75 再会
ローズは自分をマイラと言い切ったオスカーを見つめ返した。
そんなローズを見て第3王子オスカーは皮肉げに嗤った。
「……ふ、ははは……。……笑っちゃうよね。前世では悪女と呼ばれた君が今世では聖女だなんて、さ」
ローズは驚き目を見張る。そんなローズの様子を見てオスカーは今度は満足げに笑った。
「……気付いていないとでも思った? 今世に転生したのは、君だけじゃあないってことだよ。ふふ……、さあて、僕は誰だと思う?」
得意げに饒舌に話し出したオスカーに、ローズは冷たい視線を送る。
「……マイラの周りで、ここまで愚かな人は1人しか居なかったわよ。……生まれ変わってもそれは変わらないのね」
「……なんだと!?」
その言葉にオスカーは表情を変えた。先程まで醜悪ながらも見せていた笑顔はなくなり、眉間に皺を寄せ憎々しげにローズを睨んだ。
「王弟ゲオハルト様。……貴方は生まれ変わってもまた同じように愚かな事をしていたのね」
「はっ……!? それは君も同じだろう、マイラ! そして君はまたしても破滅の道を歩もうとしている。僕と一緒にいれば幸せな人生を生きれたというのに……! ……ねえ、マイラ。前世に君は年齢が離れているから僕を受け入れられないと言っていたよね? 今の僕は君より年下だよ。今度こそ、僕と……!」
そう言って近寄ろうとするオスカーの前にローズは魔法で『防御』を張った。
「……それは貴方が何度も求婚してくるのを断った理由の内の一つよね? あの時も何度も言ったけれど、私は貴方と結婚するつもりなど全くないの。……それに貴方、最後は私を捕らえ拘束してまで『魅了』をかけようとしたでしょう? そんな事をする人を好きになるはずがないじゃない!」
本当に、前世から何度も何度も! 同じようなやりとりをしていたのだ。いい加減に理解して欲しいとローズは思った。
「……何を……、何を言ってるんだ! 僕は、君を愛している! 『魅了』しようとしたのは、君がいつまで経っても僕を見てくれなかったから……!」
「愛する人を『魅了』して、そんな操った状態の相手に愛してると言われてそれで貴方は満足なの? そんなのは愛じゃないわ!」
オスカーは眉間に皺を寄せ、そして勝手な思い込みで話し出す。
「違う! 愛してるんだ! ……ああ、またしても君はアイツに毒されているんだろう? あの邪魔な、ラインハルトに! ……まさかアイツも生まれ変わっているとは思わなかった……。
……ックソ! アイツに君を取られるくらいなら……!」
オスカーはそう叫んで急に壁に向かって走り、あるボタンを押そうとした。
『アイツも生まれ変わって……』
――アイツ……。まさか、ラインハルト様が? ……そう言ったの?
ローズは不意に聞こえた懐かしい、愛しいその名に一瞬呆然とし反応が遅れた。
「今度も僕のモノにならないなら、いっそ一緒に死ねばいい!」
ローズがハッとそれに気付いた時には、オスカーは壁で今まさに何かをしようとしていた。
――その時。
1人の男性が現れオスカーの手を取り、それを阻止した。
「ッ! 兄上ッ!?」
「……レオンハルト様!」
……それはこの国の第1王子であるレオンハルトだった。
レオンハルトは素早く魔法でそのボタンを破壊した。
「あぁ……! ッ兄上ぇ!! 何を……何をするんだぁっ!!」
それを見たオスカーは激昂した。……それはこの離宮を破壊する為のボタン。前世ゲオハルトが作った、いざという時に敵もろともこの建物を破壊するボタンだったのだ。
「ああ……ッ! くそくそッ! お前は……お前はいつもどこまでも、生まれ変わってまでも僕の邪魔をするぅッ! 絶対にマイラは渡さないぞッ! この……、クソラインハルトがぁッ!!」
オスカーは怒りのあまりに思わず叫んでいた。
レオンハルトとローズはその言葉に目を見開く。……そして、2人はお互いを見合った。
その時自分の失言に気付いたオスカーは慌ててローズに駆け寄ろうとしたが……。
「「捕縛」」
レオンハルトとローズ、2人に同時に魔法の鎖に捕われ身体を動かせなくされてしまった。
「う……! クソッ! ……マイラ! そいつはダメだ! そいつはこの国の第1王子なんだぞ!?」
尚も叫び続けるオスカーだったが……。雑音は全く耳に入らず、レオンハルトとローズはお互いに見つめ合いながら少しずつ歩み寄った。
……そして2メートルほど手前で止まり、見つめ合った。
「……ラインハルト様……、なのですか?」
ローズは恐る恐る尋ねた。
「……そうだ。君はマイラ、なのだね……。
……私は帝国のあの戦いで、戻れば君に大切な話をすると約束をした」
「……はい……」
ローズは真っ直ぐにレオンハルトの目を見て頷いた。レオンハルトは優しく微笑み頷き返す。……それから、少し苦しげな顔をした。
「それなのに、私はあの戦いから帰ることが出来なかった……。だが最後まで、マイラ、君の事を思っていた。……だがあの時私が国に対してした事は、とてもでは無いが許される事ではなかった……。約束を破って、本当に申し訳なかった……」
レオンハルトは心から彼女ローズに謝罪した。ローズは少し震えながら答える
「ラインハルト様……。私……あの後はそれまでずっと夢中になってた魔法の研究も、全然手に付かなくなって……。あの戦争を止める為に何が出来るか、そればかりを考えるようになってた。立ち止まったら自分が崩れてしまいそうで、ずっと走り続けてた。
……私……、あの時、もうあの戦争の終わりが見えていて、この国に戻って弟を助けた後……もう何も、無くなっていたの。自分が、もう空っぽになって……。だから、マイラの屋敷跡の地下室にカルトゥール家の大切な物と、貴方の……ラインハルト様のペンダントを仕舞ってから封印して外へ出たの。そして……」
そしてその後、マイラは王国軍に囲まれて21歳の生涯を終えたのだ。
「マイラ……! 済まなかった……。私は……私はあの時、張ってでも生きる事を選ぶべきだったのだな。貴女に、そんな辛い人生を歩ませてしまったとは……。
……ローズ。もしも私を許してくれるのなら……。この命を、貴女に捧げる。今度は一生貴女を1人にしないと誓う。だから今度こそ私と共に生きてはくれないか……?」
「ラインハルト様……、レオンハルト様!」
2人は涙を浮かべながら見つめ合った。
「……マイラ! マイラ!! ックソッ!! なんでだよッ! 君は、今度こそ僕と一緒になるんだッ! ……レオンハルト! お前なんて兄上じゃない! 絶対に……絶対に許さないからな!!」
オスカーは悪態をつきながら必死で叫び続けた。
「……確かに、あの男は許せないな」
叫び続けていたオスカーだったが、いきなり聞こえてきたその透き通るような美しい声にゾクリと鳥肌か立つ。
「ッ!? なっ……なんだ?」
背後を見ると、そこには輝くように美しい者たちが立っていた。
「……!! ……お前たち……、まさか、エルフ族か!?」
オスカーは怯えながらも頭の中で計算する。……エルフ達は先程兄レオンハルトを『許せない』と言った。もしや、ここから彼らは争い出すのでは……? そうなれば、その隙にマイラを……!
そう思い立ちニヤリと笑ったオスカーに、エルフ達は苦笑する。そしてオスカーの方を向いて言った
「お前は、いったいどうすればそのように自分の都合の良いように物事を考えられるのだ? 我らが、大切なマイラを悲しむような事をするとでも?
……確かに、私の大切な女性を横から掻っ攫われることは許せない。しかし……、マイラが……。ローズが彼を選ぶならば、私には何をいう権利もない。……ただ、愛する者が幸せになる事を願うのみ」
エルフ族の長はそう言って再びローズ達を見た。
お読みいただき、ありがとうございます!
レオンハルトはローズが連れ去られたと聞き、クリストバルに『転移』で連れて来てもらいました。
クリストバルは『遠視』でローズの様子を探っていましたが、オスカーが現れた事で急いで事情をレオンハルトに簡単に説明して飛んで来ました。




