84 各国の使者
王家が謝罪をしてから1ヶ月経った。
……あれからアールスコート王国の国王は退位し王妃と共に王都から離れた離宮へと移った。……ほぼ幽閉に近い。勿論エルフ族によって国王の『魅了』の能力は無くなった。国王は最初は錯乱状態になったそうだ。しかし、国政から離れ田舎の離宮で自然と触れ合い過ごす内に少しずつ落ち着きを取り戻しているらしい。
そして次の国王が正式に決まるまで、繋ぎの国王代行としてレオンハルトが国務を担当している。
エルフ族との話合いはほぼ決着し、200年前に魔物がたくさん住み着いていた山岳地帯周辺を魔物の地として明け渡す事になった。
周辺地域に反対する人々の動きもあったものの、話が折り合わず魔物が入って来たならば結局はその地だけでなく街周辺、そして国全体にも住み着く恐れもある。そしてその地に住む者は200年前に魔物が居なくなり落ち着いてから住みだした比較的新しい家の者達で、元々は動物の被害にも悩まされており、代替の地や補償金を渡す事で解決する事が出来た。
街への『魔物避けの守り石』は完備され、旅人や商人用の『簡易の魔物避け』も配布が始まっている。
そんな訳でその多種多様な『守り石』作りにローズは大忙しで、王国とエルフ族との会議などには報告を聞くだけでほぼ参加はしていなかったのだが……。
「ローズ。いつも『守り石』をありがとう。とても感謝している。……しかし貴女はあれだけの数の『守り石』や『ポーション』を作って、更に最近また学園にも通い出したと聞いたのだが……。身体は大丈夫なのかい?」
王宮の控えの間にて、レオンハルトは心配そうにローズに尋ねた。
「ええ。大丈夫ですわ。もう各地の『守り石』は全部作り終わりましたし、商人や旅人用の『お守り』もほぼ作り終えましたから。あとは予備位ですし、『ポーション』作りはライフワークです。学園には友人達も戻り出しましたし楽しく過ごさせていただいてますわ」
そう軽やかに答えるローズに、レオンハルトは苦笑する。
……確かこの感じ、ラインハルトであった時にも無尽蔵の魔力を使いこなすマイラに対して感じていたなと。
「貴女が平気なら良いのだ。
……そして今日は王宮の会合にまで足を運んでもらってすまないね。周辺国の使者の方々が参加されるので、是非とも『聖女』の姿が見たいと声が上がっているのだ」
今日は王宮の大会議の間で周辺国も交えての会合となる。2人はその打合わせをしていた。2人は応接セットに腰掛けレオンハルトの後ろにはパウロが立ち、ローズの足元には白い可愛い子犬が寄り添っている。今日のローズはプラチナブロンドと金の瞳の『カルトゥールの聖女』スタイルだ。
アールスコート王国では先日襲来した強き魔物達の行く末も決まり、王家のゴタゴタはありつつも内政的な事なので基本は周辺国には関係がない。
……では彼らは何の為にやってきたのか?
……本当なら彼ら周辺国はあの魔物襲来の際に『魔物退治』と称してこの王国に攻め入り、200年前の復讐とあの当時なかった戦後補償のような事をさせるつもりだったはずだ。
しかしエルフ族のお陰で魔物達は落ち着き、彼らは攻め入る機会を失った。
だが200年前の戦争時からの懸念材料だった『魅了』の対抗策が出来、とりあえずこの王国に入れるようにはなっている。
……しかし占領した訳でもない状況では、他国にはあの戦争の事は文句を言うくらいしか出来ない。しかもエルフ族と交渉中の今の王国に対して200年も前の補償をしろとまでは流石に言えないだろう。
さしずめ今回の彼らの訪問は、公式には『魔物襲来後のお見舞い』とか『貿易』や『国交を開く』という名目での我が国の偵察、プラス嫌味というところか。
「今回、諸外国は貴女という『聖女』を見たいが為、そして我が王国を見定める為に来るのだろう。国の為に忙しくしている貴女に更に面倒をおかけするが……」
レオンハルトはローズに負担をかけ過ぎている事を申し訳なく思ったのだが、ローズはふわりと微笑んでから言った。
「私は面倒だなんて思っていません。
……レオンハルト様こそ、最近ちゃんとお休みになっていらっしゃいますか? きちんと睡眠や休息もお取りにならないと。ポーションで回復させれば良いというものではないんですからね?」
最後は叱られてしまった。……しかし、全く悪い気がしない。それはローズが本当にレオンハルトを心配してくれていると分かるからだ。そして彼女は毎日ポーションを届けてくれる。
……どんなに毎日が忙しく大変でも、彼女が支えてくれるから全く辛くは感じなかった。
そして2人で会議の間に入る。ローズが目配せをし、躾の良い子犬はローズの横に上手く付いて来た。
部屋には既に各国の使者が待っていた。
「……アールスコート王国、王太子レオンハルト アールスコートである。今は国王代行をさせていただいている。……そしてこちらが、我が国の誇る聖女である」
宰相の言葉の後にレオンハルトは簡単に挨拶と聖女の紹介をする。……勿論、使者達の表情はつぶさに観察している。
紹介されたローズも美しい礼をしながら、彼らの様子を見ていた。
そして各国の使者達との会談が始まったのだが……。
やはり和やかな会談、とはならず、各国からの嫌味の応酬を受けることとなる。……この辺りはレオンハルトも想定内で失礼にならない程度に受け流す。
……各国の使者としてはあの戦争から今まで色んな事があって、急に和やかに仲を深めましょうという訳にもいかないものね……。王国の出方を見ている、ということなのかしら?
そして上手くレオンハルト様に躱されてしまったという事は、次はこちらに矛先が来るのかしらね?
ローズがそう考えていると、使者達も埒があかないと思ったのか、やはり今度は『聖女』に対しての質問が飛び出した。
「……して、そちらの『聖女』様とやらはどれ程の事がお出来になるのか?」
「エルフ族と何やら繋がりがあるとお聞きしましたが」
「以前の大きな魔法の波動は、やはり『聖女』様が起こされたのか?」
次々に容赦なく質問がされ始めるた。ローズが答えようとすると……。
「……『聖女』様の偉大さを分からぬ者達に幾ら語ったところで理解など出来ぬであろうに。これ程の力を持つ『聖女』様ともなればエルフ族の方々も惹かれても不思議ではない!
しかし先程から聞いておれば、『聖女』様に対してなんたる不敬な物言いか!!」
何故か『聖女』に対する各国の不躾な悪意ある質問に、使者の1人であるリンタール帝国のバートン公爵が答えたのだ。
……何故リンタール帝国の公爵が、アールスコート王国の『聖女』の味方を?
ローズとレオンハルトは目を見合わせる。
確かに王国の『聖女』といえど、名目上は『セレス聖国』から派遣されている。バートン公爵は『聖女至上主義』なのだろうか?
確か公爵の夫人は聖国の現教皇の妹であるとは聞いているが……。
先程まで公爵は王国に対することではむしろ先頭を切って攻めたてる程であったのに、『聖女』に関することにはその後も完全にローズの味方をしてくれたのである。
周辺国の使者達も、世界でも力のあるリンタール帝国の使者であるバートン公爵が『聖女』の味方をし、しかも完全に言い負かされて何も言えなくなってしまったようだった。
初回の各国との会合で、皆それぞれに言いたいことを言い合っただけのようではあったが、それぞれの大まかな思惑のようなものは感じ取れた。
そして各国の使者達はリンタール帝国の公爵の様子から、帝国は『聖女』を尊ぶ傾向にありもし疎かになどすれば帝国は勿論、聖国やもしかするとエルフ族からの不興を買うことになる。
『聖女』は慎重かつ丁重に敬わなければならない重要な存在であるのだとそう噂し合い、各国の上層部に伝えたのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
レオンハルト「おや、その子は……」
ローズ「ふふ。可愛いでしょう? 最近我が家にやって来た子犬のフェルちゃんです! 今日はついて来たいってきかなくて」
フェル「キュ……」上目遣い
レオンハルト「いや、でもそれは犬ではなく……」
ローズ「……可愛いでしょう?」
レオンハルト「…………ああ」
てな感じで強引にやって来ました。




