互角の力
瞬一は、後ろに走り、岩の陰に隠れる。
そして、相手の攻撃を警戒しつつ、
「聖なる雷よ。その力の一部を我が両手に宿せ」
静かに、小さな声で呪文の詠唱を行った。
その規模は、自己暗示をするかのようだった。
そして、両手に雷が帯びたことを確認すると、岩陰から出て、相手の居場所を察知する。
「さすがにここは広すぎるな……」
決勝戦ということもあり、戦闘スペースはかなり広い。
その為、相手を見失ってしまうことも多々あるようだ。
「……どこにいるんだ、岸辺は」
「ここだ!」
「え!?」
ポケットからMP3プレイヤーを取り出していた岸辺が、背後より近付いてくる。
そして、ボリュームの部分で使用魔力量を調整しながら、
「一本の雷を以て彼の者を制裁する!」
「雷が得意属性なのか!?」
岸辺が呪文を詠唱する。
その詠唱時に地面に現れた魔法陣の色は、黄色。
すなわち、雷系統の魔術ということになる。
「俺は前から雷が得意なんでな……そういうお前も雷か。両手にライトニングの姿が見受けられるぜ?」
「さすがだな……ライトニングの詠唱だと見破るとは。だが、そんなのは関係なくなっちまうぜ!」
「それは俺のセリフだ!」
瞬一は右手を突き出して雷の線を放出。
岸辺は、やはり右手を突き出して雷を放出した。
その力は、互角。
「くっ……!」
「ふんぬっ!」
瞬一と岸辺のど真ん中で、二人の攻撃は激突した。
そして、大規模な爆発音と共に、その二つの攻撃は姿を消していった。
「力は互角か……なら、刀で挑むまでだ!」
「ほう……なら俺も刀で挑んでやるよ!」
瞬一と岸辺は、刀で戦う道を選んだ。
それぞれ己の武器を出す為に、呪文を詠唱する。
「雷を纏いし我が剣よ。その姿を具現し我の武器となれ!」
「あらゆる物を斬り捨てる雷の剣よ、俺の武器となる為に現世に姿を現せ!」
二人の呪文はまるで違う。
けれど、雷系統の刀は、誰もが同じ刀が現れるのだ。
「……行くぞ!」
「来い!」
瞬一は、岸辺に向かって走りこむ。
岸辺は、瞬一の到着を静かに待っていた。
「はぁっ!」
ガキン!
思い切り振りおろした瞬一の刀は、直前になって岸辺が防いだために相手にダメージを与えることはできなかった。
この力も、互角。
「ちっ……クソ野郎が!」
思い切り力を込めて振った岸辺は、瞬一の刀を何とか振り払うと。
「そこだ!」
腹に向かって思い切り斬りかかる。
だが、瞬一もその攻撃が来ることを予測することが出来ていたのか。
「当たるかよ!」
後ろにステップよく下がることで、その攻撃を避ける。
そしてすかさず、心臓めがけて刀を突き刺しにかかる。
「うおっ!」
岸辺はしゃがんで避け、その後で瞬一の腹部を蹴った。
「あがっ!」
「……はぁっ!」
腹を蹴られたことで、瞬一は一旦ひるんでしまう。
その隙を逃さないように、岸辺は刀を振る。
「させるか―――!!」
瞬一は、何とか苦しいのに耐えながら、自らの腹めがけて振り払われようとしていた岸辺の刀の動きを止める。
そして、
「お返しだ!」
「ごふっ!」
代わりに岸辺の腹に蹴りを入れ、動きを封じた。
先ほどの瞬一同様、岸辺もまた苦しみだす。
「これで……終わりだ!!」
瞬一は、とどめの一撃と言わんばかりに、刀を思い切り突き刺しにかかった。
「……ふん!」
だが、その直前で、MP3プレイヤーを操作した岸辺が、結界を発動する。
その結界に衝突した瞬一の刀は、音もなく消え去ってしまった。
「「……」」
両者の間に静寂の時間が訪れる。
「「……はぁっ!!」」
そして再び、二人の時は動き出した。




