Last episode 33
「よ……吉沢先生?どうして……」
信じられないという表情を浮かべる一同。
だが、そんな表情を浮かべることを予測していたらしい茜は、
「……ごめんなさいね、三矢谷君達。私、こっち側の人間なのよ」
「……先生、まさか」
考えられる一つの可能性。
それは、瞬一にとっては、考えたくもなかったこと。
数ある可能性の中から、最も抜き出したくはなかった……可能性。
茜の口から言って欲しかったのだ。
そうではないと、一言言ってもらいたかったのだ。
……だが、茜は、
「……ええ。貴方の思っている通りで合ってるわ。私は、スクリプターに手を貸してるの。言わば……スパイってところね」
「せ……先生……」
呆然としてしまう春香。
春香だけじゃない……織も、真理亜もそうだったのだ。
もちろん瞬一だってそうだった……だがそれ以前に、尋ねたいことがあったのだ。
「……先生、どうして葵を、こんな目に遭わせたのですか?それに……どうしてこの学校に、潜入してきたのですか?」
懇願するようにも似てる言い方で、瞬一は尋ねる。
その表情は……信じたくないという強い意思表示が見受けられた。
茜は答える。
「そうね……強いて言うなら、スクリプターに頼まれたから、かしらね?スパイのことも、細川さんのことも、ね?」
「……それだけで、そんな単純な理由で、葵の力を暴走させたってのかよ」
「しゅ、瞬一君……」
怒りの感情が芽生え始める。
もはやその表情からは……優しい感情など見られることはなかった。
「そうね……それだけの理由で、私は動いたのよ。スクリプターに頼まれたから、私はこうして行動を起こしたのよ。それが私の望みでもあったから、ね」
「ふざけんな!アンタのそんな自己中心的な考え方で、人一人の命を左右するようなことがあってたまるものか!アンタには……アンタには葵がどれだけ苦しんでいるのか分からないのか!!」
「さぁ……どうだかね。そんなことは私には分からないわよ。だって、私は本人じゃないもの」
「くっ……!!」
怒りを茜にぶつける瞬一だが、茜はそれを軽く流してしまう。
まるで眼中にもないと言った感じだ。
「それにね……私はスクリプターに協力しなければならない理由があったのよ」
「理由……?」
「それって……どういうことよ?」
瞬一の代わりに、真理亜が尋ねる。
すると茜は、一旦言葉を詰まらせる素振りを見せたかと思うと、やがて笑顔になり、こう一言だけ告げたのだ。
「だって……この世界、あるだけ無駄じゃない?どうせなら最後は派手に壊しちゃった方が、面白味もあって楽しそうでしょ?」
「テメェ……そんなふざけた理由で、そんなふざけた理由で、人の命弄んでるんじゃねえよ!」
「しゅ、瞬一君!?」
「駄目です!刀を出して吉沢先生を斬ってはいけません!」
「アンタ……人殺しになりたいの!?」
静止の声が、瞬一の耳に入ってくる。
だが、瞬一の耳はそれらをすべて、意図的に聞き流した。
聞こえてくる音など、すべて雑音。
感じられるのは、異常なまでの狂気、怒り、殺意。
「殺してやる……殺してやる!!」
瞬一の右手には、いつの間にか刀が握られていた。
それを握る力は、今までで一番強い。
敵は明確だ。
やることはただ一つ。
……その刃を以て、ただ茜を突き刺せばよいのだ。
「死ねぇえええええええええええええええええええ!!!!」
これ以上ないほどの叫び声を、瞬一はあげていた。
だが、そんな瞬一の状態にも茜は目を配ることもなく、
「……やりなさい、細川葵。その力を使って……この世界にあるすべてを破壊し尽くしなさい」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
葵は、叫び声をあげながら、瞬一に突っ込んで行く。
だが、怒りに狂った瞬一が、そんな葵に気付く筈もない。
そして、瞬一は、
「ガハッ……!」
葵によって作り出されたナイフによって、左肩を斬られた。




