目覚め
「ん……ん?」
何の前触れもなく、俺は目を覚ました。
あれ……ここはどこだ?
空が見えるし……それに、頭にやわらかい感触が。
「目は覚めた?」
「あ?ああ……覚め、まし、た……って、ええ!?」
な、何だこの状況は?
何で俺は、小山先輩に膝枕させてもらってるんだ?
し、しかも心なしか、やわらかい感触が……。
「おい瞬一。いい加減千里から離れろ!起きたんだからもういいだろ!」
「……分かってるよ、啓介。そんなに必死にならなくてもいいだろうに」
まったく、さすがは啓介だな……。
小山先輩にご執着かよ。
「んじゃ、怒られない内にさっさと立ち上がりますか……よっと」
俺はとりあえず起き上がり、その後で戦闘スペースの方を見る。
……見ると、仕切りの数がほとんどなくなっている。
ということは、もう準決勝くらいにきているのか?
「ところで、今は何回戦くらいまで来てるんだ?」
「今は確か準決勝だったぞ」
「準決勝か……なるほど、そのくらいまで来ていたというわけか」
凄いな、あいつら。
団体戦ながらも準決勝まで行くとは。
「これまでの戦績は?」
俺は一応は全部の試合を見ていただろう小野田に尋ねる。
すると、小野田は言った。
「4対1とか5対0がほとんどだった。ただ、一回だけ3対2があったけどな」
「それが、この試合の前の試合での話だ」
「へぇ……」
改めて思う。
あいつら……マジで凄いんだ。
さすがに俺もそこまでは考えていなかったな。
「けど、今はちょびっとピンチだったりもするがな」
「え?」
晴信の言葉を聞いた俺は、慌てて葵達の戦闘スペースを探す。
割と簡単に見つかったが、そこには。
「な、何!?」
なんと、相手選手に押されている織の姿が見受けられた。
……理由はなんとなく分かる。
「俺が目覚めるのが遅かったからか」
「さっきまでの試合でも、織は動きが微妙に鈍かったんだ。それでも何とか勝ってきたけど、今回はさすがにピンチだな……しかも織が負けてしまったら、そこで敗退だぞ?」
「え?」
スコアは……2対2。
すなわち、この戦いの勝敗によって、チーム全体の勝敗も決するというわけか。
けど……携帯を片手に持つ織の表情は、迷いの色が混じった、苦しそうなものだった。
「あのままだと……織がやられちまうな……」
せめて俺が目覚めたことを伝えてやらないと。
このままだと織は、相手の流れに乗せられたまま負けてしまう。
俺のせいで全力を出せなかったなんて……そんなの馬鹿げてる!!
「くそっ!」
俺は観客席の一番前まで降りる。
ここから大声を出しても織に声が届くか分からないけど……やるしかない。
「織!!負けるんじゃねぇぞ!勝って決勝に行くんだろ!!」
「!?」
と、届いたみたいだ……。
これだけ騒がしい空間なのに、俺の声は織の耳に届いたみたいだ。
一瞬だけこっちを向いた織の顔は……笑顔だった。
何か重りが外れたような、そんな表情だった。
「……よし。今の織なら勝てる」
「……一応聞くけど、どうしてそんなこと言える自信があるんだ?」
晴信に聞かれる。
……それはもちろん、決まってるじゃないか。
「俺の……親友だからな。しかも、俺なんかよりも、力で言ったら上だからな。アイツなら全力さえ出せば勝てると思ってる」
「……そうか。さすがは瞬一だ。他人を信じることが出来るのは、ある意味才能だよ」
「ならお前にもその才能はあるのかもしれないな」
「……分かってたか。瞬一」
晴信の目にも、織が負けるはずがないという気持ちが篭っていた。
……そうだ、織が簡単に負けるはずがない。
「勝負はここからだぞ、織!!」
返事はないが、多分聞こえてたと思う。
織の動きが、軽くなるのが見えたから……。




