もう駄目かもしれない……
「脚本を書いた?」
「クリエイター……過去にその名前を全国に轟かせた魔術師であり、気に食わぬことがあれば、邪魔をしにくる魔術師だな」
「私の名を知っているとは……さてはお主、石塚源三郎とお見受けするが?」
「いかにも。その通りだ」
知り合い、なのか?
校長と、クリエイターと名乗った男は。
「知っているのか?」
「いや、会うのは今日が初めてだ。互いに名前のみが広まってるからな」
なんとなく納得してしまった。
確かにこの人の名前は、色んな場所で聞くものな。
「その教え子が王女の護衛とはな……絵にはなるが邪魔だ。この場で消え去るがよい」
「お主こそ、かつて世界を破滅に迎えようとしていたことを忘れたわけでもあるまいな?」
世界の破滅?
何の話なのだろうか。
……まあ、今は関係ない話だな。
「それで?この私を前にしてもまだ立ち塞がると?」
「……そうだな。かつて不敗の男と歌われて来ただろう男も、今では攻撃魔術の一つも使えない程まで堕ちたと聞いている……しがない脚本家である私でも勝てるくらいにな」
校長が、魔術を使えない?
どういうことだ、それは?
「……」
「反論はせぬようだな。なら君は傍観者としてその場に立っているがいい。私は邪魔者と邪魔者を排除するのに手一杯なのだよ」
「……くっ」
この男の放つプレッシャーは並じゃない。
それこそ、睨むだけで人を殺せそうな代物だ。
……直視してはならない。
目を合わせた瞬間、俺はコイツに殺される。
「動かぬか……なら、こちらから行かせてもらおう」
ユラッと、体を揺らして迫ってくる。
それは……スロー映像を眺めているかのようだった。
本当は普通に歩いて近づいているはずなのに、その足は、通常速度よりも遅く感じてしまった。
「……数多の脚本に描かれし結末の内より、この舞台に相応しい結末を選ぶ」
「くっ……!聖なる雷よ、我の両手にその力の一部を宿せ!」
俺が満足に詠唱することが出来たのは、相手の詠唱が始まってしばらく経ってからだった。
「我の選ぶこの舞台の結末は、ヒロインを守る青年の死。ここに、我の脚本が完成したことを宣言する!」
「うぉおおおおおあああああああぁお!!」
射程距離までの全力疾走。
相手の魔術が完成するのが先か。
俺のライトニングが届くのが先か。
どちらにしろ、先に攻撃を与えないと、負ける。
「ライトニング!」
「バッドエンド!」
両者の手がぶつかり合う。
ここで……負けるわけにはいかないんだ!!
「うぉおおおおおあああああああぁお!!!!」
重なる手に、より一層力を込める。
負けて……たまるかぁあああぁああああ!!
「!!いかん、攻撃を止めてその場から引くのだ!」
「え……うがぁ!」
俺は、目の前のことに集中し過ぎていて、気付かなかった。
「い……いゃあああああああ!!」
「あ……が……」
ポタ、ポタと、俺の腹部より血が零れ落ちる。
俺は気付いていなかったのだ。
横から現れた、黒い服を着た、奇襲者の存在に。
「よくも……ヘルズシュート!」
シュライナーが、ほぼ無詠唱の状態で、その黒服に向かって赤い弾丸を撃った。
まもなくその弾は黒服の体を貫通し、黒服はその場で消滅した。
「だ……大丈夫かね、三矢谷瞬一!!」
校長が、俺の名前を呼びながら、俺の体を安全な場所へと運んでくれた。
……あれ、顔がよく見えないや。
「こう……ちょう?」
「目を閉じてはいかん!安心しろ、今治癒術を……ぐふっ!」
校長が俺に何かの魔術をかけようとしたその瞬間。
胸を抱えてその場に踞った。
「……魔術を使うと、その影響で体が蝕まれる。アンジック病の典型的な例だな」
「アンジック……病?」
なんだろう……その病気?
でも、俺にはなんだか関係なさそうだ。
何せ俺は……もうすぐ死ぬのだからな。
「それでは、この脚本の終止符を打つとしようかね」
コツ、コツ。
静かに、しかし確実に俺の所に歩みよってくる。
……とどめなどささなくても、俺は時機に死ぬと言うのにな。
ああ……守れなくて済まなかった、アイミー……。
俺は、お前との約束を果たせそうにない。
「うわあああああぁああああああああ!」
その時。
誰かの叫び声が聞こえた……ような気がした。