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 ナディアさんはわたしが作り出したラスターハート城を眺めると、満足げにうなずいた。

「これだけのイメージが具現化出来るのなら、素養は十分と言えるでしょう」

「それでは、試験は合格ですか?」

「それとこれとは話が別です」

 期待したのに、肩透かしを食らってしまった。

「時間の問題だと思いますよ。素養十分、なんですから」

 わたしが落ち込んでいると思ったのか、隣にいたフィオナが励ましてくれた。

「ありがとう。焦らないことにするわ。アイレンさんにも言われたし」

「それがいいです。焦りは禁物ですもの」

 フィオナは本当に心配してくれているようだ。この子の素性はまだわからないが、理屈を超えた愛おしさを感じていた。わたしが笑うと、フィオナは恥ずかしそうに、はにかんだ。


 三人で城から外に出た瞬間、わたしは混乱した。わたしはいつの間にか大樹の下に座していたのだ。

「お帰りなさいませ」

 横でブラウンの声がした。指摘される前にそっと口元を確認する。今回は溢れしものは出ていない。

「ブラウン、ずっと側で待っていたの?」

「ええ、わたしは王女の護衛が主任務ですので」

「わたしがいびきでもかかないか、見張っていたんでしょう」

「とんでもない」

 ブラウンは済ました顔で答える。わたしがここにいられるのは、実はブラウンのおかげなのだ。城からの脱出も、フレアランス王家への根回しも、全部ブラウンの図らいだ。

「……ありがとう」

「え、なんです? 王女」

「なんでもないわ」

 ブラウンがニヤニヤしているのがわかったので、わたしは咳払いをしてアイレンさんの家へと向かった。


 家に戻ると、暖炉の前の椅子で、アイレンさんが本を読んでいた。

「ただいま戻りました」

 アイレンさんは振り返ってこちらを一瞥すると、優雅にお辞儀をした。


「はじめまして、王女。わたしはアイレンの姉のエイレンです」


 見た目が瓜二つだったので、勘違いしてしまった。よく見ると、アイレンさんと違って髪の色が赤い。ドレスもワインレッド色の見慣れないものだ。

「失礼しました。お姉様がいらっしゃったのですね」

「王女、わたしは貴方に用があるのです」

 彼女とは初めて会うはずだが、わたしに用とはなんだろうか。少し警戒心を抱いた。

話者(トーカー)の試験を受けられていますね」

「ええ、たった今帰ってきたところですわ」

 わたしが答えると、エイレンさんは本を閉じ、わたしの前に瞬間移動してきた。

「ナディア様にはお会いになりましたか」

 彼女はわたしの顔を見上げて微笑んでいるのだが、どことなくその笑顔が怖い。

「え、ええ。話者(トーカー)の訓練を指導していただいています」

「なるほど。何か、変わったところはありませんでしたか?」

 変わったところと言われても、わたしにとっては、向こう側での訓練自体が特殊な体験だ。

「質問を変えましょう。ナディア様自身が魔法を使われている様子はありましたか?」

「いえ、向こうで魔法を使っているのは、わたしとフィオナだけです」

 そう答えた瞬間、エイレンさんの笑顔が、一瞬だけ消えたような気がした。

「フィオナさんというのは?」

「ナディアさんと一緒にいる話者(トーカー)の方です。わたしの遠い親類らしいですが」

 エイレンさんの笑顔が一層怖く感じられた。彼女は目が笑っていないのだ。

「……そのフィオナさんのことは、王女はご存知ではなかったのですね?」

「ええ、向こうで初めて会いました」

 エイレンさんは何かを考え込んでいるようだ。フィオナの事はわたしも気になっているが、何となく、この人には関わらせたくないと感じていた。

「なるほど。『現し世に有らざる魂』ですか」

「え?」

 わたしが聞き返すと、エイレンさんはにこっと微笑んだ。

「とても有意義なお話が聞けました。王女、話者(トーカー)の試験、頑張ってくださいね」

 それだけ言って、エイレンさんは指を振った。空間が歪んで、彼女の姿は歪の中に消えてしまった。

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