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86 『聖女』と公爵



 アールスコート王国は、ローズにとっては生まれ育った国。

 ……だけど彼女の先祖を苦しめ、何より前世でマイラとしてのローズ自身が辛い目にあわされたのだ。それなのにローズはこの王国の為に魔物達の事が解決する様に動き、人々の為に『守り石』まで作り、そして戦争の回避の為にも動いた。

 もう、そこまですれば生まれ育った恩義は充分過ぎる程返したのではないか? と、フェリシアもそう思っていた。


「バートン公爵閣下。……ありがとうございます。ですが過分なお言葉ですわ。

……私はこの国で生まれ育ちました。周りの方達の支えがあってこうして暮らして来れました。先祖の事はとても辛い出来事でしたが、それは今この国に住む人々が悪い訳ではないですもの」


 ローズは静かにそう答えた。

 しかしバートン公爵は納得出来ないとばかりに反論する。


「それでも、貴女の家は学園に入る少し前まではかなり苦しい暮らしをしていたと聞いております。本来ならばカルトゥール家は公爵家。貴女達や先代の方々がご苦労される必要などなにもなかったのにですぞ?」


 それは本当にそうなのだ。あの時『封印』が解けていなければ、ダルトン子爵家はもっと没落し、ローズもリアムも学園にも通えていなかったに違いない。

 ……それでも。その時支え続けてくれたこの街の人々。彼らがいたから自分達はなんとか生きてこれて、貧しい中でも喜びや希望の光を見出すことが出来た。


 それは『封印』が解け力を取り戻した今の自分達にとっても、芯の部分で糧となっているのだ。


「……そうですね。でも私は苦労した事が全て無駄だったとも思いません。あの苦しい時があったからこそ、我が家の家族は協力し合って生きてきて絆も深いのです。多少の苦労も苦労などと思わなくなっておりますわ。

……そして私はこれからもポーションを作ったり魔法の研究をしたり……、そんな毎日で良いのです。そして、このアールスコート王国はそれを約束してくださっていますわ」


 ローズは穏やかな表情でそう言った。


「そのくらい、我らリンタール帝国は貴女様にもっと魔法の研究が出来る環境や自由を差し上げましょうぞ。……それに、これからのこの国の主導者はまだはっきりと決まっていないようですしな。

レオンハルト殿はしっかりとした方ではあるが、彼自身が次の国王は自分ではないと明言しておられた。次代になれば、先に貴女としていた約束が反故にされる可能性もありますぞ」


「この王国が約束を破るような事になれば、その時こそ私達はここを出ていくだけですわ。……でも、そうなるとエルフ族の方々との約束も反故にする事になり、たちまちこの国は成り立たなくなってしまいます。おそらくそんな事はされないと思います」


 きっぱりと言い切るローズに、バートン公爵……とフェリシアはがっかりした。


「……でもローズ。たまには私の家に、リンタール帝国のバートン公爵家に遊びには来てちょうだいね。待っているから」


 それを聞いたバートン公爵は大きく頷いている。


「ええ、勿論よ! ありがとう、フェリシア。楽しみにしているわね」


 2人が仲良く約束していると、


「それなら、今度の長期休暇にでも遊びに来ていただいてはどうかな? 我が家に泊まって自慢の庭園などご覧になっては。帝国内も見どころはいっぱいですぞ?」


 バートン公爵も負けじと誘いを掛けてきた。


 ローズはリンタール帝国の見どころと聞いて、ハッと大好きな場所を思い出す。


「! わあ、楽しみです! それなら私は『帝国図書館』に行きたいです! 昔も『超・魔導書』シリーズを読んでいたのですけど、あの時は帝国図書館には2巻迄しか置いていなかったんですよね……。でも今レオンハルト殿下の所で3巻を置いてあったんです! もしかしたら、今の帝国図書館には4巻以降もあったりするかもしれませんよね!?」


 ローズは魔法関係の事になると周りが見えなくなる傾向がある。今も『帝国図書館』の話に夢中で、ついマイラの時の話も混ぜて話してしまっていた。


「ローズ……!」


 フェリシアは慌ててローズを止めようとしたが……。


「……ふふ。そしてレオンハルト様はやっぱりラインハルト様なんですよねぇ。記憶がなくてもあの『超・魔導書』シリーズを読んでいらっしゃるのですもの! 私も200年前は2巻が最新刊だったものがいきなり3巻を読めてとても嬉しかったのですけど、やっぱり帝国図書館は最新のものが揃えてありますものね! ああ、またあの魔導書ばかり集めたコーナーでゆっくり本を読めるかもしれないなんて、夢のようです……! ……あ」


 1人でそこまで盛り上がって話して、そこで唖然とした顔をした2人を見てやっと自分の失言に気付く。

 

 冷や汗をかきつつとりあえず、うふふ、と笑いかけてみる。


「……えーと。その位に『帝国図書館』は凄いという、そんな話を聞いた事がありますわ。……ええ。……人の話ですけれどね」


 無理矢理紡いだ言葉は、なんだか虚しく響いた、気がした……。


 横でフェリシアは頭を抱える。


 そしてバートン公爵は驚きで目を見開き、暫くそのローズの話の情報を頭で処理し、そして……。


「……それは、貴女は我が帝国が誇る『帝国図書館』に来たことがあると、そういうことですな? そして、それは随分と昔……200年前の事である、と。

それはつまり……」


「お父様! ローズは本が大好きなので、私が『帝国図書館』の事を教えて差し上げたのですわ! それに『超・魔導書』シリーズは我が国が誇る大魔法使いメルケル様が3巻4巻を編纂された素晴らしい魔法研究の書物ですもの。だからローズはとても興味を持って……」


 フェリシアは必死で誤魔化そうとした。……が。


「少し黙っていなさい、フェリシア。

ローズ様。……まさか貴女様は200年前の……『マイラ カルトゥール』様なのですか!? ……そして先程レオンハルト様はラインハルト様、と……。ラインハルトとは我がバートン公爵家の『金獅子』と呼ばれたラインハルト バートンの事、なのでございますか!?」


 バートン公爵は自分で言いながらも信じられない! という様子で尋ねて来た。

 ローズは最初は誤魔化そうとしたが、何よりある程度自分で暴露してしまっている事、そしてあのマイラが生きた時代やその時代の人々が大好きでかなり詳しいバートン公爵を、この状況でとてもではないが誤魔化せる気がしなかった。

 ローズは観念して話し出した。


「フェリシアのお父様であり、リンタール帝国バートン公爵と見込んで……、お話しいたします。ですがこの事は他の方には誰にも、たとえ皇帝陛下にも他言無用でお願いいたします。……信頼、しておりますよ?」


 ローズはそう言いながらもちょっと恨めしそうにバートン公爵を見た。公爵は「勿論でございます!」と勢いよく返事をしたが、これからされる話に明らかにワクワクしている様子だった。


 ため息を吐いたローズは、自分の夢中になったら周りが見えなくなってしまう所は本当に治さなければいけない、と強く決意した。



 そうして、何故かバートン公爵にも魔女マイラの生まれ変わりの話をする事になったのである。





お読みいただきありがとうございます。


前世の『帝国図書館』を思い出し、思わず暴走してしまったローズでした……。

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