王女の護衛役が俺!?
うへー。
知らぬ間に俺は、問題を起こしていたのか。
何されるんだろう、俺。
て言うか、荷物持ってこいって言われたから、退学か?
いやいや、退学になるようなことはやっていないはずだ。
……やめよう。
自己険悪に陥っていると、余計に悲しくなる。
「とにかく、校長室に入ろう」
今俺は、校長室の前に突っ立っていた。
着いたのは、今さっきのことである。
「……行くぞ」
コンコン、とドアをノックする。
「三矢谷瞬一です。入ってもよろしいですか?」
「構わぬ。中に入るがよい」
……そういえば、校長と話をするのはこれが初めてだな。
普段は壇上に上がって何か話をしているのを聞いてるだけだしな。
あの校長と一対一で話をする生徒というのは、転入生か、何か問題を起こした生徒くらいしか知らない。
つまり、俺は後者に当たるということで……。
「あの……校長先生?」
「何だね?」
「どうして俺は呼ばれたのでしょうか?……まさか自主退学を勧められに来たということでは……」
「退学?何の話だね?」
「……いえ、何でもないです」
どうやら退学の話ではないらしい。
じゃあ、何で俺は呼ばれたのだろうか?
何か他に理由があるとも思えないのだが……。
「ふむ。それでは事情を説明するとしよう」
「はぁ……」
事情?
本当に、何があるって言うんだ?
テレビを見た限り、俺らに関係ありそうなことなんてなかったはずだが?
「君はグレイブスタン公国という国は知っとるかね?」
「グレイブスタン公国、ですか?……確か、日本と同盟関係を結ぼうとしている国ですよね?」
「うむ。今日の午後一時、グレイブスタン公国の王女が、日本政府に行き、同盟を結ぶという予定だ」
「ですが……それと俺と、どんな関係があるというのですか?」
俺の知り合いに、王女様はいなかった気がするが。
……何か露骨に嫌な予感がするのだが。
「実はな、昨晩王女から、本日の政府行きの時の護衛役を我が校に依頼してきたのだ」
「うちの学校にですか?」
「日本政府から一番近く、なおかつ魔術が使える場所と言ったら、ここだからな」
なるほど。
……何か話が見えてきたぞ。
「そこでだ。君には本日、その王女の護衛役をやってもらいたい」
「……あの、校長先生?」
「何だね?」
「もう一回……言ってもらっていいですか?」
『今、俺が王女の護衛役をやれ』的なこと言われた気がするんだが。
気のせいだよな?
気のせい。
「君には本日、王女の護衛役をやってもらいたい」
「幻聴じゃなかった!?」
一人訳のわからないテンションで騒ぐ俺。
もちろん、校長は目の前で俺の奇行を眺めていた。
「それは……俺に拒否権というのはないんですか?」
「無論ないが……どうしてそのようなことを聞く?」
ないのか……。
けど、その理由を尋ねられているということは、俺がそのようなことを言った理由が知りたいということなのだろう。
ここは、素直に答えておこう。
「俺はまだ、一生徒に過ぎません。それなのに、失敗が許されないような大役を引き受けるわけには……」
「聞け、三矢谷瞬一」
「!!」
校長が俺の発言を遮って、俺のことを呼ぶ。
「最初から無理だの務まらないだのと言っていても、言うだけ無駄だ。自分はまだ生徒だからそのようなことは無理と言うのは、目の前の現実から逃れているのと変わらぬことだ」
「し、しかし……」
「それにこの護衛役……王女自らがお主のことを指名したのだぞ?」
「え!?」
王女が、俺のことを指名した?
何で?
て言うかその前に、何で俺の名前を知っている?
「……だから、この護衛役は、お主にしか務まらないのだよ……引き受けてくれるな?」
「……」
俺は少し考えてから、
「……いいですよ。王女が俺のことを指名してくれたって言うなら、断るわけにはいきませんしね」
ある意味では国際問題に発展しそうだけどな。
「まずはその王女に会わぬことには話が始まらぬ……まずはあの部屋に入りたまえ」
そう言って校長が指さした先には、恐らく客人が来た時用の部屋だと思われる場所へと繋がる扉があった。
「はい」
俺は校長にそう返事をすると、その扉を開けた。
そして、ソファーに座っている少女を見て、驚いた。