74 先祖の呪い
「……だから、私はあなたの一族が私達に何をしたかの真実を知っている。……あなたの先祖、当時の私の叔父と伯母はあの戦争末期に私に『一族が危険だからすぐに国に戻れ』と連絡をしてきたわ。帰った私を待っていたのはありとあらゆる罠。そしてそれをくぐり抜けカルトゥールの屋敷に帰れば、そこにいるはずの一族や形のある価値ある宝物は無かった。……そして気配を辿ると倉庫に怯えながら隠れる弟がいた」
ローズはコンラートに事実を突き付けた。今後、彼が自分の一族の偽りを誇るなんて事がない様に。
「私は弟を知り合いの貴族に密かに預け、……そして屋敷に戻ったところを殺されたわ」
「……ッ!」
コンラートは、言葉もなくただ驚いていた。
「真の直系が生き延びた事を知らずに国外へ亡命した一族は焦ったはずよ。いつまで経っても子供達に力の継承がないのだから。数年経って、直系が生き残っている事を確信したんでしょうね。
彼らは本当は王国に戻って、出来ればその直系をなんとかしたかったのでしょうけど……。その時には戦争が終わり戦後補償の話で各国がアールスコート王国に入国しては『魅了』にかけられる、という状況。とてもではないけれど一族は王国に入り直系を探し出すなんて事は出来なかった」
「……!」
「もしかしたら、誰かは王国に入って多少は調べたのかもしれないけれど、見つからなかっただけかもしれないけれどね。だって、その頃のマイラの弟は力を封印されていたのですもの」
「……力を、封印……?」
やっと、ポソリとコンラートは呟いた。
「そう。マイラは幼い弟を守る為に彼の力を封印したの。だからどれだけ探しても弟は見つからなかったはずよ」
「ッ! ……そんな……!」
「……まあ、その代わり封印がそのまま解けなくて、やっと解けたのが今から半年前、なのだけれどね。約200年私達もカルトゥールの力を使えなかったし、私のお父様も本当にカルトゥールの一族か半信半疑なところはあったようよ?」
それを聞いたコンラートは激昂した。
「ッ! ……そんなッ! そんな簡単に封じてしまえる程の思い入れしかないのならば、さっさと力を我らに渡せば良かったのだ! 我が一族がどれだけその力を欲してその犠牲になってきたか……! お前達には分かるまい!」
コンラートの必死の形相に、叔父や伯母の妄執に捉われ続けた彼ら一族の苦難の道が少し分かった気がした。
……けれど。
「……分からないわね。私達家族は、力もなく貧乏で学園にも通えるか分からない程で苦労はしたけれど、決して不幸ではなかった。色々あったけれど周りの人々の助けもあって、家族で力を合わせて来たわ。
ありもしない力を追い求めて家族が犠牲になる事はなかった」
「ッなんだとッ……! 我らが不幸になったのはお前達のせいだ!! お前達は力を然程必要としていない癖に意地汚くそれを手放さなかった!
……我が一族の『悲願』を! お前達は踏み躙っていたのだ!」
なおも食い下がるコンラートに、ローズは憐れむような目で彼を見た。
コンラートはローズのその視線にたじろぐ。
「一族の、悲願? それはいったいどこの誰の為の悲願なの? ……あなた達は今はもういない先祖の亡霊に囚われている。
先祖が言った、という事だけを根拠に貴方達は全て自分の都合の良いように考え、それが正義だと信じて疑わない。
……それでいいの? 『先祖』の言葉以外の、貴方の本当の考えはないの?」
「……ッ! ……私は……!!」
……コンラートは、それきり黙ってしまった。その手は、震え固く握られていた。
ローズもただ黙ってコンラートを見た。
(……叔父様伯母様は、ご自分の子孫に随分な『呪い』をかけてしまったのね。力だけを追い求める、好きな人や自分のやりたい事を諦めなければならない人生……。『一族の悲願』という名の、子孫の人生を縛り付ける呪いを……)
マイラの一家を罠に嵌めただけでなく、自分の子孫の人生をも縛り付けた叔父と伯母の罪に、改めて呆れるローズだった。
しんと静まり返っていたその部屋に、どこからか足音が聞こえてきた。
音のした方を見ると、ギィ……という軋む音と共にただの壁に見えた扉が反転し、そこから見覚えのある人物が現れた。
「オスカー殿下……」
「……やぁ。なぁに? 2人して黙り込んで」
オスカーは13歳の少年らしく、可愛く微笑みかけてきた。
ローズとコンラートは途端に嫌そうな顔になる。
「まぁ……依頼主はきっと貴方だとは思っていたけれどね」
ローズが少し呆れ顔でそう言うと、オスカーはにこやかに微笑む。
そしてコンラートはオスカーに向かって言った。
「殿下。……私はもう降りさせてもらう。依頼された仕事は終わったしな」
オスカーは意外そうな顔をした。
「そうなの? でもいいの? カルトゥールに用があったんじゃないの?」
「いや……。もう私の用は済んだ。……そして、理解した」
ポソリと呟くように答えたコンラートに、オスカーは「ふーん」とさして興味も無さげに答えた。
「うん。まあいいよ。ここまでして貰えば僕にはもう充分だし。……ああ、一応他の人には見つからないように帰ってね」
「分かっている。……ではな」
コンラートは最後にチラとローズを見てから、『転移』で去った。
ローズもそれを見送る。
……先程の話でコンラートが本当に納得したかは分からない。だけど、何か思うことはあったようだった。
ローズは後は彼と彼の一族の問題、自分としてはマイラ側の立場の話をきちんとしたのだから、まあこれでよかったのだわと思った。
ふと視線を感じると、オスカーがジッとローズを観察するように見ていた。
「聖女様? 妬けちゃうな、さっきの男がそんなに気になる? ……ふふ。そして、ようこそ僕の離宮へ」
……そうだった。
このアールスコート王国の第3王子であるオスカーが今回レオンハルトを『魅了』した事で、彼が中心になって進めるはずの『王国の護り石』と『魅了』を排除する代わりに魔物達の暴走を止め諸外国との和平を実現させる、というこの国を救う計画を台無しにさせかけたのだ。
しかしレオンハルトは一命を取り留めたとはいえ『魅了』にかかっている。彼が正常な判断が出来なければこの話は難しくなるだろう。
――それに何より。
レオンハルトの、あの真っ直ぐな眼を、もう見られなくなってしまうなんて絶対に嫌――。
「……貴方はどうしてここに? 当然レオンハルト様の『魅了』は解除されたのでしょうね?」
「ふふ。さっきも言ったけれど、『魅了』は解けない。レオンハルト兄上は一生僕の言いなりになって生きるしかないんだよ」
「……ッ! ……そんなこと、分からないわ。絶対に彼を元に戻してみせるわ」
ローズは今世では、絶対にあんな風に苦しむ人を見たくないと思った。
そしてその強い意志でオスカーを見据える。
その姿はオスカーにはとても神々しく美しく見えた。オスカーはクスリと微笑む。
「やっぱり、美しいね……。カルトゥールのプラチナブロンドと金の瞳。……そして何より、その意志の強い目の光。君の身体から輝く金の光が視えるようだ。
……ねえ? マイラ」
オスカーはローズを自信ありげに見つめながら言った。
お読みいただき、ありがとうございます!
コンラートは話をしている内に、年長者としての自覚はどこかへ飛んでいってしまいました……。
一族は、ローズの父の姉と弟の一家達です。結婚してからもカルトゥールの一族の直系の力を持つ者として優遇され、それでいて自分達の子供には直系の力が無い事をずっと不満に思っていました。
そこに直系が失脚しそうなチャンスが巡ってきたので、それに飛びついた、という事でした。




