83.5 バートン公爵2
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アールスコート王国に留学した娘フェリシアから手紙が届いた。
……こんなに、魔法鳩が待ち遠しかったのは初めてだ。
そこには、入学式で早速『聖女』を見つけたと書いてあった。同じクラスになったその少女は、今年の編入生で子爵令嬢。魔力も何も見せてはいないが彼女に間違いない。そして彼女と友人になった、と。
流石は我が娘!!
それからも娘と何度も手紙のやり取りをした。今まではずっと仕事で忙しく、離れている今の方が娘と深く繋がっているような気がした。
フェリシアがアールスコート王国に留学して、一月と少し経った頃だろうか。
『聖女』と思われるローズ ダルトン嬢ともう1人の少年ミゲル パストゥールと親友となった娘は、少し私に隠し事も出来たようだった。
……私としては『聖女』の事も気になるが、そのミゲルとかいう少年も気にかかるのだが……。妻にそう話したら、友達でしょと笑われてしまった。
アールスコート王国は特殊な国で、200年前から強い魔物は住んでいない。
それは何故かはさておいて、最近その王国の『魔物避け』の効力が弱まっているのではないか、という報告は受けていた。ごくたまに、強き魔物が迷い込む事があるようだと。
その日の午後、私は皇帝にフェリシアの知らせからアールスコート王国の報告をしていた。……その時。
ゾワリ……。鳥肌が、たった。
私は驚き前に座す皇帝陛下を見ると、おそらく陛下も同じように何かを感じられたらしい。私達は頷き合うと、緊急に大臣達を招集し会議を行った。
各地から集まった知らせによると、どうも魔物達の動きがおかしい。数日前から各地の魔物達の数が減り、とある場所に向かっているようだった。そしてそのある場所とは……。
「アールスコート王国、だな。……バートン公爵。緊急にフェリシア嬢を帝国に呼び戻すように」
皇帝陛下は私にそう言った後、周りに向かってニヤリと笑って宣言した。
「魔物達が集い何事か起こりそうなこの時、我らは動かねばならぬ! そして今我が帝国は、教会より開発された『魅了避け』をいただいている!
この機会を逃してはならぬ! ……兵の準備を整え、周辺国の動向も調べよ!
『王国に入り込んだ魔物達の群れを退治する為』、我がリンタール帝国は救援の兵をアールスコート王国に差し向ける事とする!!」
「「「御意!!」」」
謁見の間に集う大臣達が声を揃えた。
……いよいよ、か……!!
『魔物退治』という大義名分の元、『魅了避け』も手に入りやっとあの憎っくきアールスコート王国に一矢報いる時がやって来たのだ……!
そして私は陛下の許可を得て、急ぎ娘のいる王国に魔法鳩を飛ばしたのである。
……しかし夜分遅くなるまで娘は帰って来なかった。
魔法騎士達と遅くとも夕食時には転移して来るかと思い城で待っていたが、実際に帰ったのは日付も変わる頃だった。そして娘は開口一番にこう言った。
「アールスコート王国を攻撃してはなりませんわ。王国にはエルフ族がお味方してくださる事になったのです。今は魔物達も王国の入り口の辺境の地で留まり、今後エルフ族の方々が王国に協力し魔物達との対話もしていく事になるようです。……今は静観するべきですわ」
「エルフ族!? ……何故、今や幻となったエルフ族が……?」
「詳しくは言えませんが、『聖女』の願いに応えてくれた、とでもいいましょうか……」
そして娘と私は皇帝陛下に謁見し、フェリシアは事のあらましを話した。
「……陛下。今アールスコート王国と対立すれば、それは即ちエルフ族との対立となってしまいます。
エルフ族の長は『聖女』様に、『王国が条件をのめば魔物達を抑える』とお約束されました。今我が帝国が兵を差し向ければエルフ族の方々のご不興を買うことになりましょう」
そう語るフェリシアに、皇帝陛下は厳しいお顔をされた。
「まさかエルフ族が出てくるとは……! くっ……! それでは、我らは動く事は出来ぬ……!
何故だ……。何故、『聖女』はエルフ族まで動かすことが出来たのか!? フェリシア嬢、貴女は何か知っているのか?」
悔しげにそう尋ねて来た陛下に、フェリシアは物おじもせずスッと姿勢を正したまま答えた。……怒れる皇帝陛下の迫力にも屈せず、我が娘はこんなにも強かったのか? それともこの短期間で娘は成長したのだろうか。
「それは、『聖女』様は『カルトゥール』の直系のお方であるからです。
約200年前の戦後から姿を消したとされるエルフ族は、戦時中は『稀代の魔女マイラ カルトゥール』と共にあったと聞きます。彼女の一族の末裔である『聖女』様の願いを聞き届けられたのではないかと思われます」
フェリシアの言葉に謁見の間にいた全ての者は驚く。
「『カルトゥール』だと……!? 彼らは今も存在していたのか! 戦後我が帝国に一族が亡命して来たが、彼らは直系ではなかったのだったな。……では、本当の直系はアールスコート王国にいたということなのか。
……我が帝国は魔女マイラに多大なる恩義がある。その名を出されれば、我らは引く事しか出来ぬな……」
そうして我が帝国は兵を出す事を諦め、対話の道を選ぶ事となった。そして周辺国も我が帝国に倣ったのだった。
その後、アールスコート王国では王太子が国をまとめ上げ、見事エルフ族を味方につけた。……悔しいが、敵ながら天晴と言うしかない。
王太子は国民に説明と謝罪をし、その時『聖女』様は神からの光に照らされ大変神々しいお姿であったともっぱらの評判だ。人々は『神に認められし聖女』だと大変熱狂したらしい。更に『聖女』様は人々に癒しの魔法をかけて……。
……ああっ! 私もその場に居たかった!!
私は200年前に生まれたかったと思う程、あの時代の歴史が好きなのだ! 我がバートン公爵家の『金獅子ラインハルト』様、大魔法使いメルケル、そして『稀代の魔女マイラ』……。ご本人にお会いしたいと何度思ったことか!
その一族という事は、『聖女』様には『魔女マイラ』の面影があるに違いない! 是非、お会いしたい!!
「……陛下。此度のアールスコート王国での交渉の使者には、是非このジョゼフ バートンをご指名くださいませ」
そう皇帝陛下に直訴した。
「ッ!? アールスコート王国だぞ? 幾らエルフ族の力により『魅了』が無くなったと言われているとはいえ、公爵程の者をあの国への使者として行かせる訳には……」
「……お願いいたします」
私は不敬ながらお言葉に被せる程に陛下に熱くお願いした。
何度かそのやり取りをした後やっと陛下が諦めて折れてくださり、私はアールスコート王国行きの権利を手に入れたのだった。
ちょうど先に留学先の王国へ戻るフェリシアにその事を話すと……。
「え。本当にお父様がいらっしゃるのですか? 『聖女』に会いに!? ……それはローズは嫌がりそうですけど……」
そう渋る娘に、私はどれだけ『聖女』様にお会いしたいか『カルトゥール』愛を切々と語ってみせた。……私はこの話題になると止まらない。妻も私がこの話をし出すとどこかに逃げてしまう位だ。
尚も語ろうとする私にフェリシアは呆れたように言った。
「わかりました! もう分かりましたから! ローズには伝えておきますけれど、そんな風にしつこくしたら嫌われますわよ!?」
……それはいけない! それではフェリシアの父として落ち着いた公爵風にしてお会いしなければ! ……嗚呼、気持ちがはやる!
そうして私ジョゼフ バートンは、晴れて『聖女』であるローズ様にお会い出来る運びとなったのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
バートン公爵は、家族を愛し更に歴史大好きな歴男?です。
そして歴史に埋もれていた『カルトゥール家』の直系が存在すると分かって、その『聖女』に会いたくて仕方ないようです。




