矢の魔力が勝っている為に、結局結界の破損度は高くなるばかりだ。
「しゅ、瞬一君……」
不安そうに春香が尋ねる。
そんな春香に対して、瞬一は言った。
「……お前ら、今から結界を解くから、その瞬間にそれぞれ散ってくれよ」
「え!?……う、うん」
「ええ、分かったわ」
「了解……です」
三人はそれぞれ動揺しながらも、瞬一の提案に答えた。
「じゃあ……行くぞ!!」
瞬一の合図と共に、三人はそれぞれバラバラに散る。
そして次の瞬間、瞬一は結界を消す。
「ぐぅっ!」
その際に、数発の光の矢の攻撃を、瞬一は受け入れてしまった。
肩に刺さり、足に刺さり、腕に刺さり。
命に別条はないとはいえど、それでも瞬一に激痛が走る。
「こんな痛み……葵の抱えている痛みに比べればどうってことねぇよ―――!!」
瞬一は、その痛みに耐えた。
葵は、自分なんかよりももっとつらいのだ。
だから、こんな痛みは可愛いものだ、と言い聞かせて。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
さらに追い打ちをかけるかの如く、葵は天使の精霊らしきものを召喚していた。
背中からは葵と同じように羽が生えていて、頭に何やらわっからしきものが浮かんでいる。
想像通りの天使……だが、いつもなら光の存在の天使が、闇に包まれていた。
「受けよ―――!!」
そんな天使の精霊は、手に持つ弓にて数発の弓矢を瞬一に向かって放つ。
瞬一は……自らを守ることに若干の遅れをもってしまった。
「しゅ、瞬一君!?」
「あ、アンタ、早く結界を張りなさいよ!?」
「む、無理だ……間にあわねぇ―――!!」
そして、瞬一は、そのまま……。




