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8 魔法の波動



 シェリーと楽しく学園の話で盛り上がった帰り道。ローズはある場所に立ち寄っていた。…それは、前世マイラの屋敷のあった場所。


 マイラが王国の裏切りにあい、親族に魔法をかけて逃す算段を付けてからこの屋敷に戻った時に、王国の者達にこの場所で手にかけられたのだ。

 ――つまり、前世マイラが死んだ場所。ローズにとって、死への恐怖と人間の闇の恐ろしさに震えた辛い場所でもある。


 ここは首都ルーアンの街の中心から少し外れただけの良い立地でありながら、伝説の悪女であるマイラの屋敷があった事で更地……、いや半分林になっているようだった。

 ローズは周りが誰も見ていない事を確認してからスッとその林に入る。一部崩れた2メートル程の高さの塀の中は、街のほぼ中心地とは思えないような有り様だった。

 きっと子供の遊び場にでもなっているのだろう。人が出入りしている形跡があった。

 ローズは一つ深呼吸をする。…うん、大丈夫。ここはもうあの時の、暗い闇に包まれた場所ではない。たくさんの木々が育ち生き物達が住むことで、あの闇は浄化されているのだわ。

 そのまま屋敷のあった場所まで歩いて行く。ここまでずっと木々が生い茂っている。そして、手をかざし気配を辿る。


 …あった。


 ローズはソレの封印を解き、転移で中に入った。

 ここは、マイラの屋敷の地下室だった場所。カルトゥール家とマイラ自身の大切な物を隠して封印してある。ここを封印し疲れ切ったところで敵がやってきて囲まれ命を落としたのだ。


「うん……。中はあの時のままね。封印してあったから埃一つ被っていないわ。このままダルトン子爵家の屋敷の下に地下室ごと転移させておくべきね」


 実は近々この辺りの再開発計画があるそうなのだ。まあここは首都ルーアンの一等地だろうし、よく今まで放置されていたと思う。そして掘り起こせばこの地下室にも気付かれてしまっただろう。封印してあるからそう簡単には開けられはしないだろうが……。


 ローズは中をざっと確認した後、自分ごとダルトン子爵家の地下にマイラの地下室を転移させる魔法を発動させた。



~~~~~




 アールスコート王国の王宮では、この国の王族や高位の貴族達が集まり重要な議論がなされていた。その議題とは、聖国の教皇がアールスコート王国の教会に派遣したという『聖女』に関して。


 ことの発端は魔法使いが少なく医療も遅れたアールスコート王国の王都の街で、低級とはいえ以前と比べて潤沢に『ポーション』が出回り出したことだった。しかもその品質は『中級ポーション』かと思う程に効きが良い。

 騎士団が調べ出した所、どうやらその『低級ポーション』は元は商業ギルドから売られているらしい。そして何度も聞き取りをしたり周囲を張り込んで商品の流れを調べたものの、取引先は何十軒もあり分からない。そしてどうもギルドは有耶無耶にしようとしている節もある。

 業を煮やした王国は商業ギルド長を呼び出し、国へのポーションの納入と新たなポーション作成者がいるならば国に仕えるよう伝えるようにと申し付けた。


 それがまさか、聖国の教皇から差し向けられた『聖女』だったとは。


 聖国には何十人もの『聖女』が所属している。大半は聖国にいるらしいが一定数各国に派遣されている。

 しかしながら、魔法使いに関して非常に評判の悪いアールスコート王国にはこの約200年間一度も『聖女』が派遣される事はなかった。教皇自ら『アールスコート王国には聖女は派遣しない』と宣言されるほどだ。

 それが我が国の苦境を見かねたのか、この度『聖女』が派遣されたという。それが、少し前から民間で話題になっていた『低級ポーション』の出所だというのだが……。


「…私は実を言うと腑に落ちないのだ。何故、最初から『聖女』を派遣したと言わなかったのか? こちらが調べ出してからまるで後付けのように『聖女』がいるだなどと……」


 レオンハルト王子は今回の教会の対応が、どうしてもおかしく思えてならなかった。…王子はこの国1番の魔法の使い手であり、名誉魔法師団長でもある。


「確かに、王国の組織である騎士団があちこちで調べ出し、追い詰められてから出してくるのは不自然ですな」


 宰相を務めるシュナイダー侯爵も訝しんだ。コレは、ポーションの作り手を王国側に渡さない為の、ギルドと教会の手口なのではあるまいか? と。


 魔法使いに嫌われてしまったこの王国には、王族に近い貴族くらいにしか大きな力を持った魔法使いは居ない。そしてこれは内密なのだが、今まで上級ポーションを作っていた古株の魔法使いが最近寿命で亡くなった。これまでも魔法使いやポーションの作り手を探していたが、ここに来て国は本気で新たな入手方法を確立せねばならなくなったのだ。

 低級とはいえ、質の良いポーションの作り手は喉から手が出る程に欲しい。


「そして不審な点は他にもあります。最初は商業ギルドは最近新たに5人ポーション作成者と契約したと言っていたのです。しかし、実際は1人の『聖女』だったのです」


 騎士団長サイラスはそう言ったが、


「それに関しては、教皇様は我が国の中枢に『聖女』の存在を知られない為、と仰っておられましたな。…教皇様は今まで、我が国には『聖女』は派遣しないと明言されておりました。そのご指示もあり『聖女』の存在を出来ればこちらに知られないようにしたのでは……?」


 信心深い1人の大臣はそう言った。そして実際にそのポーション作成者をこの王国は欲している。教皇様のお気持ちも分からないではない。

 …しかし、とレオンハルトは考え続けた。


 だいたい『聖女』が教会からポーションを出しているのなら、間に商業ギルドが入る必要があるのか? 普通に中間手数料がかかって高くなるだけだ。教会と商業ギルドには何か関係があるのか?


「それにしても、お一人であれだけのポーションを作り出せるとは! さすがは『聖女』様と言わざるをえませんな」


「…どうでしょう。ここは我が国の貴族との縁談を持ちかけては」


「『聖女』様の年齢もどのような方も分からぬのにか? 老婆であったらどうするのだ」


「それなりの家柄の、壮年で後添いを探しているような貴族ならばちょうど良い。『聖女』様がお年を召していたとしても、高位貴族の妻となれるならば喜ばれるのではないか」


「いや、それだともしもお若い方だった場合、後添えを勧めるなど馬鹿にされたとお怒りになられるかもしれん」


 …この者達は根本的な事を忘れている。レオンハルトは呆れたが、いつまでも終わりそうにない意味のない談義に仕方なく口を挟んだ。


「高位貴族の妻となるのが目的であれば、最初から『聖女』は姿を現している。この国の者と関わりたくないからこそ、正体を隠しているのだからな」


 盛り上がっていた口さがない貴族達はおし黙った。…しかし、『聖女』の情報がこれ以上はない為に会議は行き詰まり、暫し休憩を挟む事になった。


 ――その時。


「…ッ!?」


 ある程度の魔力を持った者なら分かったであろう、強力な魔法が使われた波動を感じたのである。

 ――しかも、その波動はアールズコート王国の王都ルーアンのこの王宮の近くが発生源だと思われた。ここからそう離れた場所ではないと推測される。


「…ッ!? なんだ? 何者かの襲撃か!?」


「この王都の中心近くではないのか!? 何があったのだ!」


 騒めく気付いた大臣達。そしてレオンハルト王子は騎士団長の方を見る。


「…サイラス!」


「…はっ! すぐに確認して参ります!」


 サイラスは素早く礼をし、部屋から出て行った。


 そして即座にレオンハルト王子は魔法の痕跡を追う。


「…王都中心地から少し東……。有力貴族達の屋敷が立ち並ぶ辺りから少し離れた場所……。ッ! まさか、『魔女の屋敷跡』か……!?」


 その言葉にその近くに住む大臣が声を上げる。


「今すぐ我が家の者に探らせましょう!」


 そして、魔法鳩を飛ばす。通常の伝書鳩よりも早いそれはすぐに家の者に連絡がつくだろう。


「…しかし、あの土地はもうすぐ再開発されると聞いたが……」


「やはり、あの土地に関わると『魔女の呪い』があるのでは……!」


 そんなやり取りを大臣達がする中、魔法師団長が名乗りをあげる。


「すぐに! 調べて参ります!」


「…私も行こう。皆の者! 今しばらく情報を収集し精査した後、改めて会議を行う事とする!」


 レオンハルト王子の号令に、他の大臣達も情報の収集に動き出すのだった。




お読みいただき、ありがとうございます。


今回ローズは恐る恐る、マイラの最期の場所へ行きます。ローズの中では本当はトラウマになっていました。

今の生活が安定してきて、信頼できる大人シェリーと学校の話など出来るようになり、心に少し余裕が出た事で気になっていた地下室に行ってみたのでした。

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