78 レオンハルトの告白
ローズは困ったようにレオンハルトを見つめる。そして一つため息をついた。
「……必要な行事の時だけ、ならば協力します。でもずっとは無理ですよ? 私は学生なんですから。そして人々の暮らしが守られるよう都市単位の『守り石』の制作はします。あとのことは、この国の主要な方々で国づくりを進められたらいいと思います。国民を守る事には協力しますけど、私はあくまでもただの一国民ですから」
ローズは自分がただの国民の1人である事を強調した。
「その事だが……。私達はクリストバル殿から魔女マイラの『名誉の回復』を条件として出された。それはつまり魔女マイラ カルトゥールの……『カルトゥール家』の復活を認めるという事でもある。
それに伴いローズ、君の先祖が200年前の戦争後ダルトン子爵家として生きてきた家を、『カルトゥール公爵』として復活させるべきだと考えている」
レオンハルトはローズの祖先の話を聞いた時からこの事をずっと考えていた。魔女マイラの弟が戦後生き残る為に密かに養子に入ったダルトン子爵家。……しかし本来は彼はカルトゥール公爵なのだ。
戦後にカルトゥール公爵の土地や財産は国に没収されたが、それは当然返還されるべきだ。200年も経っているからその土地は新たな所有者がいたり、その当時の財産をそのまま返すことは不可能かもしれないが、出来る限りの補償はしなければならないと考えている。
「それは、確かにそうですね……。しかもその令嬢は『聖女』様なのですから、そのご身分の保証にもよろしいかと思います」
テオドールはそうなれば『聖女』様は確実にこの国を守る為の『要』となってくれる。そしておそらくは両思いである兄との身分のバランスも取れると喜んで賛成した。
そこにパウロが声を上げる。
「しかしながら……。この国では『神の天啓』より有名な話が『伝説の悪女である魔女マイラ』です。王国は彼女を悪とする事によって国の正当性を語ってきました。そのせいで『神の天啓』の事は知らずとも子供からお年寄りまで『悪女マイラ』の話は知れ渡っております。
エルフ族のお言葉により今回彼女の名誉を回復という形で撤回する訳ですが、おそらくはその先入観はなかなか抜けないと思われます」
パウロが心配顔でそう語ると、レオンハルトも少し表情を曇らせた。
テオドールも心配しながら言った。
「確かに今すぐの新たなる『カルトゥール公爵家』への叙爵は偏見や風当たりは強いかもしれないですね……。無実の罪で公爵の爵位を剥奪されたのですから、いずれはそうしなければならないでしょうが……」
「……そうですね。それにいきなり公爵だなんて、父に相談しないと私からは何とも言えませんが……。
そして私としては静かな生活を望んでおります。これは国民の気持ち次第、ということで様子を見てからでも良いのではないでしょうか……」
ローズもいきなりの『カルトゥール公爵家』の復活に驚いた。
前世マイラの時も公爵家だったので『名誉の回復』をするとなれば、当然あの時不当に取り上げられた財産や爵位も復活させなければならない、という事は分かるのだが……。
「いや、魔女マイラの『名誉の回復』とカルトゥール公爵家の復活は同時に動き出した方がいいだろう。勿論、世論の声も聞きつつ調整していかねばならないだろうが……。ローズ、君もいきなり当事者となり大変になるとは思うが、これがエルフ族の希望である以上いずれ必ず行わなければならない。
また正式な話は後日となるが、ご家族で覚悟を決めておいてくれないか」
レオンハルトは『伝説の悪女』と呼ばれた魔女マイラの『名誉の回復』をするのならば、この流れでやり遂げないと国民や貴族達に中途半端な印象を与えてどこからか綻びが出来てしまう、と思った。
――国民や貴族達の前で我が国のこの『聖女』の素晴らしさを認めさせてみせよう。レオンハルトはそう決意したのだった。
「――レオンハルト殿下。そろそろ皆様お集まりでございます」
扉の向こうから、侍従の声が掛かった。レオンハルトが頷く。
「殿下方もすぐ向かうと伝えてくれ」
パウロが返事をし、ローズは「……それでは私はいったん失礼いたします」と立ち去ろうとしたが……。
「ローズ。……少し、いいだろうか?」
そう言ったレオンハルトにローズが返事をするより先に、テオドールやパウロは何やら訳知り顔で出て行ってしまった。
そして部屋にはレオンハルトとローズの2人だけ。
……レオンハルト様がラインハルト様と分かってから、初めて2人きりなのだわ……。まだ、彼は私に罪悪感を抱いて気を使ってくれているのかしら?
ローズはそう思いながらチラッとレオンハルトを見た。
すると、レオンハルトはずっとローズを見ていた。その瞳が切なげに見えてローズはどきりとする。……2人は暫くお互いの心を読むかのように見つめ合った。
「……ローズ、先に御礼を言わせて欲しい。
テオドール達から貴女が私を助けてくれた話を聞いたよ。『魅了』され命が尽きるまで『魔石』に魔力を注入していた私の為に駆け付け、回復魔法をかけてくれたと……。2人はあんなに強力な回復魔法は初めて見たと言っていた。私が今生きているのは貴女のお陰だ。本当にありがとう」
先に口を開いたのはレオンハルトだった。
「レオンハルト様……。あの時、私は誰かが助けを求めているような声が聞こえたのです。……先程の会議の間にマクレガー様にその話をしましたら、『おそらくそれは自分だ』と……。『魅了』され連れて行かれたレオンハルト様を助ける為に必死で叫ばれていたそうですよ」
ふふとローズは少し微笑みながらそう言ってから、今度は少し目を潤ませた。
「……間に合って、本当に良かったです……」
泣き笑いをしながらもレオンハルトを見つめる。
レオンハルトも泣きたいような切なさを覚えながら、ローズに自分の思いの丈を伝える。
「ずっと、貴女に会いたかった……。レオンハルトとして生きていて、カルトゥールの屋敷跡から大きな魔法の波動を感じた時から……いや、君が作ったポーションの澄んだ魔力を感じた時が最初かもしれない。……ずっと、何か特別なものを感じていた。そして魔女の屋敷跡で君の後ろ姿を見た時、私は心臓を鷲掴みにされたのだ」
レオンハルトのその言葉には、彼の心からの想いが込められていた。
「レオンハルト様……。私達は前世であんな別れ方をしたので、きっと何やらおかしな勘違いをしてしまったのですわ。
それに私達は生まれ変わったのです。前世の想いに引き摺られる事などなくて良いのですよ」
ローズはレオンハルトの今の人生を縛る事など望んでいない。彼は王族で王太子。今の彼には彼に相応しい人がいるだろう。
「そう、私達は生まれ変わった。……そして私は、また貴女に惹かれているのだ。ローズ。……貴女だけを」
レオンハルトは真剣な顔でローズのその金の瞳を見つめながら言った。ローズもレオンハルトの青い瞳を見つめる。
「ローズ。残念ながら今は時間がないが、私が本気である事だけは覚えておいて欲しい。……私との未来を考えておいて欲しい」
レオンハルトの本気さを感じるその言葉に、ローズはどうしていいのか分からなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
レオンハルトは前世の時の気持ちも今の気持ちもハッキリと自覚しています。対するローズは……。前世の気持ちは彼にあるものの、今は立場が違うし今のレオンハルトの事をそんなに知らないのでお互いに前世の気持ちに縛られるべきなのか悩んでいます。




