カーチェイス
瞬一達を乗せた車は、問題の場所、即ち大通りに来ていた。
日本政府に行くのに、この道を通ることは確実なのだ。
この道を通る以外にもルートはあることにはあるが、近道なのは紛れもない事実だった。
「……まだ来ないな」
「そう早くに来るものでもない。だが、油断してたら襲われた時に何時もの判断が出来ぬ。冷静に事を判断するのだ」
「……はい」
校長は、呟いていた瞬一に対して、そう言葉を返す。
シュライナーは車の横を監視するのに徹していた。
瞬一もまた、後ろの方を見て、黒服がいつ来てもいいように、魔術を使用する準備をしておいてあった。
「……」
車内に、緊張の空気が広がっていく。
だがしかし、そんな空気はすぐに壊されることとなった。
「なっ!?」
突如、車の近くでドン!という爆発音が聞こえてきた。
つまり……。
「来た!校長先生、窓を!」
「うむ!」
校長は、瞬一に言われて窓を開ける。
攻撃しやすくするのと同時に、窓が割れるのが原因となる怪我を防ぐ為だ。
「ちっ!数が多い!」
瞬一とシュライナーは、窓から顔を出し、相手の数を確認する。
黒い車が、4、5台追いかけて来るのが見えた。
「やるぞ、シュライナー!」
「分かってます!」
車の他にも、瞬一達が乗る車の横には、バイクに乗っている黒服達も何人か見えていた。
「数が多ければいいって問題じゃないぜ!!」
瞬一は、横を走るバイクの一台に雷撃を与える。
タイヤに当たり、パンクしたことで、バイクは横転した。
そのバイクは、すぐ後ろを走っていた仲間も巻き込んだ。
「お嬢様には……指一本も触れさせませんよ!!」
シュライナーは、携帯を取りだし、
「汝らに与えるは残虐なまでの破壊……ブラスト!」
その携帯を、黒服が乗っているバイクに向ける。
彼は、黒服本人にではなく、バイクに魔術をかけたのだ。
瞬間。
「!!」
ドゴン!と言う喧しい程の爆発音を響かせて、バイクは跡形もなく爆発した。
「よし!」
「油断するでない!敵はまだまだおるぞ!」
「「はい!!」」
瞬一とシュライナーは、声を合わせて校長の言葉に答える。
「これで……バイク組は終わりだ!」
最後のバイクを破壊し、瞬一は言った。
「今度は車の方か……」
後ろを見ると、すぐそばまで来ている黒い車の姿があった。
「聖なる雷よ。その力の一部を我の両手に宿せ!」
瞬一は、両手に雷撃の力を与える。
そして、
「ライトニング!!」
車のタイヤ目掛けて、その雷撃は一直線に飛ぶ。
「!?」
一つの車の二つのタイヤに、その雷撃は直撃する。
タイヤに穴を開け、車は制御不能となった。
「よしっ!」
「このまま逃げ切るぞ!しっかり捕まってるんだ!!」
車は残り四台。
シュライナーからの角度じゃ、車にダメージを与えることは不可能。
……かくいう瞬一の雷撃も、最後尾の車までは届かない。
「どうすれば……!!そうだ、その時のこの銃だ」
瞬一は、とあることに気づく。
そして、瞬一はシュライナーの方を見て、
「……シュライナー。その銃は護身用にアイミーに渡しとけ」
「え!?……あ、はい」
瞬一の目を見て何かを悟ったらしい。
シュライナーは、丁寧にアイミーに魔銃を渡した。
「でも、これって魔力を使うんじゃ……」
「科学魔術師は確かに、携帯等の、科学の力で生み出された物に魔力を込めて魔術を発動させる……
この銃も、例外ではないはずだぞ?」
「なるほど……この銃なら、私でも扱える、というわけですか?」
「あくまで護身用だ。出来れば使わない方が一番いい」
確かに、渡しておくだけ安心といえば安心だろう。
だが瞬一は、同時にあまり使わせたくないとも思っていた。
「……ありがとうございます」
「……いい判断だとは思う」
校長が瞬一に言う。
「……残りの敵も殲滅する方向で行くとしよう」
「はい……」
瞬一はもう一度窓から外を見る。
そして、両手を突き出し、魔銃を構える。
「……!!」
そして瞬一は、魔銃に魔力を込め、
「これでも喰らえ!」
引き金を、引いた。
日本でこんなことは起こりません。
カーチェイスを日本で目撃した方、それは恐らく間違いだと思われます。