作戦決行
「……時間だ」
「はい」
校長に言われて、俺はソファーから立ちあがる。
アイミーもまた同時に立ち上がり、俺の方を一度だけ見た。
俺はそれに対し、笑顔を見せるだけ。
大丈夫だ、俺を信じろ。
するとアイミーは、顔を若干赤くして、首を縦に頷かせた。
……赤くなる要素はどこかにあっただろうか?
「車も来たみたいだ。早く行くとしよう」
「……はい」
校長は、窓から外を覗いて、車があることを確認する。
俺も、校長の隣に立ち、車を確認する。
その車は、黒を基本とした高級車。
あの日、俺が初めてアイミーと出会った日に、アイミーが乗って帰った車と同じ車だ。
「あれに、俺なんかが……」
「そうだ。君は後ろの席に座って、後ろからの攻撃から王女を守るのだ」
「はい」
相手の攻撃が、どこから来るのか分からない。
……けど、何としても、アイミーに傷一つつけたくない。
何せ会合を行う前だ。
こんなに美しい顔に、傷一つつけさせるわけにもいかないだろう。
「では……行くぞ」
「「はい!」」
俺とアイミーの声が重なる。
それを肯定の意と確かめると、校長は前を歩きだす。
俺とアイミーは、そんな校長の後をついて、車がある場所へと向かった。
「作戦決行の時間ですね、石塚校長」
「うむ。運転は私がやるとして、シュライナーと言ったな……君は助手席に座り、横からの攻撃に対応してもらいたい」
「はっ」
「そして三矢谷瞬一……君は後ろの席に座り、背後からの攻撃に対応するのだ」
「はい!」
改めて作戦の内容を確認する俺達。
言われた通りの席に座り、ある程度の準備をする。
……剣は必要ないな。
背後からの攻撃に対応するには、遠距離魔術を使う他ないな。
つまり、ライトニングやスパークの方を多用するしかないか。
「……では、参るぞ」
校長が、キーを差し込んで、エンジンをつける。
ブロロロロロという音を立てて、そんなに時間がたたないうちにエンジンはついた。
それを確認すると、校長はハンドルを少し回して、道に出る。
「……うまいですね、校長先生」
「それはまあ、私とて運転免許を持っている身だからな。これくらい当然のことだ」
いくら校長と言っても、老人だからな……。
もう少し戸惑うものかと思ってた。
「何か?」
「い、いえ、何でも……」
一瞬だけ校長が後ろを振り向いたのだが、その目がクラス分け試験の時にも見せた、あの狩人の目になっていた。
直視しては殺されてしまうような……そんな目だった。
この人、ひょっとしたら若い時に、様々な修羅場を掻い潜ってきた人なのではないだろうか?
だとしたら、これからもあまり逆らわない方がよさそうだな……。
「この辺は敵が現れることはないだろう……」
「問題は大通りに出てから、ですね」
「うむ。そこで大きな戦闘になると、交通面でもデメリットが発生するからな」
俺と校長は、そんなことを話していた。
そして俺達は、もうすぐその大通りに出ようとしている。
「……」
その時。
隣に座っているアイミーの顔をふと見ると、不安の色が見え隠れしていた。
無理もないだろう……何の武器も持たずに敵地に赴くような感じなのだから。
「大丈夫だ、アイミー……必ず、お前は俺が守る」
「シュンイチ……」
俺がそう言ってやると、アイミーは不安の色がなくなったかのような表情で、俺に言葉を返してきた。
「……」
そんな俺達のやり取りを不満そうな顔をして見ているシュライナーを見た時は、正直どんな反応をとろうかと迷ってしまい、何の反応もとらなかった。
「覚悟はいいかな?」
そこに、校長からの最終確認の言葉が降り注ぐ。
俺・アイミー・シュライナーの三人は、首を縦に頷かせた。
「それと……これを持っておけ」
「え?……うわっと!」
そう言って、何処から取り出したかは知らないが、左手で俺とシュライナーにとある物投げてきた。
受け取った瞬間に、重みが加わる。
「それは魔銃だ……己の魔力を弾として撃つのだ……自前の魔術だけでは耐えられなくなった場合には、これを使うがよい」
「分かりました」
「はい」
俺とシュライナーは、そう返事を返す。
……それにしても、魔銃か。
初めて触ったな。
「いよいよだ……」
「「「……」」」
気を引き締める。
俺達三人の表情―――校長も含めた四人の表情は、引き締まった物となっていた。
やがて黒い車は、決戦の舞台の一歩手前―――即ち日本政府に行くまでの大通りに出た。