81 国民への発表
アールスコート王国で国民に向けて重大な発表があるとの公示があった。
――魔物達が辺境の地に現れてから1週間。
その事をほぼ知らない王都に住む国民達や近隣に住む民達の大半が王宮前に集まり、この一帯を埋め尽くしていた。
いよいよ何やら重大な発表が始まるようだ、何事なのかと国民達はシンと鎮まりその時を待つ。
大臣から紹介があり、いよいよ国王が王宮のベランダの国民達に良く見える位置に立つ。……人々が息を呑んだ。
『アールスコート王国国王、エンゲルベルト アールスコートである。
……我が国はこの200年の長きに渡り、『神より与えられし勇者の守り石』によりこの地から強き魔物を排除してきた。
――しかし、これからは我が国は魔物達と共存する国となることを皆に報告する』
――ザワッ!!
人々は戸惑い、動揺する。
『……皆も知っておる通り、我が国の『神より授けられし勇者の守り石』はその神の御力でこの約200年、強き魔物を排除する事が出来たとされてきた。
しかし……。この『守り石』は実は神より与えられたものではなかったのだ。これは我が国に当時いた優秀な魔法使いにより、古の偉大な竜の魔石より作られたモノであった。
――約200年前戦争に負けた我が国は、その責を逃れる為に『我が国の王子が神より天啓を受け国を害する魔女を倒し国を守る守り石を与えられた』。――当時の王国はそう発表したのだ』
人々は驚きながらも真剣な顔で王の話に聞き入った。……一言も、聞き漏らさぬように。
『我が国は敗戦の責任からも逃れ、諸外国の信用と繋がりを失った。
……それでも、初めはこの国の実りは豊かであった。しかしこの地に生きてきた強き魔物達を土地から一切追い出してしまうという神の意志に反した行いのせいか、作物の獲れは悪くなり魔物でない動物達が大幅に増え生態系が崩れた事で深刻な被害が出てきた。……我が国は歪んでしまっていたのだ。
――そんな時、とうとう頼みの綱の『守り石』の効力も切れ、先日我が国の辺境の地に大量の強き魔物達が雪崩れ込んで来たのだ』
――会場が大きくどよめいた。
……おそらく、魔力のそれなりに強い人々や辺境の地との交流がある人々は先日の魔物の襲来の事を何かしら感じてはいたのだろう。
そうして、騒めきは次第に大きくなっていった。国王の次の言葉を聞こうとする者達もいたが、今まで無縁だった『強き魔物が国に入り込む』という事態に、人々は一種のパニック状態に陥ったのだ。
「魔物がここまでやって来たら、我々はいったいどうしたら良いのだ!」
「騎士団は!? 騎士団で魔物を退治出来ないのか!」
「そうだ! 数日前に騎士団が出ていたではないか! どうなったのだ!」
「まさか……!」
次第に大きくなるばかりの騒ぎに、国王は次の言葉を出そうにもとてもではないが人々に届きそうにない。衛兵達も鎮まるように騒ぎを抑えようとするがとてもではないが収集がつかなかった。
そんな時、ベランダに1人の青年が進み出てきた。この国の最高位の騎士服を着た金髪の美麗な青年。そして、その後に白系の清楚なドレスを着た1人の少女が続いて出て来た。
人々はその優美な姿に息を呑む。青年はおそらくこの国の王太子レオンハルト殿下だろう。――では、あのプラチナブロンドの美しい少女は何者か?
2人を見た人々は一瞬どよめいたが、彼らに見惚れ次第に鎮まっていった。
その人々が鎮まった頃合いを見て、青年が前に進み出た。
『私はこの王国の王太子、レオンハルト アールスコートである。父王に代わり、皆に此度の事情を説明する。
……まずは皆が今心配している騎士団は一部を除き、この王都に帰還する為に向かっている。その残りの一部も辺境の地を調査する為に残っているだけで皆無事である!」
人々は騒つきつつ少しホッとした様子になった。そして王子がジッと人々を見ていると、次第に鎮まりその次の言葉を待った。
『……強き魔物達が我が国に入って来た時、助けを申し出てくれたのは最近我が国に現れた『聖女』様であった。
……かの方はその聖なる御力で伝説とも思われていた『エルフ族』の方々にご協力を願い、それは叶えられたのだ。魔物達の友人でもあるエルフの方々は此度の辺境の地に現れた強き魔物達を鎮め、魔物達が昔この王国に住んでいた地に再び住む事を条件に人々や街を襲う事をやめるようにしてくださったのだ。
――その為に、我が国は再び強き魔物達達が住む地となる』
ザワッ……
この国に住む人々は、ほぼ生まれた時から魔物を見た事がない。この国では角ウサギが1番強い魔物だった。角ウサギは幼児でもない限り子供でも襲われる事はない。……それだけに、他国に住むという魔物については見た事がないだけに余計に恐ろしい恐怖の対象となっていた。
それ故に大商人でもない限りこの国から出る者など殆どおらず、更に人々は未知の存在である魔物に対して非常に恐怖心が増幅されていたのだ。
――それが。この国にその恐怖の対象である、強き魔物達が入ってくる――?
人々の顔が恐怖に歪んだ。
「そんな……! では私達はいつどこで凶悪な魔物達に襲われるか分からないではないか!」
「何故だ! もう一度、『守り石』を作れば良いじゃないか! 優秀な魔法使いに出来るのなら、また作らせればいい!」
「もうこの国はおしまいだ!」
人々が騒ぎかけた時、レオンハルトは皆に向かって言った。
『皆、鎮まるのだ!! ……魔物避けとして王都や各街ごとに聖女様が『守り石』を置いてくださる! 街に魔物が入る事はない! そして都市から都市への移動にも『魔物避け』のお守りを貸し与える。魔物達が住むところへわざわざ行かぬ限りは襲われる事はまず無い!』
「聖女様が……」「しかし魔物が我が国に入ってくることは避けられないのか……」
人々が騒めき続ける。
『……そして、魔物の襲来を知った我が国に対して良い感情を持っていなかった周りの国々。彼らはエルフ族が我が国に手を貸してくださる事によりそれに倣い、我が国と話し合う道を選んでくれた。これからは周辺国との交流も始まっていくだろう。
――それから、先程話した200年前から我が国を守っていた『守り石』。アレを、もう一度作る事はほぼ不可能である。――何故ならば――』
人々は王子をじっと見、次の言葉を待った。
『……何故ならば、あの『王国の守り石』を作ったのは、我が国が『伝説の悪女』と呼んできた魔女。――いや、稀代の魔法使いであった『マイラ カルトゥール』公爵令嬢なのだから』
お読みいただきありがとうございます!
いよいよ、国民へ向けて発表となりました。
ちなみに『』は発表する側が魔法で声を大きくしている状態です。




