謎の声の主の目的
「……甘いよ、君達」
「!?」
大和は、自らの最大の弱点を突かれたというのに、その顔には笑みさえ見えていた。
携帯がない今、科学魔術師である大和には、魔術を使う術はない。
つまり、これらの術のすべてを、その身で受けるしかないはずなのだ。
しかし、大和はそれを甘いと言った。
「……まさか」
瞬一は、とある可能性を考えた。
だが、そんなはずはないとも考えた。
きっと、ポケットにはもう一つ、予備が隠されているのだろう。
それぐらいのことしか考えていなかった。
しかし、そんな瞬一の考えまでも覆す事態が発生する。
「聖なる壁よ。我らの身を守らん……バリア!!」
瞬間。
大和は、携帯なしで、術を発動させた。
「……え?」
瞬一は、驚いたような、そんな声をあげる。
見ると、大和の周りには、先ほど自分達の身を守った結界が張られていた。
それも、携帯なしでだ。
「まさか、大和って……」
「そうだよ。隠す必要もないし言ってしまうけど、僕は科学魔術師ではない。自然魔術師だよ」
「じゃあ、何で携帯を?」
「あれには魔力なんて込められてないし、そもそもあの携帯は偽物だよ。カモフラージュの為に携帯を
使ってただけの話だ」
大和が、分かりやすい説明をする。
しかし、瞬一はその説明を半ば信じられないような顔をして聞いていた。
「……まじかよ」
本当にそうなのか、瞬一は少々疑ったりもした。
だが、目の前で起きたことは確かなことなのだ。
認めざる負えないのであった。
「まぁ今はそんな話はどうでもいい。とにかく、目の前にいる敵を倒そう」
「だな……それじゃ、残りの奴らも一気に潰すぞ!!」
瞬一と大和は、残党達を叩く為に、ほぼ共闘という形で挑んだ。
「「ハァハァ……」」
た、倒した。
こいつらを、俺達二人で何とか倒した。
「……やばい、疲れた」
「だね。さすがに数が……多かった……」
数が多いという意見には俺も賛同出来る。
……それにしても、いくらなんでも、こいつらはあまりにも無表情すぎる。
それに、無詠唱で魔術を発動させすぎだ。
おかしい。
こいつらの使っている魔術は、詠唱をしないと発動出来ない術ばかりだ。
まるで、自分の意思など働いてなどいないかのように。
まるで、誰かに操られている人形のように。
「!!瞬一、敵が……」
その時。
俺達が倒した黒服の内の一人が、ゆらりと立ち上がる。
その顔に、やはり感情はない。
「ちっ……まだやろうってのか」
『安心したまえ。その気はない』
「……え?」
「今の声、こいつから……か?」
誰かの声が聞こえた。
その声は、俺のでもなければ大和のでもない。
目の前の男という可能性が高い……と言うかそれしか考えられないはずなのだが、こいつは口を開いていないのだ。
けど、声がこいつの方からするのは間違いない。
つまり、『こいつの向こうにいる誰か』が俺達に話しかけている?
「お前は……誰だ?」
『早急に話を進めるのはよくないだろう?ゆっくり、落ち着いて話をしようではないか。時間は限られていて、かつ十分にあるのだからな』
「は?」
言ってることがよく分からない。
頭が痛くなってきた。
「では、まず質問を一つ」
『ふむ。よかろう』
大和が口を開き、質問をする。
「この人達は、一体何者ですか?」
『この者達は、人間であって人間ではない者。即ち、感情を持た、私が作り上げたただの人形に過ぎぬ存在だ』
「にん……ぎょう?」
人形の癖に、魔術を使ったとでも言うのか?
『ああ。この者達は少々特別製なんでね。舞台を盛り上げる為に、少々細工が施されているのだよ』
つまり、人形でも魔術が使えるように、こいつが改造した?
でもどうやって……恐らく、この質問に答える気はないだろうから、辞めておこう。
「アンタは何で俺達を襲った?」
今度は俺が質問をする。
『私の台本に乱入した邪魔者である君を排除する為だ』
「俺を、排除?」
『先日、お主は路地裏で黒服を倒しているだろう?』
「……そうだな」
あの日は、黒服達にアイミーが狙われていたからな。
倒す以外に、アイミーを救えないと思ったから、倒した。
『それがいけなかったのだよ。君という乱入者が現れてしまったから、私が計画を練り直さなければならなくなってしまったではないか』
「計画?……あなたの目的はなんです?」
大和は、慎重にそう尋ねる。
男はその質問に、こう答えた。
『アイミーン・グレイブスタンの、殺害だ』