83 神に認められし『聖女』
『――そして、彼女こそが我が国の『聖女』。……彼女は、200年前罪を着せられたマイラ嬢と共に取り潰しとなった一族、『カルトゥール』家の末裔でもある』
レオンハルトはローズを優しく見つめながら国民に紹介した。
ローズは静かに少し前に進み出て、お辞儀をする。……前世での公爵令嬢仕込みの、完璧なカーテシー。
人々はその洗練された優美な姿に目を奪われた。
――その時、曇っていた空から一筋の光が差し込んだ。
……その光はプラチナブロンドの髪の美しい少女を神々しく照らし出した。……彼女こそが神に認められた『聖女』であるということを示すかのように。
そしてその神聖な光の光景に、人々は見惚れた。
「……神に認められし『聖女』様……」
……誰かがポツリと言った。
「『聖女』様……!」
「そうだ、あのお方こそ、神より我が国に授けられし『聖女』様なのだ!」
「『聖女』様!! 我が国の輝ける星だ!」
「ありがとうございます! 『聖女』様!!」
「かつて我が国が貴女様の一族にした事をお許しください!」
今度はどこからともなく声が上がり出し、それは大きなうねりとなった。
ローズが何を言うより先に、人々はローズを『聖女』と認め歓迎したのである。
……ローズはどうしたものかと少し迷い、レオンハルトを見ると彼と目が合った。
レオンハルトが微笑み頷いたのでローズも頷き微笑んだ。
ローズは少し前に進み出て、人々に向かって語りかけた。
『――皆様。私は『聖女』として、この国を守りましょう。
新たなるアールスコート王国に、幸あらんことを!』
ローズはそう言って軽く手を上げ、小さく『祝福』と唱える。
すると優しい霧雨のような光が人々に降り注ぐ。
「……! コレは……!」
「これは、『聖女』様の癒しの光だ……!」
「なんと温かい……! やはりあの方は本物の『聖女』様だ!」
その温かい光を浴びた人々は、とても心安らかな気持ちになり心体共に満ち力が湧いた。驚きと喜びに溢れた人々は更に歓声をあげたのだった。
――いつの間にか、空は晴れていた。
――この日のことは、人々の語り草となり心に刻まれる記念すべき日となり、いつしか伝説となるのだった。
――この日、カルトゥール家の『聖女』は人々に認められ大いに歓迎された。
そしてエルフ族の条件も満たし、アールスコート王国は国民達からの理解も得られ新たな出発をする事になったのだった。
「……ローズ!」
「フェリシア!」
――王立学園に留学生達が帰って来た。
今日はリンタール帝国に帰っていたフェリシアがあの魔物騒ぎの後の初登校だった。……校門で2人は手を取り合い再会を喜び合った。
そしてローズはとりあえず周囲に『隠蔽』をかける。
「色々忙しくて、私も今日があれから初めての登校なの」
「……ええ、そうでしょうね。教会に来てもあっという間に出掛けて行くって大司教様も心配されていたわ」
フェリシアの指摘にローズは苦笑いをした。
「教会にはいつものポーションを作りにね。今は教会でポーション作りに集中してる時が1番落ち着いているのかも。家や国がとにかく大変で……」
「国の会議といえば、もうすぐ私の父もこちらの会議に帝国代表として参加するそうなの。ローズに是非会いたいと言っていたから出来れば時間を取ってもらいたいのだけれど……」
フェリシアの家は、リンタール帝国の筆頭公爵家である。そして父はバートン公爵。母はセレス聖国の教皇の妹。バートン公爵は帝国で皇帝の次に力のある人物でもある。
「とても光栄な事だけれど、もう『魅了』の脅威はないとはいえ帝国は随分と大物を出してこられたのね。私としては仲良くさせていただいているフェリシアのお父様にご挨拶出来るのは嬉しいことだけれど」
ローズは少し驚いていた。
「ローズから聞いたこの国の状況を、話して良い所までは伝えてあるから。
とりあえず『魅了避け』のお守りは付けてくるけれど、あまり心配はしてないようよ? ローズに会える事を楽しみにしているわ。……我が国では『マイラ カルトゥール』はとても人気があるし、父は『聖女』である貴女の大ファンよ」
フェリシアの爆弾発言にローズは更に驚く。……公爵が、自分の大ファン?
「それは……。会ってガッカリなさらないといいけれど」
そう言って少し難しい顔をするローズを見て、フェリシアはふふと笑った。
「それは心配要らないわ。……それよりローズ、貴女学園では『ダルトン子爵令嬢』でいるつもりなの?」
ローズの今の姿は以前と同じ栗色の髪に琥珀色の瞳。
王国は『伝説の悪女』と言われた『マイラ カルトゥール』の名誉の回復をし、『カルトゥール公爵』を復興させると聞いていたのだが。
「……ええ。私は静かに学生生活を送りたいしね。とりあえずは今のままでいるつもりなの。……でも弟が『公爵』家嫡男として教育を受けていくにあたって難しくなれば諦めるわ」
ローズは悪戯っぽく言ったけれども、短期間の悪足掻きだとはお互いに分かっている。
「……まあ少しの間なら私も協力するわ。でもローズ、以前国民への説明の時に顔出ししてるんでしょう? 国の会議にも出ているのだしすぐにバレそうよね」
「どちらも髪や瞳の色が違うから、結構印象は違うと思うのよね。まあバレれば諦めるけれどそれまでだけ……ね」
ローズとフェリシアは苦笑し合って教室に向かった。
「……まあ意外に皆気付いてないんだよね。僕は2人が教室に入って行くまでを観察してたけど、周りの生徒達は全く『聖女』に気付いていなかったよ。パッと見の印象って凄いんだね!」
そう言って教室に入ろうとする2人のすぐ後ろから話しかけてきたのはミゲル。彼もエルフ族の代表として長であるクリストバルの側近の一人として忙しい時を過ごしていたはずだった。
「ミゲル! どうしてここに? もう王国を探る必要はないからここではもう会えないのかと思っていたわ……」
ローズは驚いてミゲルを見た。ミゲルは悪戯が成功したかのようにニコリと笑った。
「せっかくの大切な友人と過ごせるこの時間を逃すはずはないじゃない? 僕もこの学生生活を楽しんでいるんだよ」
そう楽しそうに言うミゲルを見て、ローズとフェリシアも嬉しくなった。
「良かったわ。私もそうよ? ローズ。私も貴女達と一緒に居たくて戻ってきたのですからね?」
フェリシアも2人を見てニコリと笑う。
「……当然、私もそうよ! あなた達と少しでも長く一緒にこの学生生活を過ごしたいから……!」
ローズもまた彼らと一緒に居られる喜びとみんなも同じくそう思ってくれている事が嬉しくて、彼らと笑い合った。
教室に3人で入って行くと、このクラスの生徒達が集まりこちらを向いていた。そしてローズ達が何事かと彼らを見ると、皆は揃って礼をした。
……あれ? まだ気付かれていない……はずよね?
3人は少し警戒しながらクラスの生徒達を見た。
すると、生徒達を代表してエイマーズ公爵令嬢が前に進み出た。
「まずは、皆様に御礼を申し上げさせてくださいませ。……この度は、誠にありがとうございました」
そして彼女が礼をするとそれに合わせて後ろの生徒達も礼をした。
ローズは内心驚いたが、とりあえず彼らの言葉を待つ。
「今回のことで御三方がこの国の為にどれだけ御尽力いただいたのか、私達は知っているつもりです。どれだけ御礼を申し上げても足りない位でございます」
彼らの家の殆どは高位の貴族や役人。
ミゲルはエルフ族として王国を危機から救い、フェリシアはリンタール帝国との架け橋となり率先して王国との和平を選んだ為他国もそれに倣い戦争の回避が出来た。そして、『聖女』としてその全てに関わり今も王国を守り続けるローズ。
この3人の活躍をこのクラスの生徒達は知っていた。
「私達は皆様と同じクラスで学べる事をとても光栄に思っております。
……そしてローズ様のそのお姿から、今までと同じように学園で過ごしたいとのご希望とお察しいたしますがいかがでしょうか?」
「ええ。私はこの学園でもっと沢山の事を学び、そして人々と成長していきたいと思っています」
エイマーズ公爵令嬢の質問にローズはすかさず『是』と答えた。
隣のフェリシアとミゲルも頷き、それを見たエイマーズ公爵令嬢も嬉しそうに微笑んだ。
「……では私どもはあなた方がこれからこの学園で今までのように過ごせるように及ばずながら協力いたします。
そして私達もあなた方と良き友人、良きライバルとして共に学園生活を送りたいと、そう心から願っておりますわ」
エイマーズ公爵令嬢の言葉に、3人はとても嬉しくなった。
そしてこれから卒業まで彼らとは良き仲間として過ごすことになるのだった。
その間、リアムと父ダルトン子爵は周囲の支援を受けて将来公爵となるべく教育を受け、ローズが学園を卒業しリアムが高等部に進学する段階で、『カルトゥール』を名乗る事になるのである。
お読みいただき、ありがとうございます。
ローズが王宮のベランダに立った時、お天気は操作していません。この世界のどこかにいるという妖精族の、頑張るローズへのプレゼントだったのかもしれません。




