87 憧れの『金獅子』
「……なんだか、狐につままれたような気持ちだよ」
そうレオンハルトはローズに話した。
各国の使者達がアールスコート王国に集まり、会合が始まって3日。
流れは1日目とは大幅に変わった。
何より世界で1番の大国であるリンタール帝国。その帝国のNo.2と言われるバートン公爵が全面的に王国の……、いや、レオンハルトの味方をしてくれたのである。
初日、あれ程他の誰よりも王国側に厳しく対応していたバートン公爵は、2日目の会合からガラリと様子が変わった。
初め各国では多少は200年前の補償的な事を希望するような様子だった。
が、蓋を開けてみれば、その各国の不満の芽は全てバートン公爵によって摘み取られた。勿論、レオンハルトも手を打ってはいたのだが、その打った手の効果が出る前に公爵が動いてくれたのだ。
レオンハルトとしては、勿論有り難いのだが少し肩透かしを食らったような気分だ。
バートン公爵は、レオンハルトを優しく我が子のように兄弟のようにそして……敬愛する師であるかのように、なんとも生温かいようなキラキラしたような視線でレオンハルトを見てくるのだ。
そして3日間に及ぶ各国との会合は無事に終わり、各国とアールスコート王国との国交を結び友好な関係を築いていく方向で話は終了した。この後各国の使者が帰国しそこで協議し了承されれば更にその国と王国とで個別に交渉をして……という事ではあるが。しかし今回来た国々の殆どとの話が良い方向に決まっている事からほぼ国でも了承されるだろう。
そして今日は各国の使者を招き慰労のパーティーを開くことになっている。
そしてその前にレオンハルトはローズと控えの間で話をしているのだ。
「バートン公爵のあの態度……。ローズは何か知っているのかい? というか……、彼は私が彼の一族であった事を知っているのでは……?」
そう真剣な顔で聞いてくるレオンハルトから、ローズは少し目を逸らす。
「……はい。申し訳ございません。油断して、お話ししてしまいました……。バートン公爵はあの時代や人物がとてもお好きだそうで、少しヒントを見つけたらもう止まってくださらなくて……」
そうなのだ。あの日、バートン公爵にローズの前世の話をすることになってしまったあの時。それはもう、嬉々として話の続きを催促され、あの戦争の話からマイラとラインハルトとの出会い、そして恋模様まで話をさせられてしまったのだ……! は、恥ずかしい……!
以前フェリシアにもその話はしたけれど、歴史とその時代の人物大好き歴男? に話す内容としては少々辛かった……。だけど、フワッと済まそうとした恋バナも随分と突っ込まれてしまったわよ!?
助けてくれるかと思ったフェリシアも、結局は興味津々で更に色々と聞いてきたのよね……。
「ああ……! あのレオンハルト殿が我が公爵家の至宝『金獅子ラインハルト』様の生まれ変わりだったとは!! 確かに気品に溢れ、頭のキレる出来た青年だと思っておりました! ええ! 何か普通の者とは違うと、私には分かっておりましたとも!!」
……そうでしたっけ? 熱弁するバートン公爵を少し冷めた目で見る。初日の会合では随分と憎々しげに、レオンハルト様を責め立てていらっしゃいましたよね?
そうは思ったけれど、ローズは黙っておいた。
そのあとバートン公爵のレオンハルト誉め倒しは更に続いたのだった。……フェリシアがキレて怒って止めるまで。
そうして次の日からバートン公爵がレオンハルトを見る目や態度は、それは分かりやすく変わったのだった。
「……やはり、そうだったか……。……いや、我が国が初め考えていたよりも素晴らしい成果をあげられたので、良かったといえば良かったのだが……」
少し悩んでから、レオンハルトは気付いたように聞いてきた。
「……しかし、『生まれ変わり』なんて事をよく信じてもらえたね。幾ら歴史好きとはいっても、公爵は現実的なお方かと思っていたよ」
2人は苦笑しながら話し合う。
「確かに、公爵は現実的なお方だとは思いますよ? そしてご自分の知っている歴史と私の話すあの時代の話にきちんと整合性があり、それでいて知らなかった事実も出てきた事から随分と興味をもたれ、結果信じていただけたのだと思います」
「まあ、史実として残っている歴史など我が王国のように、権力者によって改竄されたりしているものだからね……。
しかし公爵ほどの歴史好きになるとその辺りの事もご存知で、事実との照合がちゃんと取れてご納得いただけたのかもしれないね。……しかし、あんなに尊敬の眼差しで見られると、なんとも面映ゆいね」
そう苦笑しながら言った。
「恐れながら……。レオンハルト様は本当に、あの『金獅子』ラインハルト様でいらっしゃったのですか?」
そこで話に入ってきたのは、少し前まで魔物達のいる辺境の地へ行っていた騎士団長サイラスだ。……彼も今日のパーティーに参加するのだ。この控えの間にはパウロとで4人居る。
「……ああ、そうだ。『金獅子』などと自分で名乗った覚えはないけれどね。前世私は『ラインハルト バートン』であった」
レオンハルトは自分の周りではパウロとサイラスにだけは前世にリンタール帝国で魔女マイラと会った話はしていた。前世の自分である『ラインハルト』が今の時代に人々にそれ程知られているなどとは思いもしなかったが……。
そんな事を考えながら、ふとサイラスを見た。すると……。
「……あぁ! なんということだ! まさか、まさかレオンハルト様が『金獅子』ラインハルト様……! あの大国リンタール帝国で最年少で実力で騎士団長になった伝説のお方!! 私はいつか『金獅子』のようになるのが幼い頃からの夢だったのです……!!」
サイラスはそう言って身悶えながら、それはキラキラした目を向けてきた。
……サイラス、お前もか。
実はその横ではパウロも、「そうですよね! 流石はレオンハルト様です!」と言ってレオンハルトを憧れの目で見ていた。……そう。少し前にパウロにもこの流れをされ、キラキラの瞳で見られて非常に居心地の悪い思いをしたのだ。
もはやレオンハルトは彼らに突っ込む気にもならず、普段いつもクールな年上の剣の兄弟子でもあるサイラスや、幼馴染で今までは自分に対して遠慮のなかったパウロから視線を逸らしたのだった……。
そこで、困った様子のレオンハルトにローズは違う話をしてみる。
「……あの、レオンハルト様。この後のパーティーでは私を本当にエスコートしてくださるのですか? 私は前世でもダンスは得意ではなくて……。横に控えさせていただくだけだとは思うのですけれど、流石に各国の使者の方々の為のパーティーで『聖女』が出ない訳にはいきませんものね……」
ローズとしての人生で初めてのパーティーなのである。……実は前世でも魔法の研究にのめり込んでいたマイラは、パーティーは必ず出なければいけないものしか出席していなかった。……まさか、こんなところでそのツケが回ってくるとは。
そして話がそれて少しホッとした様子のレオンハルトだったが、今日はローズを初めて一般の貴族達の前に連れ出す重要なパーティーなのだ。貴族達の聖女への関心は高い。彼女と知り合いあわよくば自分達のテリトリーに入れたい貴族達はたくさんいるだろう。
今世こそ、彼女を射止める。……他の誰にも渡したくない。
レオンハルトはそんな思いを込めて、ローズに語りかける。
「そうだね。貴女という存在を是非皆に知らしめさせて欲しい。……そしてダンスは、私とだけにしてくれると嬉しい」
それは、ローズに他の誰とも踊らないで自分だけを見て欲しい、というレオンハルトの独占欲でありローズを想っているという意味でもあった。
年頃の娘で特に理由もなく1人とだけダンスを踊る、ということは周りからほぼ決まった相手と見做されるからだ。
サイラスとパウロはその言葉の意味に気付き、ローズの反応を窺う。
「レオンハルト様……。分かりました! 私、貴方に恥をかかせないように頑張りますね!」
ローズは素で言ったのだが、周りの3人はレオンハルトの『自分とだけ踊って欲しい』というアプローチをするっと躱されてしまった事にガクリとくる。
3人は思う。……おそらく、ローズはレオンハルトの言った意味に何も気付いていないのだろう、と。
そうとも知らず、じっとりと自分を見詰める男たちをよそにローズは前世で習ったステップを頭に思い浮かべてイメトレをしているのであった……。
お読みいただき、ありがとうございます。
歴男? バートン公爵が良い方向に暴走してくれました。
しかし、この出来事から娘フェリシアの父を見る目が少し残念な感じになりました……。




