Last episode 31
「吉沢先生から、闇の力が?」
「ああ。わずかながら、その兆候が見られた」
大和は、事実を述べるようにただそう言った。
だがここで、瞬一達は疑問を抱く。
「何で吉沢先生から、闇の力が……?」
「多分、吉沢先生はこの学校にやってきたスパイか何かなんだと思うよ。それで、彼女自身も闇の力を得てるんだと思う」
「け、けどよ……小山先輩の時には、薬を作ってくれたんだぜ?」
「……そのことなんだけど、最近気になって調べてみたんだ」
信じられないという表情を浮かべる瞬一。
瞬一はそこで、千里のアンジック病の件を出してみたが、その時に大和が口を挟む。
「あのアンジック病という病気だけどね……薬なんてものは最初から実在しなかった」
「「「「え?!」」」」
驚く瞬一達。
無理もないだろう。
なぜなら、その薬の材料を、彼らは採りに行っているのだから。
「け、けど、医学界でも確率は低いながらも治す方法はあるって……」
「吉沢先生は、そもそも医者じゃない。だから医学界にいる人間でもないんだ」
「彼女はあくまで一般人だ。学校医というのも、恐らく身分偽装によって得た称号だろう」
「そ、そんな……」
ショックを隠しきれない織。
だが、真理亜はそれ以上に何かに気づく。
「それじゃあ……細川さんは大丈夫なのかしら?」
「「「!!」」」
気づいたが、瞬一達はどうすることも出来なかった。
何故なら。
ガラッと、扉が開く音がする。
「……あ、みんな……?」
「あ、葵!?」
胸を押さえながら、葵は教室の中に入ってきた。
そんな葵の様子を見て、瞬一達はひどく狼狽する。
「い、一体どうしたってんだよ葵。何でそんなに苦しそうにしてんだよ!?」
「わ、分からない、の……吉沢先生からもらった薬を飲んだら……何だか、胸が……体全体が熱くなってきて……」
葵は、息も絶え絶えにそんなことを話す。
そして大和は、気になる単語を耳にした。
「吉沢先生、から?」
「うん……吉沢先生からもらった、黒い薬を飲んだら……」
「……恐らく闇の力がこめられた薬を飲まされたんだ。多分すぐに収まると思うから、それまで我慢を……」
大和が葵にそう言おうとした。
だが、その前に葵が訴える。
「もう……駄目……体の奥から……力が溢れ出てきそうで……耐えられ、ない……」
「……この状況、まさか」
「……大地?」
何かに気づいた様子の大地に、瞬一が尋ねる。
瞬一は、葵の身に何が起こっているのか、一体全体把握出来てなかったのだ。
そんな様子の瞬一に、大地は言った。
「今すぐ細川をこの教室から学校の外に転移させろ」
「なっ!?何で……?」
「いいから早く!」
「!?」
怒鳴られて、瞬一は慌ててその呪文を詠唱する。
葵自身も、他の人達も、何故大地がそんなことを命令したのか理解出来ずにいた。
やがて瞬一が詠唱を終えて、葵はその場から姿を消す。
「とりあえず闘技場に転移させといたぞ!」
「じゃあ今から闘技場に向かうぞ!時間がない……早くしないと、力が暴走しちまう!」
「力?何のことだよ!」
焦っているのか。
瞬一は大地の言っていることをうまく理解できずにいた。
織や春香、真理亜も同じだ。
そんな四人に、大和は言った。
「葵の身体に眠る、光の器の力が暴走し始めてるんだ!」
「な、何!?」
「今すぐ瞬一達は葵のところへ……闘技場へ向かってくれ!僕と大地は、晴信や啓介を呼んでくる!」
「ああ、分かった!!」
教室から慌てて出て行く瞬一達。
その表情には、焦りが見えていた。
「待っててくれ、葵……絶対に助けに行くから」
瞬一は、廊下を走りながら、自然とそう呟いていた。




