忘れ物を取りに来て
「痛いっつの……」
「ご、ごめんね。つい本音が出ちゃって……」
「ボクもちょっとやりすぎた……ごめんね」
帰り道。
俺は織と葵の三人で帰り、そんなことをぼやいていた。
あの後、俺はなんでだか知らないけど、クラスの奴らから集団リンチの標的となった。
女子は俺のことを労わってくれたが、男子はそうはいかなかった。
まぁ、大和と大地を除いてなのだが。
そんなわけで、さっきまで大和・大地抜きの男子生徒&葵・織vs俺一人という、かなり過酷な状況を強いられていたわけだ。
「まさかアイミー一人連れてきただけでこんな展開になるとは思わなかった……」
んで、そのアイミーは今、日本に来て取っているというホテルに行っている。
さすがにアイミー一人だけということはなく、護衛(?)役としてシュライナーがついていた。
「それにしても……どうしてアイミーンさんはこっちに来たの?」
「ああ。何でも文化祭のことを校長先生に聞いたらしいぞ」
「なるほど……って、瞬一君と葵ちゃんはアイミーン王女様とは知り合いなの?」
あ、一応言っておく。
織も転入して何日か経過したが、クラスの奴らとはほとんど仲が良くなっている。
……それは大いに結構なことなのだが、帰国子女ということもあり、男子からの人気も(一部だが)高い。
最近では、ラブレターが下駄箱内に入ってることも多いのだとか。
「……あ、しまった」
「どうしたの?瞬一」
俺は、カバンの中を探してみて、そして気付いた。
隣では、何やら葵が疑問の表情を浮かべて俺のことを見ていた。
「いや、教室に筆箱を忘れちまったみたいなんだよ……悪いけど先帰っててくれないか?」
「え?いいけど……」
「んじゃ、二人とも、またな!」
俺は今来た道を戻る。
……筆箱がなければ、今日出された宿題を片付けることが出来ないからな。
「……んで、何この状況?」
扉の近くまで来てみれば、中には誰かがいるみたいだ。
あれは……女子か。
けど、二年生では見ない顔だ。
何やら誰かの机を熱心に探しているみたいだけど……ん?
「手にしているのは、手紙か?」
その女子生徒の右手には、何やら手紙があった。
……放課後、こんな時間。
女子生徒が、手紙を持って一人立っている。
しかも、学年は……リボンの色が青色なので、一年生。
「俺が知ってる一年生って言ったら、優奈と刹那の二人くらいか……」
けど、その二人のどちらにも当てはまらない。
……あの子には申し訳ないけど、時間だけが過ぎていくし、中に入るか。
ガラッ。
「!!」
扉を開く音に反応して、女子生徒の体が震える。
……何だろう、この罪悪感。
「わ、悪い……まさか人がいるとは思っていなかったものだから」
「……うぅ」
「ちょ……何でそこで泣く!?」
ま、まずい。
このままだと、放課後、誰もいなくなった教室で、先輩が後輩を襲っているというシチュエーションが完成してしまう!!
泣かれたままなのは、俺の身がやばい!!
「ま、まずは落ち着け!俺は別にお前の邪魔をしに来たわけではないし、大体俺は、筆箱を取りに来ただけなんだから!」
「……本当?」
その女の子は、紺に近い黒の髪の毛を揺らし、そう尋ねる。
……髪長い女の子だ。
けど、なかなかに可愛い子だなぁ。
「ところでさ、お前一年生だよな?どうして俺達の教室に来てるんだ?」
「……言えない」
言えないって……そりゃあ、二年生の教室にラブレター渡してきましたと堂々と言える奴もどうかと思うけどな。
「じゃあ質問を変えるぞ。誰の机を探してるんだ?」
「……大和先輩の、机」
やはり大和か……モテモテだな、アイツ。
北条だけじゃ物足りず……羨ましい奴だ。
「大和の机ならあそこだ。んじゃ、俺は筆箱を取って帰るから」
俺は即座に机の中から筆箱のみを取り出して、さっさと教室を出ようとする。
……その前に、聞いておきたいことがあった。
「お前、名前は?」
「……水野明美」
「俺は三矢谷瞬一。じゃあな!」
俺は邪魔にならない為にも、さっさと教室を出ていく。
……しかし、ラブレターを渡す人って言うのは、今でもいるんだなぁ。




